コロナ禍を強く反映されたアルバム
Title:なにが心にあればいい?
Musician:熊木杏里
シンガーソングライター、熊木杏里の12枚目となるフルアルバム。新型コロナの蔓延が続いており、特にここ最近は第3波として再び感染者数が増加する傾向にあります。そんな中、コロナ禍の最中に楽曲制作を行ったアルバムのリリースが増えてきており、例えば「2020」というそのものズバリなタイトルのアルバムも少なくありませんし、先日紹介したチャラン・ポ・ランタンの「こもりうた」のような、コロナ禍をストレートに反映させたアルバムも出てきています。
今回の熊木杏里のニューアルバムも、コロナ禍での自粛期間に作成されたアルバム。そして、今回のアルバムは強くその影響が反映されたアルバムになっていました。まず顕著だったのが、その歌詞の内容。新型コロナの中での不安な状況の中で、それでも明日への希望を感じさせるような曲が目立ちます。「『また明日』を信じて/笑顔でいたいから」と歌う「幸せの塗り方」もそうですし、
「ことあるごとに
私たちは強くなるのでしょう
先が見えなくて
優しさを少し失いかけた あの日も」
(「ことあるごとに」より 作詞 熊木杏里)
と歌う「ことあるごとに」の歌詞も現在の状況を彷彿とさせます。また、「光のループ」の
「行こう 初めての明日になる
そのための悲しみだ」
(「光のループ」より 作詞 熊木杏里)
という歌詞にも強いメッセージ性を感じます。また、ほかにもふるさとの両親を思って書かれた「ノスタルジア」も非常に歌詞が染み入る楽曲なのですが、コロナ禍だからこそ、会えない親を思って書かれたと言えるでしょうし、また「青葉吹く」も高校時代の友人とのリモート飲み会をきっかけに誕生した曲だそうで、そういう点でも、今だからこそ生まれた曲になっています。
さらに今回のアルバムの楽曲は、この状況だからこそ、あえてライブを意識した作品になったそうです。どちらかというとアコースティックベースの楽曲がメインの聴かせるタイプのSSWの彼女がライブを意識して、というのもちょっと意外な感もあります。ただ、バンドのメンバーですら直接会うことがはばかられ、リモートの状況で、むしろアコースティックや宅録的な楽曲が増えがちな中、あえてライブを意識した作品を作るというあたり、彼女のミュージシャンとしての矜持やこだわりのようなものを感じます。
まあ、だからといって急に音が分厚くなったり、だとか、ロックな作品が出てきたり、という訳ではなく、基本的にアコースティックベースでのサウンドという点は変わりありません。ただ、前々作「群青の日々」や前作「人と時」は比較的アコースティック寄りの作品だったのに対して、本作では「ことあるごとに」ではバンドサウンドを取り入れたり、「一輪」ではストリングスを入れてきたりと、ライブをより意識したようなサウンドになっていました。
比較的、素朴なスタイルのSSWといった印象もある彼女ですが、あえてコロナの状況を意識してメッセージを込めた楽曲を作り上げるあたり、意外に骨太な側面を感じさせるアルバムでした。まあ、以前から、意外と社会派な歌詞も登場したりと、骨太な側面は感じられたのですが。もっともメロディーラインやサウンドはいつもながらの彼女といった感じで、安定感もあり、安心して聴ける作品ではあると思います。ただ個人的には、いつもの彼女のアルバムの中では、より聴き応えがあり、楽曲のインパクトもあったように感じました。個人的にはもっと注目されるべきSSWだと思うのですが・・・コロナ禍だからこそ生まれた良作でした。
評価:★★★★★
熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道
飾りのない明日
群青の日々
殺風景~15th Anniversary Edition~
人と時
熊木杏里 LIVE “ホントのライブベスト版 15th篇" ~An's Choice~
ほかに聴いたアルバム
BRAND NEW CARAVAN/T字路s
男女ブルースデゥオによる3枚目のオリジナルアルバム。とにかく伊東妙子のパワフルなボーカルが強く印象に残るグループで、彼女のしゃがれ声に、これでもかというほどの声量のあるボーカルがド迫力。音楽的には「ブルースデゥオ」という呼び名のグループながらも、ムーディーな昭和歌謡曲的な要素が強く、そこにガレージロックやカントリー、フォークの要素を取り込んで、哀愁感たっぷりの音楽性を醸し出しています。私がこれを聴くのはこれが2枚目。その伊東妙子のボーカルは文句なしに迫力満載、なのですが、前作も感じたのですが、メロディーや歌詞のインパクトがボーカルに追い付いていない感じも。そういう意味で惜しさは感じつつ、ボーカル含めてバンドとしての個性は十分すぎるほど感じるため、これからの活躍にも注目したいグループです。
評価:★★★★
T字路s 過去の作品
PIT VIPER BLUES
In the Fairlife/浜田省吾
ハマショーの新作は、もともと、浜田省吾と彼の長年のパートナーであるアレンジャーの水谷公生、そして水谷公生夫人であり、小川糸名義で小説家としても活動している春嵐の3人によるユニット、Fairlife名義で発表された楽曲を、浜田省吾の歌唱によりカバーした8曲入りのミニアルバム。そのため、全体的にはミディアムテンポで聴かせるポップソングがメインで、いかにもハマショーといった感じの曲はあまりありません。それ以上に普段のハマショーと異なるのが歌詞の世界で、明らかに普段の彼の書く歌詞とは異なる、やわらかさの感じる、女性的な歌詞の世界は若干異質。正直言うと、ハマショーのボーカルとマッチしていないような印象もあり、違和感もありました。決して悪いアルバムではありませんが、浜田省吾を聴きたい!と思って聴くと、肩透かしにくらうかも。
評価:★★★
浜田省吾 過去の作品
the best of shogo hamada vol.3 The Last Weekend
Dream Catcher
Journey of a Songwriter~旅するソングライター
The Moonlight Cats Radio Show Vol.1(Shogo Hamada&The J.S.Inspirations)
The Moonlight Cats Radio Show Vol.2(Shogo Hamada&The J.S.Inspirations)
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