久々にコンパクトでポップなアルバム
Title:SIGN
Musician:Autechre
その独特の音世界で様々なミュージシャンへの影響を与え、多くの音楽リスナーに支持されるエレクトロユニットAutechre。既に結成から30年以上、ワープ・レコードでアルバムデビューしてから25年以上が経過するベテランユニットだったりします。ただ既に「ベテラン」の域に達している彼らですが、その制作意欲は全く衰えていません。衰えていないどころか、ここ数年はオリジナルアルバムが非常に長尺化している傾向にあり、前作「NTS Sessions」はCDにすると8枚組、全8時間にも及ぶという強烈な長さのセッション。前々作「elseq 1-5」も5時間にも及ぶアルバムになっており、その前の「Exai」も2時間に及ぶアルバムと、近年になるに至って、どんどんインフレ化していきました。
そんな中、リリースされた約2年ぶりとなるアルバムは、全11曲、65分という、比較的シンプルで「常識的」な長さのアルバムになっています。まあ、正直なところ、前作「NTS Sessions」はアルバムとして長すぎて、ちょっと冗長といった印象を受けるアルバムでしたので、今回のアルバム程度の長さがちょうどよい、といった感じでしょうか。実際、アルバム全体としては、おそらく良い意味で取捨選択されているようなシンプルな構成の楽曲が並び、いい意味で「ポップ」という印象を受けるアルバムに仕上がっていたように感じます。
アルバム全体としては、比較的ダウナーで、ドローン的な要素を含んだ楽曲が多く見受けられる内容になっています。1曲目「M4 Lama」など、まさにドローン的なサウンドにメタリックな音が重なるようなダウナーな作風になっていますし、続く「F7」もハイトーンのメタリックなサウンドで構成されながらも、全体的には陰鬱な印象の受ける作風になっています。
後半も「sch.mefd 2」や「gr4」など、メタリックなサウンドを入れつつ、ドローン風のサウンドが低音で響く、ダウナーな楽曲が並びます。ただ、楽曲としては5~6分程度の曲が並んでいるため、ポピュラーミュージックとしての体裁は兼ね備えており、その中に実はポップなメロディーラインが流れているため意外と聴きやすい、というのは彼ららしさを感じます。「au14」などはリズミカルなテンポのエレクトロビートが軽快な作品になっており、聴きやすいポップな作風となっているため、これが中盤に入っていることでアルバムにひとつの核が生じていますし、ラストを飾る「r cazt」などはメロディーラインに哀愁感すら漂っており、そのメロが心に残るようなアルバムに仕上がっていました。
ここ最近のアルバムの中では断然ポップで聴きやすいアルバムに仕上がっていた本作。ちょっと冗長的だったここ最近のアルバムに比べて、グッと引き締まったアルバムといった印象も受けました。彼らの魅力をしっかりと感じることの出来る傑作アルバムです。
評価:★★★★★
・・・と思っていたら、それからわずか20日後、早くもニューアルバムがリリースされました。
Title:PLUS
Musician:Autechre
続けざまにリリースされたこのアルバムは、決して「SIGN」のアウトテイク集、ではなく歴とした新作となるそうです。実際、ドローンの要素の強かった「SIGN」と比べると、メタリックなエレクトロビートでリズミカルな楽曲が目立つのが今回のアルバム。1曲目「DekDre Scap B」こそダウナーな作風になっているものの、強いビートが目立つ曲調ですし、続く「7FM ic」もテンポよいエレクトロビートが主軸となっている曲になっています。
その後もエッジの効いたエレクトロビートの「X4」やスペーシーなサウンドにアーケードゲーム風なノイズが混じる「ii.pre esc」、さらに最後の「TM1 open」は、ピコピコサウンドとも言うべき軽快なエレクトロサウンドで疾走感もって展開される曲調に、聴いていて楽しくなってしまうような楽曲に仕上がっています。
今回のアルバムも、全9曲63分という「常識的」な内容。ただ、「SIGN」に比べると、「ecol4」が15分弱、「X4」が12分、ラストの「TM1 open」が11分と1曲の長さは前作に比べて若干長尺な曲も目立ちます。もっとも、軽快なエレクトロサウンドがミニマル的に続くリズムとなっているため、長尺でも比較的聴きやすい構成に。アルバム全体としても前作以上に「ポップ」にまとまっていて聴きやすいアルバムに仕上がっていたと思います。
「SIGN」とは異なる作風のアルバムということで、「SIGN」「PLUS」合わせてAutechreの今やりたいことを表現した構成になっている、ということなのでしょうか。ただ、1枚あたりのアルバムの長さは1時間程度と(彼らにしては)コンパクトにまとまったのですが、2枚合わせると2時間強と今回もやはりそれなりのボリュームのなってしまった作品に。やはり彼らの衰えない創作意欲をカバーするためには、60分程度の長さでは物足りなさすぎるということなのでしょうか。ただ、それでも2枚のアルバムに分けたことにより、それなりにメリハリがついて、それぞれのアルバムがいい意味で引き締まっている、聴きやすいアルバムに仕上がっていたように感じます。Autechreの実力をしっかりと感じられる2枚のアルバムでした。
評価:★★★★★
Autechre 過去の作品
Quaristice
Oversteps
move of ten
Exai
NTS Sessions 1-4
ほかに聴いたアルバム
MTV Unplugged/Pearl Jam
彼らがデビューアルバム「TEN」で大ブレイクした直後、1992年3月に行ったアコースティックによるスタジオライブ番組「MTVアンプラグド」で行ったパフォーマンスの模様を収録したライブアルバムいままで「レコードストアデイ」の限定商品としてアナログリリースされたことはあったのですが、単独での通常リリースは今回がはじめて。コロナ禍でライブもままならない中でのライブの穴埋め的な意図もあるのでしょうか?
ただ、アコースティックなライブパフォーマンスながらも、そんな中からにじみ出てくるパワフルな演奏を感じられるのがこのアルバム。「MTV Unplugged」というと大人の雰囲気のパフォーマンス、というイメージが強いのですが、1992年、若いエネルギーがありあまる彼らにとっては、アコースティックライブであろうと、そのパワーを「封印」することは出来なかった模様。ただ、このアコースティックなサウンドと、彼らのみなぎるパワーの絶妙なバランスがユニークなライブパフォーマンスに仕上がっています。今となっては非常に貴重な音源。逆に、今の彼らだったら、どのようなパフォーマンスをするのか気になるところでもあるのですが。
評価:★★★★★
Pearl Jam 過去の作品
Backspacer
Lightning Bolt
Gigaton
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