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2020年12月 5日 (土)

差別への怒りをぶつけたライブ盤

Title:LIVE
Musician:Angel Bat Dawid

今回紹介するのは、新進気鋭のジャズミュージシャンとして注目を集めている、シカゴを拠点として活動するジャズミュージシャン、Angel Bat Dawidのライブアルバムです。作曲家、クラリネット奏者、ピアニストとしての顔を持つ彼女ですが、このジャケット写真からすると、むしろパワフルなソウルボーカルをイメージさせられるかもしれません。そして実際に、このライブアルバムを聴くと、ジャズというよりもむしろ個人的にはソウルのアルバムという印象すら抱く作品となっていました。

本作は2018年11月に行われたシカゴでのライブや、2019年11月にベルリンで行われたジャズフェスティバルの模様などを収録したライブアルバム。そんなアルバムの冒頭、いきなり「ever since I’ve been here y’all have treated me like shit!"(私はここに来てからずっとゴミみたいな扱いを受けてる!)」と叫びだし、バンドメンバーが落ち着かせようとするシーンからスタートし、ある意味、度肝を抜かれます。この言葉をわざわざライブアルバムに収録しているのは、どうもライブステージ自体(特にベルリンでのステージにおいて)現地での性差別・人種差別を目の当たりにした彼女が、差別への怒りを表現したパフォーマンスになっているそうで、ラストの「HELL」では、現地のジャズフェスティバルのパネルディスカッションの朗読を収録。ボーカルにエフェクトをかけられているため、私のつたない英語力では聴き取れないのですが、パワフルな彼女の叫びに、その怒りを強く感じるトラックになっています。

まさにそんな彼女の叫びを体現化したこのライブアルバムでは、(基本的にクラリネット奏者、ピアニストのはずなのですが)彼女のパワフルなボーカルに終始圧巻されるような内容に仕上がっています。冒頭の叫びが収録されている「Enlightenment」も自ら演奏するピアノと同化し、どんどんボーカルがパワフルに。バックに流れるフリーキーなサウンドを合わせて、リスナーを圧巻する内容になっていますし、タイトルを力強く連呼する「Black Family」も、彼女の主張をそのボーカルから強く感じることが出来ます。フリーキーなサウンドをバックに聴かせる「We Are Starzz」もメランコリックなメロに哀愁感たっぷりに力強く聴かせるボーカルが印象的ですし、事実上のラストとなる「Dr.Wattz n'em」は終始、彼女のパワフルなボーカルを前面に押し出した作品になっていました。

そんなパワフルでソウルフルなボーカルが前面に押し出された作品であるがゆえに、ジャズのアルバムというよりはソウルのアルバムという印象を受けてしまう本作。実際、ソウルやR&Bが好きな方なら、おそらく本作は気に入るのではないでしょうか。ただもちろん、ジャズの演奏もしっかりと魅力的に聴かせてくれます。基本的には、フリーキーな演奏がベースになっており、「We Hearby Declare the African」「Melo Deez from Heab'N」ではかなりダイナミックなプレイも聴かせてくれます。サイケ的な要素も強く、そういう意味ではロックリスナーも楽しめる内容かもしれません。さらに「The Wicked Shall Not Prevail」ではトライバルなパーカッションでアフリカ音楽の要素も押し出してきたりして、おそらく彼女の出自を主張しているのでしょうが、この点でもジャズにとらわれない幅広い音楽性を感じさせます。そのような様々な音楽の要素が一体となり、パワフルな演奏とともにリスナーの耳に襲いかかる本作。とにかく終始、圧倒されるライブアルバムになっていました。

聴き終わるとグッと疲れるようなライブアルバムになっているのですが、それだけ彼女のパワーがみなぎっているそんなアルバムだったように感じます。差別への怒りは、言葉の壁がある私たちにはストレートには伝わってはこないかもしれませんが、彼女の演奏を通じて、確実にリスナーの心に届いているのではないでしょうか。とにかく圧巻のライブアルバムで、生でも演奏も是非聴いてみたい、そう感じさせる内容でした。これは本当にすごいライブアルバム。是非一度、このパワーを体験してみてください。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

100 Years of Blues/Elvin Bishop&Charlie Musselwhite

ギタリストのエルヴィン・ビショップとブルース・ハープ奏者、チャーリー・マッスルホワイトの共演によるブルースアルバム。どちらも大ベテランのレジェンドとも言える彼ら。作品的には特に目新しさはない、昔ながらのブルースの作品といった感じなのですが、どちらも心の底からブルースの演奏を楽しんでいるような作品になっており、聴いていてこちらもハッピーな気分になれるようなアルバムになっていました。どちらもそろそろ80歳に近い年齢の彼ら。いつまでもお元気で!

評価:★★★★

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