「デラックスエディション」ながらも、事実上のニューアルバム
Title:Music To Be Murdered By - Side B
Musician:EMINEM
今年1月、アルバム「Music To Be Murdered By」をサプライズリリースしたエミネム。そんな彼が、昨年の年末に、なんと再びサプライズリリースのアルバムをリリースしました。それが本作、「Music To Be Murdered By - Side B」。その「Music To Be Murdered By」のデラックスエディションという位置づけのアルバムで、CDでのリリースでは2枚組のアルバムとなります。以前から、「Music To Be Murdered By」に収録できなかった曲があり、それを近いうちにサプライズリリースする、という噂はあったようです。それがこの「Side B」ということになるのでしょう。今回、デラックスエディションとして追加の楽曲が収録されていますが、それがなんと全16曲(!)。それもアウトテイク集とかではなく純然たる新曲が並んでおり、これでもう1枚アルバムがリリースできたのでは?と思うほどの充実ぶり・・・というよりも、事実上、エミネムのニューアルバムと言っていい内容になっています。
今回のアルバムで大きな特徴となっているのが、2000年代初頭の、昔のエミネムを彷彿とされるような曲が目立つ点でした。ちょっとコミカルさとレトロさを感じるトラックに、淡々とした口調ながらもテンポよいラップを聴かせる「Alfrad's Theme」なども昔ながらのエミネムといった感じですし、「Book of Rhymes」もトラップ的なリズムが今風ながらも、不穏な雰囲気のサウンドで、そんな中でリスナーにつかみかかってくるようなスタイルのラップも彼らしい感じ。さらにラストを締めくくる「Discombobulated」も、メランコリックながらもコミカルな雰囲気の楽曲になっており、昔ながらもエミネムを彷彿とさせられます。
そこらへん、ある意味、昔ながらも彼のスタイルに保守的と感じる向きもあるかもしれませんが、その一方では、前述の「Book of Rhymes」ではトラップ的なリズムを取り入れていますし、「These Demons」などはトラップのリズムでいかにも今風な、メランコリックな要素の強い楽曲。このアルバムに限らず、最近のエミネムは良くも悪くも、「大御所」的なミュージシャンとなり、「今を時めく」といったタイプのミュージシャンではなくなってしまいましたが、楽曲を聴いていると、昔ながらのファンを楽しませるようなスタイルを維持しつつ、最近の音にもしっかりと興味を示していることを感じさせます。
また、今回のアルバム、先の噂のように「Music To Be Murdered By」に収録できなかった作品を集めたアルバム・・・かと思えば必ずしもそうではなく、前作「Music To Be Murdered By」以降の出来事を取り上げた楽曲もしっかりと収められており、そういう意味でも、エミネムのニューアルバム、といって過言ではない作品となっています。その「Music To Be Murdered By」以降に起きた出来事を取り上げている作品として象徴的なのがPVも作成された「Gnat」でしょう。これは昨年起きた、もっとも重要な出来事・・・そう、新型コロナウイルスについてエミネムが思うことをつづった作品。「COVID」という単語が登場するのはもちろん「ソーシャルディスタンス」「フェースマスク」「14日間の隔離」といった、このコロナ禍の中でうんざりするほど聴かされた単語も登場してくる、まさに「今」を象徴するような曲になっています。
さらにこの曲、トランプ前大統領ネタも登場し、それが「Ain't nothin' you say can ever Trump(お前らの発言がトランプを超えることはない)」というリリック。エミネムとトランプといえば、以前、トランプを強烈に皮肉ったラップを披露し大きな話題となった彼ですが、このリリックは、その後、多くのラッパーがトランプを批判する中で、そんなトランプへの批判に対して、大したことを言っていないと逆に皮肉るリリックになっており、ここらへんもエミネムらしいといえるかもしれません。
デラックスエディションという立て付けのアルバムですが、何度か言及しているように、エミネムの事実上のニューアルバムとなっている本作。さらに、ちょっと懐かしいスタイルが垣間見れるアルバムということもあって、昔からのファンによる若干保守的な意見かもしれませんが、個人的にはここ最近の作品の中では最も気に入った作品になっていました。彼一流の皮肉的な精神は全く衰えることのない今回のアルバム。コロナ禍の中でも彼の快進撃は続いています。
評価:★★★★★
EMINEM 過去の作品
RELAPSE
RECOVERY
THE MARSHALL MATHERS LP 2
REVIVAL
Kamikaze
Music To Be Murdered By
ほかに聴いたアルバム
In The Darkest Of Nights, Let The Birds Sing/Foster The People
アメリカのインディーポップバンドの新作は6曲入りのEP盤。ニューウェーブなシンセポップを楽しく聴かせるポップなアルバムで、80年代的な懐かしさも感じさせる作品になっています。直近作「Sacred Hearts Club」では以前の彼らの特徴だったサイケポップな要素が薄れ、メロディアスなポップ色が強まった作品になっていましたが、本作も基本的にはその路線を踏襲したポップなアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
Foster the People 過去の作品
Torches
Supermodel
Sacred Hearts Club
McCartneyIII/Paul McCartney
1970年にリリースした「McCartney」、1980年にリリースした「McCartneyII」のなんと40年ぶり(!)となる続編となる「McCartneyIII」。コロナ禍でのロックダウンの中、作詞作曲や歌はもちろん、ピアノやギターなど楽器演奏の多くを彼一人で行ったアルバム。基本的には宅録的なシンプルなポップチューンが多い中、アコギをつま弾く作品から70年代風のロック、ハードロックな作品などバリエーション豊富な作風に、ポールの才能を感じさせます。さすがに寄る年波に勝てなくなりつつあるボーカルが少々気になる部分はあるのですが、メロディーラインも素晴らしく、ポール健在を印象付けるアルバムでした。
評価:★★★★★
PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW
Egypt Station
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