メンバーそれぞれがボーカルを取った連作
Title:5EPs
Musician:Dirty Projectors
アメリカはブルックリンを拠点とするインディーロックバンドDirty Projectors。以前から高い評価を受けているバンドなのですが、非常にメンバーの出入りが激しいバンドでもあり、2017年にリリースされた「Dirty Projectors」の頃はメンバーが全員脱退し、フロントマンのデイヴ・ロングストレスのソロプロジェクトであった時期もありました。その後、メンバーが再び追加され、現在は再び5人組となった彼ら。そんな彼らが2020年にリリースしたのは、4曲編成のEPシリーズ5枚。それもそれぞれ別のメンバーがリードボーカルを務めており、さらに作風もそれぞれ大きく異なるというユニークな試み。本作は、そんな昨年にリリースされた5枚のEPをまとめたアルバムとなります。
まずアルバムの先頭を切るのがマイア・フリードマンのボーカルによる「Windows Open」。アコースティックギターを主軸に据えたフォーキーなメロディーを、彼女の清涼感あふれるボーカルで歌い上げる楽曲が並んでおり、Dirty Projectorsのイメージからすると、少々意外な印象すら受ける作風となっています。特に「Search For Life」などはカーペンターズを彷彿とさせるようなフォークロックナンバー。まずその美しい歌声とメロディーラインに聴き惚れる楽曲が並びます。
それに続くのはパーカッションのフェリシア・ダグラスがボーカルを取る「Flight Tpwer」。メロウなR&Bを基調とした楽曲が並んでおり、その楽曲のイメージがグッと変わります。また、パーカッショニストがボーカルを取る作品が並ぶ影響か、リズムが特徴的で耳を惹く楽曲が多いのも印象的。打ち込みのリズムが複雑な「Lose Your Love」やトライバルな作風の「Self Design」など、ユニークなリズムの楽曲が並びます。
第3弾の「Super Joao」はデイヴ・ロングストレスがボーカルを取る作品。こちらはボサノヴァの神様として知名度も高いジョアン・ジルベルトに捧げる形での作品となっており、アコースティックなサウンドで静かに聴かせるボサノヴァ調の作品が並ぶのが特徴的。これまたグッと作風が変わったかと思えば、続く「Earth Crisis」はキーボードのクリスティン・スリップがボーカルを取っているのですが、現代音楽的なストリングスや木管などのサウンドを取り入れた作品となっており、いままでの中ではもっとも実験度の高い作品となっています。
そして最後を締めくくる「Ring Road」は、まさにそれぞれバラバラだったメンバーが団結する、バンドサウンドを前に出したアルバムになっています。軽快なギターロックチューン「Searching Spirit」「No Studying」や男女ツインボーカルや打ち込みのリズムを取り入れたラストの「My Possession」など、まさにバンドとしてのDirty Projectorsをしっかりと聴かせる内容になっています。
こういうメンバーそれぞれがバラバラに楽曲を作り、それを1枚のアルバムとして無理やり集約する作品というのは珍しくはありません。UNICORNなどもソロでそれぞれ楽曲を作り、それをまとめた作品をリリースしていますし、ブルーハーツの「PAN」もメンバーがバラバラに作ったアルバム。さらに古くは、ビートルズの「ホワイトアルバム」などまさにその典型例でしょう。ただ、それらの作品はいずれもバンド解散直前に作成されており、バンドとして統率が取れなくなってきたころに作成されている作品がほとんどです。
しかし本作に関して言えば、いままではデイヴ・ロングストレスのワンマン色も強かったDirty Projectorsが、バンドとして一体化するため、メンバーそれぞれを前に押し出した作品をあえて作った、という印象を受けます。また結果として、Dirty Projectorsの音楽性のすそ野もグッと広がったようにも感じました。まさに最初はメンバーそれぞれがボーカルを取るEPが並びつつ、最後はバンドとして一体となるEPをリリースした、というリリースの流れが、バンドがバラバラになっているのではなく、むしろ一体感を強めているということを感じさせます。
もっとも、Dirty Projectors自体、非常にメンバーの出入りが多いバンドなだけに、今後、どう展開していくのかは非常に不透明なのですが・・・ただロックからフォーク、R&Bからボサノヴァまで取り入れた今回のアルバムは、これからの彼らの活動にも強い影響を与えそう。次のアルバムにも大いなる期待が持てそうな、そんなアルバムでした。
評価:★★★★★
Dirty Projectors 過去の作品
SWING LO MAGELLAN
Dirty Projectors
Lamp Lit Prose
ほかに聴いたアルバム
Covers/James Blake
James Blakeの新作は、配信限定となる6曲入りのEP盤。タイトルの通りのカバーアルバムになるのですが、なんと1曲目にいまをときめくBillie Eilish「when the party's over」のカバーに挑戦!ほかにもFrank Oceanやスティーヴィー・ワンダーなど、R&Bの楽曲を中心にカバー。どの曲もピアノと、彼の清涼感ある美しいボーカルで、完全にJames Blakeの色に染め上げており、しっかりと彼らしいアルバムに仕上げていました。
評価:★★★★★
JAMES BLAKE 過去の作品
JAMES BLAKE
ENOUGH THUNDER
OVERGROWN
The Colour In Anything
Assume From
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