いつもの彼女とは異なるサウンド
Title:アダンの風
Musician:青葉市子
シンガーソングライター青葉市子の7枚目となるニューアルバムは、いつもの彼女のアルバムとは少々異なるコンセプチュアルなアルバム。まず、いつもの淡い色、一色で塗りつぶされただけのジャケットとは異なり、全裸の女性が泳いでいるジャケット写真にまずは驚かされるのですが、今回のアルバムは、架空の映画のサウンドトラックというコンセプトで作成された作品。彼女が1月に長期滞在した沖縄の島々で着想された作品になっているそうで、今回は作編曲に、梅林太郎が共同制作者として参加しています。
そんなこともあって、今回のアルバム、いつもの青葉市子の楽曲とは、特にサウンドの面で大きく異なります。いままでの彼女のアルバムは、基本的にシンプルなアコースティックギターの演奏のみで彼女の歌を静かに聴かせるスタイルなのですが、今回はイントロ的な1曲目「Prologue」から、まずはストリングスの音色を分厚く展開させ、バックには海の音を入れ、非常に幻想的な作風に。いかにも映画のサントラらしい、ちょっと重々しい雰囲気からアルバムはスタートします。続く「Pilgrimage」も、室内楽的な編成のサウンドを聴かせる楽曲に。いつもの彼女の曲とは異なる分厚いサウンドが耳を惹きます。
さらに「Porcelain」はストリングスや笛の音色を入れたさわやかなサウンドをバックに、青葉市子が静かに歌い上げる楽曲。基本的にはアコースティックな楽器ばかりなのですが、ただいままでの彼女の作品ではあまり見られなかった鮮やかさのある曲に仕上がっています。「Hagupit」もストリングスの音色をゆっくりメランコリックに聴かせる作品。のびやかなストリングスの悲しげな音色が印象に残る楽曲になっていますし、「Dawn in the Adan」も軽快なアコギの音色をバックにストリングスの音色が彩りを添えています。
また、中盤には「Parfum d'etoiles」のような、ピアノの音色に鳥の声など自然の音をサンプリングさせたインストチューンや「霧鳴島」のようなハミングのみを美しく幻想的に聴かせる曲も登場。いずれもある意味、映画のサントラをイメージしているアルバムらしい劇伴曲らしい雰囲気の曲といえるのですが、サウンド的にはバリエーションを感じさせる曲になっています。特に前半はほぼアカペラの「帆衣」などを含めて、バリエーション豊かな作風の曲が展開している構成になっており、いつもの青葉市子のアルバムとは大きく異なるイメージを受ける展開になっています。
もちろん一方では、いままでの彼女の曲と同様に、静かなアコースティックギターの音色のみで美しい彼女の歌声を聴かせるような楽曲も少なくありません。「Sagu Palm's Song」や「血の風」など、いつも通りアコギ1本で聴かせる楽曲も並んでおり、ここらへんはいつもの彼女らしい楽曲ということを感じさせる曲になっているのではないでしょうか。
そんな訳で、室内楽的なサウンドを多く取り入れ、いつもの青葉市子のアルバムとは雰囲気の異なるサウンド構成となった今回のアルバム。とはいえ、様々なサウンドを取り入れたとはいえ、基本的にはアコースティックなサウンドには変わりありませんし、また、彼女の静かなウィスパー気味の歌声を中心に構成された楽曲という点ではいままでと変わらず。「架空の映画のサントラ」というコンセプトなのか、いつもよりは幻想的な作風になっているのですが、そこらへんを差し引いても、彼女のいままでのアルバムを気に入っていたファンが今回のアルバムで抵抗感を覚えるか、と言われると、彼女のイメージをガラリと変えてしまうほどの大きな変化ではありませんでした。そういう意味では、いい意味で青葉市子のミュージシャン性を広げる結果となったアルバムともいえるのではないでしょうか。彼女の新しい魅力も感じさせる1枚でした。
評価:★★★★★
青葉市子 過去の作品
うたびこ
ラヂヲ(青葉市子と妖精たち)
0
マホロボシヤ
qp
"gift" at Sogetsu Hall
ほかに聴いたアルバム
Applause/ストレイテナー
約2年7か月ぶりとなるストレイテナーのニューアルバム。もともとバンドサウンドを全面に押し出しつつ、メロディーラインのポップスさも光っていた彼らですが、今回のアルバムは、よりポップなストレイテナーという側面を前面に押し出したアルバムに。全体的にもいつものアルバム以上に爽やかさが増した印象を受けるアルバムで、素直にポップスアルバムとして聴いていて心地よさを感じました。相変わらず楽曲の出来不出来が曲によって差があり、そういう意味で傑作アルバムというには惜しいアルバムではあるのですが・・・ここ最近のアルバムの中では一番の出来だった作品でした。
評価:★★★★
ストレイテナー過去の作品
Immortal
Nexus
CREATURES
STOUT
STRAIGHTENER
21st CENTURY ROCK BAND
Resplendent
Behind The Scene
Behind The Tokyo
COLD DISC
Future Soundtrack
BEST of U -side DAY-
BEST of U -side NIGHT-
Black Map
深海の街/松任谷由実
ユーミンの約4年ぶりとなるニューアルバム。哀愁感の強いメロディーの曲が多く、全体的に「和風」な雰囲気を強く感じました。楽曲的にはいつものユーミンといった感じの作品で、「大いなるマンネリ」気味なのは否定できず。ただ、ところどころにフレーズにしろ歌詞にしろ「おっ!」と耳を惹きつけられる瞬間がある点は、さすがの実力を感じさせます。もっとも今回のアルバムで大きく気になったのはボーカル。もともと決して上手いボーカリストではありませんが、今回は特に声が出ておらず、正直なところ、寄る年波を感じてしまいました。ここはちょっと辛いなぁ。今後、このボーカルの衰えをどのようにしていくのかが、かなり気になってしまったアルバムでした。
評価:★★★★
松任谷由実 過去の作品
そしてもう一度夢見るだろう
Road Show
日本の恋と、ユーミンと。
POP CLASSICO
宇宙図書館
ユーミンからの、恋のうた。
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