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2020年12月14日 (月)

魅力的な戦前ジャズの世界

Title:The LOST WORLD of JAZZ 戦前ジャズ歌謡全集・続タイヘイ篇

ここでも何度も取り上げたことがある、戦前のSP盤復刻専門レーベル「ぐらもくらぶ」。ただ単に戦前のSP盤を復刻するだけではなく、非常にユニークな視点からの企画盤も特徴的で、通常なら見向きもされないような珍盤・奇盤を集めた「レコード供養~復刻されない謎の音源たち」だの、夜店の屋台で売られていたようなマイナーレーベルからのレコードを集めた「へたジャズ! 昭和戦前インチキバンド1929-1940」だの、独特の観点からのひねった企画が少なくありません。しかし、今回の企画は、ある意味、「正統派」ともいえる復刻企画。戦前のレーベル、タイヘイ・レコードからリリースされた戦前歌謡ジャズのSP盤を収録したアルバムで、以前リリースされた「タイヘイ篇」の続編となります。ちなみにこのタイヘイ・レコード、戦後は「日本マーキュリー」と名前を変え、昭和30年代まで多くの歌手を輩出したようです。

戦前のジャズというと、今の耳からするとやはり演奏面でも歌手の力量の面でも、今の感覚からすると古さを感じる部分が少なくなく、正直なところ、無条件でお勧めしやすいか、と言われるとちょっと抵抗感を覚えてしまう面も少なくありません。ただし、そういったちょっと「古さ」を感じさせる作風に慣れてくると、逆に昔ながらのシンプルさゆえに楽しめる曲も少なくなく、徐々に魅力的に感じてきていまいます。さらに言うと、この「戦前ジャズ」というジャンル、情報量が少ない中、当時、西洋の先端的な音楽であったジャズを必死に自らのものにしようとする、その時代の日本人の挑戦、あるいは努力を感じることができ、結果として拙さや、ジャズとは異なる独自の解釈を感じる部分もあるのですが、それがまた魅力にも感じます。

例えば冒頭を飾るのはタイヘイジャズボーイズなるグループの「南京豆売り」。キューバの物売りをイメージして作られたようで、曲風としては確かにジャズというよりはキューバ音楽的なリズムを感じさせます。ただ、これはこのCDの解説にも書かれていたのですが、演奏はあまり合っていない部分があります。しかし、そのチグハグさに妙な魅力を感じたりします。

2曲目の「思ひ出の唄」は伊東千枝子名義になっているのですが、その正体は、かの「ブルースの女王」淡谷のり子。コロムビアと専属契約だったため、そのままでは録音できず、この変名を用いたそうです。ただ、のびやかで感情たっぷりに歌われるボーカルはやはり今聴いても魅力的で、その実力を感じることが出来ます。

続く「ダイナー」は最初、比較的長いイントロでまずはインストの演奏を聴かせるのですが、こちらは軽快なアンサンブルを聴かせてくれており、今の耳で聴いても「ジャズ」として魅力的。当時の演奏水準の高さを感じます。

その後も「戦前ジャズ」と一言で言っても、「アロハオエ(ブルース)」はハワイアン。「ブルース」と題されているのですが、ブルースの要素は皆無。「アマポーラ」はラテンテイスト。「木曾シャンソン」に至っては木曽節を西洋音楽風に無理やりアレンジしたという曲になっていたりと、こちらもシャンソン的な要素はほとんど感じられません。かと思えば、それに続く「浪花節ルムバ」は、こちらも浪花節をむりやり西洋風にアレンジしつつも、こちらはリズムにルンバの要素を感じることが出来ます。このように、「ジャズ」といってもその実は、様々な西洋音楽の要素を入れつつ、さらに時として日本の昔からの音楽と無理やり融合させたりするゴチャゴチャな音楽。この西洋音楽の様々な要素を取り入れつつ、日本の音楽と融合させ、ごった煮的な音楽を作り上げているあたり、戦後の歌謡曲、あるいはさらにその後のJ-POPに通じる部分を感じます。

ほかには聴きどころとしては、丸山和歌子の「私がお嫁に行ったなら」の可愛らしいボーカルと歌詞が魅力的ですし、「ピエロとお嬢さん」のコミカルで可愛らしい掛け合いも魅力的。また、「忘れらぬブルース」の澤雅子の力強く哀愁たっぷりのボーカルにも耳をひかれます。全22曲、魅力的な戦前ジャズの世界を存分に楽しむことが出来るオムニバスアルバムになっていました。

最初は古さを感じてとっつきにくい部分があるかもしれませんが、徐々にはまっていってしまう戦前ジャズの世界。その最初の1枚としても最適なアルバムかもしれません。そんな魅力的な曲がたくさん収録された好企画。この「戦前ジャズ歌謡全集」、そのタイトルの通り、ほかのレーベルも期待します!

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

So Special Christmas/MISIA

MISIAの最新作は「This Christmas」「White Christmas」などクリスマスのスタンダードナンバーのカバーや「THE GLORY DAY」「アイノカタチ」など自身の代表作のセルフカバーを収録したクリスマスアルバム。ちなみに本作では、知的障害のある人たちにオリンピック競技種目に準じた様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織であるSpecial Olympicsの理念に共感して制作されたアルバムとなっており、タイトルの「SO」とは、「Special Olympics」の略称。また、「SO」の日本組織「公益財団法人スペシャルオリンピックス日本」に、収益の一部は寄付されるそうです。

そんな本作。伸びやかで力強い歌声で歌われるクリスマスのスタンダードナンバーのカバーも素晴らしいのですが、MISIAのオリジナル曲も、爽快さと荘厳さを兼ね備えたような曲が多く、クリスマスのイメージにもピッタリ。MISIAらしい、聴いていてクリスマスの気分になってきてワクワクさせられるアルバムになっていました。コロナ禍で、クリスマスのイベントもままならない状況ですが、そんな中で少しでもクリスマス気分を味わえる、そんな1枚です。

評価:★★★★★

MISIA 過去の作品
EIGHTH WORLD
JUST BALLADE
SOUL QUEST
MISIAの森-Forest Covers-
Super Best Records-15th Celebration-
NEW MORNING
MISIA 星空のライヴ SONG BOOK HISTORY OF HOSHIZORA LIVE
MISIA SOUL JAZZ SESSION
Life is going on and on
MISIA SOUL JAZZ BEST 2020

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