今の時代を描いたミニアルバム
Title:2020
Musician:THA BLUE HERB
ここ最近、コロナ禍に大きな影響を受けたアルバムの紹介が続いてきました。今回紹介するアルバムも、タイトルからもわかるように、コロナ禍に襲われた、この2020年をストレートにテーマとしたミニアルバム。まずジャケット写真から象徴的。路上に落ちているゴミの中に、マスクが落ちているというところ、今年という年を象徴している写真となっています。「2020」というタイトルのアルバムも今年数多くリリースされていますが、本作もそんな1作に名前を連ねる作品。ただ、THA BLUE HERBが刻む2020年をテーマにしたHIP HOPである以上、このコロナ禍の現状に対して、非常に力強いメッセージを与えているアルバムになっています。
全5曲入りのミニアルバムですが、まず前半はさほどストレートに今年を描いたような作品とはなっていません。1曲目の「IF」は前向きなメッセージソングですが、特にコロナとは直接関係ないリリック。ただ、前に進もうとしている人に対するメッセージソングとなっており、コロナ禍の中で不安を感じる人たちへの強いメッセージを感じさせます。また、続く「STRONGER THAN PRIDE」では、まず最初にサンプリングされている、おそらくライブのMCが印象的。「静かにたたずんでいる人もちゃんと見ているから」というMCのメッセージは、おそらくコロナでこんな状態になる前のライブで発せられたMCだとは思うのですが、例えライブを実施しても、大きな声を出すことが出来ない、今の状況に力強く響いてくるメッセージになっています。
3曲目「PRISONER」もコロナ禍に直結する歌詞ではありません。何かの罪を犯して収監される友人に対するメッセージを歌った曲。薬物犯罪か何かでしょうか?その罪の詳しい内容はわかりません。こちらもコロナ禍に直結するような曲ではないのですが、ただ、罪を犯した有名人に対するバッシングが激しさを増しているような現在の状況に対するアンチとしてのメッセージ性を感じさせる曲になっています。
そして、後半の2曲、まさにこのコロナ禍の中でのメッセージソングとなっており、強い印象を受ける曲となっています。まずはタイトルそのまま「2020」。トランプ大統領や東京オリンピックまで登場し、現在の社会情勢を描いたこの曲。そこに登場し、静かに語られる出来事は、2020年という今年を振り返ると、複雑な思いでとして心によみがえってくるのではないでしょうか。不安な思いも渦巻くようなリリックなのですが、「ここが峠」「反転攻勢」と、そんな中でも前に向かおうとするメッセージが強く心に響いてきます。
さらに印象的なのが最後を締めくくる「バラッドを俺等に」でしょう。ミディアムテンポのメロウなトラックにのせて綴られるリリックは、人と会うことがはばかられる今だからこそ、逆に人との出会いを描いた内容。こちらも前向きなメッセージが印象に残る作品で、聴き終わった後、BOSSの力強いメッセージを聴いたという充実感を覚えるような作品になっていました。
もともとメッセージ性が強い彼らの作品ですが、今回のアルバムに関しては、そのメッセージがより強くなった作品だったように感じます。逆に、メッセージ性が強く、かつ2020年の今年にリリースすることを主眼としたアルバムだったため、トラックに関しての印象は控えめ。もちろん、O.N.Oの作るトラックは、比較的シンプルで、BOSSのラップをしっかりと下支えしています。ただ、メッセージをいつも以上に強く伝えるため、あくまでも脇役に準じているような印象も受けました。
まさにTHA BLUE HERBらしい力強いメッセージ性を感じる、2020年という特殊な1年だからこそ生みえたアルバム。年末が迫る中、来年は1日も早く、このコロナの状況が終わり、以前の日常が戻ることを強く祈らずにいられないのですが・・・。間違いなく傑作アルバムなのですが、ただ、このようなアルバムはこれが最後であることを強く祈りたいです。
評価:★★★★★
THA BLUE HERB 過去の作品
TOTAL
THA BLUE HERB
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