10曲10ジャンルのノン・フェイドアウト・アルバム
Title:23歳
Musician:KAN
KANちゃんの待望のニューアルバムがリリースされました!約4年9ヶ月ぶりのニューアルバム。タイトルは「23歳」。現在、58歳のKAN。デビュー23周年・・・という訳ではなく、彼が大学5年生だった23歳の思い出を今と結び付けた表題曲「23歳」が収録されていますが、それだけ思いのある年齢ということのようです。ちなみに「23」という数字が彼が大好きな素数であることは言うまでもありません。
今回のアルバムのコンセプトは「10曲10ジャンルのノン・フェイドアウト・アルバム」。「ノン・フェイドアウト」というのは偶然そうなっただけらしいのですが、曲の終わりを安易にフェイドアウトにすることなく、曲の終わりをしっかり作る点、KANのポップス職人としてのこだわりを感じます。そして、それ以上に大きな特徴なのが「10曲10ジャンル」という点。もともと、ポップス職人の彼は、いろいろなミュージシャンの曲調を真似て曲をつくったり、様々な曲のジャンルに挑戦していたりします。今回のアルバムはその上で、1曲1曲が音楽性が違うという、まさに彼の実力がフルに発揮されたアルバムになっています。
とにかくマージ―ビート調の「る~る~る~」からスタートし、シティポップ風の表題曲「23歳」、シンプルなポップチューン「ふたり」に、TRICERATOPSがバンドとして全面的に参加したハードロックチューン「君のマスクをはずしたい」、ピアノとストリングスでスケール感あるバラードナンバーとなっている「キセキ」(途中のギターソロに秦基博が参加!)に、またまた登場した中田ヤスタカ風エレクトロポップ「メモトキレナガール」と、1曲たりとも同じジャンルの曲はありません。
後半の「コタツ」は2019年に急逝したシンガーソングライターヨースケ@HOMEとの共演曲。以前、彼と組んでいたバンドCabrellsの曲として用意していた曲だそうで、このたび、初音源化。ヨースケ@HOMEとの共演曲ということで、ちょっとKANの曲とは異なる感じのあるカントリー風のナンバーになっています。その後も「ほっぺたにオリオン」はジャジーなベースラインにドゥーワップの要素を入れた楽曲。そして先行シングルになった「ポップミュージック」はアップテンポで懐かしさを感じさせるディスコチューン。アイドルグループJuice=Juiceが直後にカバーし、こちらはヒットを記録しているのですが、やはりちょっとメタ視点が入りつつ、ディスコチューン全盛期の80年代を懐かしがる歌詞はKANが歌った方がやはりピッタリとマッチしているなぁ。そしてラストは彼の王道とも言えるピアノバラード「エキストラ」で締めくくられます。
そんな訳で、まさに10曲10ジャンルというコンセプトがピッタリな、タイプが見事バラバラな10曲が並ぶアルバム。ただ、それにも関わらず、全体的にバラバラという印象が全くないのは、どの曲もKANらしさがあふれているからなのでしょう。まさにポップス職人KANの魅力が満載のアルバムになっています。
ただ一方、それだけサウンド面で凝ったアルバムだったためか、一方、歌詞については彼のアルバムとしては若干印象が薄かったようにも感じてしまいました。もちろん、タイトル通り、昔を思い起こす表題曲の「23歳」や前述の通り、メタ視点も入ってユニークな「ポップミュージック」、さらには、いかにもこのコロナの状況を反映した「君のマスクをはずしたい」など、ユニークな曲は今回も目立ちます。特に、先日も紹介した熊木杏里しかり、チャラン・ポ・ランタンしかり、コロナの状況を描いた歌詞の曲が目立つ中、ある意味、ユニークに身も蓋もない男性の女性に対する感情をストレートにうたった「君のマスクをはずしたい」はまさにKANらしい歌詞だと言えるでしょう。
またラストの「エキストラ」はしんみり聴かせるラブバラードですが、歌詞が女性視点というのが新鮮。KANの楽曲では女性視点の曲ははじめてだそうですが、そういう意味では彼の挑戦を感じる曲になっています。そんな感じで歌詞についても、もちろん魅力的な曲が並んでいるのですが、ただそれでも、いままで彼の書いてきた魅力的な歌詞の数々の中には埋もれてしまうかな、といった印象を受けてしまいました。
もっとも、アルバム全体としては今回の作品も申し分ない傑作アルバム。ちなみにDVDには今回もレコーディング風景を映しているのですが、今回もまた、ただ漫然とレコーディング風景を映している訳ではなく、しっかり彼の拘ったポイントを編集して、曲の聴きどころを収録したDVDになっています。TRAICERATOPS和田唱のロックおたくぶりを感じる映像もあったりして(笑)なにげにトライセラファンも要チェックかも。
評価:★★★★★
KAN 過去の作品
IDEAS~the very best of KAN~
LIVE弾き語りばったり#7~ウルトラタブン~
カンチガイもハナハダしい私の人生
Songs Out of Bounds
何の変哲もないLove Songs(木村和)
Think Your Cool Kick Yell Demo!
6×9=53
弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば
la RINASCENTE
la RiSCOPERTA
ほかに聴いたアルバム
Q.E.D/BLUE ENCOUNT
これが4枚目となる4人組ロックバンドの新作。基本的にはアップテンポなバンドサウンドで押しまくる、いかにも今風なフェス仕様のロックバンドといった感じ。メロディーラインはメランコリックに聴かせる曲も多く、ここらへんは耳を惹くところでしょうか。ただ、ポップなメロは平凡なJ-POPといった印象も強く、もうちょっとインパクトある個性が欲しい感じか。ただ、ラストの「喝采」は力強い歌詞とメロディーラインで強い印象に残る曲にはなかっていたのですが。
評価:★★★
BLUE ENCOUNT 過去の作品
≒
THE END
VECTOR
SICK(S)
PORTAS/中田裕二
このコロナ禍の自粛期間を利用してか、前作からわずか半年というインターバルでリリースされた中田裕二のニューアルバム。ただ、作品的には歌謡曲の要素も入った哀愁感たっぷりのメロディーを聴かせるミディアムテンポのムーディーなナンバーの連続で、良くも悪くもいつもの彼らしい楽曲ばかり。まあ、正直なところ「大いなるマンネリ」といった感じで、目新しさはありません。その一方で、安心して聴けるアルバムではありますが。
評価:★★★★
中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness
NOBODY KNOWS
Sanctuary
DOUBLE STANDARD
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