コロナ禍が生み出したアルバム?
先日、TRAVISの「10 Songs」という非常にシンプルなタイトルのアルバムを紹介しましたが、今回のアルバムタイトルは、それを上回るシンプルさかもしれません。
Title:songs
Musician:Adrianne Lenker
Title:instrumentals
Musician:Adrianne Lenker
「songs」と「instrumentals」。そのものズバリでこれ以上ないシンプルなタイトルのアルバムを2枚同時リリースしたのは、ここでもアルバムを何度か紹介したことのあるフォークロックバンドBig Thiefの女性ボーカリスト、Adrianne Lenkerのソロアルバム。Big Thiefのワールドツアーがコロナ禍によって中止された3月初旬に、彼女はマサチューセッツの山小屋に移住。その雰囲気にインスパイアされてつくられたアルバムだそうで、100%アナログ機材だけで制作された作品になっています。
まず「songs」の方ですが、タイトル通り、「歌モノ」の曲を集めた楽曲。非常にシンプルなタイトルにもあらわれているように、基本的にアコースティックギターのみで演奏されたアレンジの中、彼女の清涼感あふれる歌声が静かに流れる楽曲ばかり。とてもシンプルな曲調でフォーキーな作品をしんみりと聴かせる構成になっています。
アコギを静かにかき鳴らしつつメランコリックに歌う「ingydar」、清涼感あるボーカルとメロディーが美しい「anything」、アコギのアルペジオで静かに歌われるフォーキーなメロが印象に残る「heavy focus」、しんみり伸びやかなボーカルを聴かせる「come」、切なさを感じるメロディーラインが印象的な「dragon eyes」など、どの曲も全く派手さはありません。派手さはないのですが、フォーキーで美しいメロディーラインと歌声がしっかりと印象に残る楽曲が全11曲並んでいます。
一方、「instrumentals」は「music fo indigo」と「mostly chimes」という2曲だけで構成される40分弱のアルバム。こちらは1日のはじまりに日課として行っていたアコースティックギターの即興演奏をコラージュして構成したアルバムとなっています。そのため楽曲としてはそれぞれ21分、16分という長尺の楽曲なのですが、ひとつの曲としてまとまっているというよりも、それぞれ様々なアコギの演奏が断続的に連なっているような作品になっています。ただ、シンプルで美しいアコギの演奏はとてもやさしさを感じられ、ついつい聴き入ってしまう内容になっていました。
このシンプルなサウンドの楽曲は、まさにこのコロナ禍の「Stay Home」の状況の中、山小屋というちょっと閉鎖的な自然の環境でこそ生まれた作品なのでしょう。そういう意味ではコロナ禍が生み出したアルバムと言っていいかもしれません。コロナ禍は音楽業界にマイナスの意味で様々なインパクトを与えてきましたが、逆にミュージシャンが家にこもって制作しなければならないという制限された環境が故に、新しいアイディアや作品も生み出された側面もあり、このアルバムもそんな典型例と言えるかもしれません。
派手さはなく、わかりやすいインパクトもない作品ではあるのですが、どちらもシンプルなメロディーラインとサウンドが魅力的でついつい聴き入ってはまってしまう、そんな傑作アルバム。とかくギスギスになって憂鬱になりがちな今の世界の状況ですが、そんな中、この美しい歌声に癒されたくなる、そんな作品でした。
評価:どちらも★★★★★
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