« バラエティー豊富な作風に音楽的素養を感じる | トップページ | あえて「今」をパッケージ »

2020年11月 9日 (月)

愛すること

Title:ねえみんな大好きだよ
Musician:銀杏BOYZ

実に前作から約6年半ぶりとなる銀杏BOYZのニューアルバム。ご存じの通り、GOING STEADY解散後、峯田和伸が2003年に結成した銀杏BOYZ。2005年には2枚のアルバムを同時リリースした後、ライブを中心に活動を続け、それからちょうど9年という間隔をあけて、まだ2枚同時にアルバムをリリース。そこからさらに約6年半という月日をあげて、ようやくリリースされたニューアルバムが本作です。これが5枚目のアルバムとなるのですが、2005年のリリースも2014年のリリースもいずれも2作同時リリースとなっていますので、事実上、3作目のアルバムと言えるかもしれません。

結成から既に17年が経過している銀杏BOYZ。その間にメンバーも脱退し、現在は峯田和伸のソロプロジェクトとなっていますが、非常に寡作なミュージシャンであることがわかります。逆に言えば、それだけ1作1作への力の入れようがすごい、とも言えるわけで、実際、今回のアルバムも、峯田和伸のあふれだしそうな思いがそのままつまったようなアルバムになっています。

彼の「思い」がまずはサウンド面であふれ出しているのはアルバムの冒頭。「DO YOU LIKE ME」のスタートは強烈なノイズからスタート。2014年にリリースされたアルバム「BEACH」は全編、ノイズで埋め尽くされたアルバムになっていましたが、それを彷彿とさせる出だしになっています。ただハードコアパンクなこの曲、「ねえみんな大好きだよ」というアルバムタイトルとは裏腹な「DO YOU LIKE ME」と問いかける内容に、「愛されたい」という彼の感情がストレートにこもっており、峯田らしい赤裸々な歌詞も大きなインパクトとなっています。

続く「SKOOL PILL」も「DO YOU LIKE ME」同様のハードコアパンクが続き、GOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」をセルフカバーした「大人全滅」もヘヴィーなギターサウンドをバックに歌い上げるパンキッシュなナンバー。まさに序盤は峯田のあふれる思いが、そのままハードコアパンクという形に体現化されたような楽曲が並びます。

ただ一方、ここからグッと変わるのが中盤以降。続く「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」は、ギターノイズが前面に流れているものの、主軸となっているのはメランコリックなメロでしんみりと歌われる「歌」。あのYUKIと共演した「恋は永遠」に至っては、大滝詠一を彷彿させるような分厚いサウンドでキュートなポップチューンに。「GOD SAVE THE わーるど」も軽快なエレクトロアレンジのポップチューンとなっており、アルバム全体を聴き終わると、むしろそのメロディアスな歌が印象に残り、ポップなアルバムという印象を受けます。

しかしそんな中でも強烈に響いてくるのは、「愛すること」をストレートに、時にはその本質部分をえぐりだすように描いた、峯田和伸の歌詞。例えば「骨」では

「愛しちゃいたい
愛しちゃいたい
愛しちゃいたい
きもいね。しゃあないね。
骨までしゃぶらせて」
(「骨」より 作詞 峯田和伸)

と、かなり赤裸々な歌詞が強いインパクトを残します。そしてなにより歌詞で強い印象を受けるのが「生きたい」でしょう。12分に及ぶ長いこの楽曲では、峯田和伸の思いが滔々と語られています。なによりもタイトル通り「生きたい」と歌い上げるこの曲ですが、同時に愛し愛されることを綴っています。そしてこの曲を聴くと、アルバムタイトルにもなり、アルバム全体で歌われている「愛すること」「愛されること」というのは、すなわち、「生きること」につながっている・・・そう強く感じられる楽曲になっており、まさにこのアルバムの集大成的な1曲と言えるでしょう。

ノイズを前面に押し出した曲調や峯田和伸の思いを詰め込んだ歌詞の世界といい、聴き終わってかなり重く心に響いてくるアルバム。確かに、これだけの思いを詰め込んだアルバムを作り上げるのだから、寡作にならざるを得ないよなぁ・・・と思ってしまうアルバムでした。いろいろな意味でズッシリと重たい、すごいアルバムだったと思います。次のアルバムもまた、5、6年後になるのでしょうか。でも、これだけの作品を作り上げるのだから、仕方ないのかなぁ。

評価:★★★★★

銀杏BOYZ 過去の作品
SEX CITY~セックスしたい(銀杏BOYZと壊れたバイブレーターズ)
光のなかに立っていてね
BEACH


ほかに聴いたアルバム

Patrick Vegee/UNISON SQUARE GARDEN

途中、B面ベストのリリースを挟みつつ、オリジナルアルバムとしては前作「MODE MOOD MODE」以来、約2年8ヶ月ぶりとなるニューアルバム。その前作は、バンドとしての勢いがそのままアルバムに反映されたような、まさに脂ののったバンドが、もっとも脂ののった時期にのみリリースできるような傑作アルバムに仕上がっていました。そこから3年近くが経過した本作も、その勢いはまだ止まっていません。ただ、正確に言うと、楽曲のセレクトや構成により勢いを持続させようとしているようなアルバムで、特にアップテンポな楽曲の連続、かつ曲間のあえて狭められたような構成になっており、アルバム全体として疾走感のある内容になっていました。そういう意味でアルバム構成や選曲に頼っているという意味では前作に比べると、という側面があるものの、まだまだやはりバンドとしての勢いは感じられるアルバム。まだまだ彼らの勢いは止まらなさそうです。

評価:★★★★★

UNISON SQUARE GARDEN 過去の作品
CIDER ROAD
Catcher In The Sky
DUGOUT ACCIDENT
Dr.Izzy
MODE MOOD MODE
Bee-Side Sea-Side 〜B-side Collection Album〜

|

« バラエティー豊富な作風に音楽的素養を感じる | トップページ | あえて「今」をパッケージ »

アルバムレビュー(邦楽)2020年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« バラエティー豊富な作風に音楽的素養を感じる | トップページ | あえて「今」をパッケージ »