あえて「今」をパッケージ
Title:NOW
Musician:クレイジーケンバンド
ほぼ毎年、オリジナルアルバムをリリースし続けるクレイジーケンバンド。結成から23年目で20枚目という昨今では珍しいハイペースでアルバムをリリースし続けていますが、このコロナ禍の中でも当然のようにニューアルバムがリリースされました。前作「PACIFIC」から約1年2ヶ月ぶりとなる新譜です。
今回のアルバムは、そんな新型コロナ感染症が蔓延する中で作成された作品となっており、ほとんどが「Stay Home」の環境の中で作成された曲だそうです。おそらく、この2020年という1年は、多くの人たちにとっては早く過ぎ去ってほしい1年ではなかったでしょうか。しかし、今回のアルバム、タイトルからしてあえて「今」という時代をパッケージした作品になっています。クレイジーケンバンドの横山剣はこのアルバムに対して「数年後に『2020年ってこんなだったんだよね』となれば本望」と語っていますが、「混沌とした時代の"夜"と"朝"の間」という表現も用いており、「Stay Home」の環境下で作成したアルバムだったからこそ、この時代の空気感が反映されたアルバムになっていた、ということなのかもしれません。
アルバムの冒頭を飾る「サムライ・ボルサリーノ」などは、まさにそんなコロナ禍を反映したワードが歌詞にも登場しており、「Go toかStayか」「禍が明けたら ハグしような」なんてフレーズが登場しています。楽曲もファンキーなリズムながらもミディアムチューンでどこか気だるさを感じさせる点も、コロナ禍での今の空気を反映させたような曲調に仕上がっています。
ただ、歌詞というよりも、この「今」の空気を包み込んだのは楽曲全体の雰囲気でしょう。基本的に楽曲はいつも通りのクレイジーケンバンドといった感じで目新しさはないのですが、ミディアムチューンのメロウでアンニュイな雰囲気の楽曲が多く並んでいます。ミディアムチューンでねっとりとした雰囲気を醸し出す「IVORY」、ボッサ風の「だから言ったでしょ」、しんみりメロウにムーディーに聴かせる「月夜のステラ」、タイトル通り、どこかドリーミーで気だるさを感じる「夢の夢」など、しっとりと聴かせるタイプの曲が目立つように感じます。
そしてラストを締めくくるのが「Hello,Old New World」という、これもアンニュイな雰囲気が漂うインストチューン。この「古く新しい世界」というのは、まさにコロナ禍で、それに対応した生活様式を強制される、今の状況に当てはまっている、と言えるかもしれません。まさに、2020年という時代にふさわしいアルバムになっていました。
目新しさはないものの、ベテランらしい安定感はしっかりと感じられたアルバム。しんみり聴かせるナンバーが多かっただけにちょっと地味かな?という印象もあるのですが、逆に統一感があり、今の時代へのメッセージ性もしっかりしており、そういう意味でもアルバム全体として実によく出来た作品になっていたと思います。次はまた来年、新譜がリリースされるのでしょうか。その時までには、このコロナ禍から抜け出して、生活様式も以前のスタイルを取り戻していればよいのですが・・・。
評価:★★★★★
クレイジーケンバンド 過去の作品
ZERO
ガール!ガール!ガール!
CRAZY KEN BAND BEST 鶴
CRAZY KEN BAND BEST 亀
MINT CONDITION
Single Collection/P-VINE YEARS
ITALIAN GARDEN
FLYING SAUCER
フリー・ソウル・クレイジー・ケン・バンド
Spark Plug
もうすっかりあれなんだよね
香港的士-Hong Kong Taxi-
CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界
GOING TO A GO-GO
PACIFIC
ほかに聴いたアルバム
CHAOSMOLOGY
ロックバンド9mm Parabellum Bulletに対するトリビュートアルバム。全2枚組からなる内容で、Disc1は「歌盤」、Disc2は「instrumental盤」として、それぞれ歌あり曲を収録したロックバンド中心のトリビュートと、インストバンドによるトリビュートから構成されています。
Disc1の「歌盤」に関しては、正直、いまひとつ面白味はありませんでした。もともと9mm Parabellum Bulletは癖の強いバンドなのですが、各バンド、その9mmの作風をそのままなぞっただけのカバーといった感じでバンドとしての個性を出せておらず、面白味はゼロ。唯一、チャランポランタンだけが、自らの土俵に9mmの曲を引きずり込み、彼女たちらしいカバーに仕上げていたユニークな内容になっていました。一方で非常におもしろかったのがインスト盤。バンドそれぞれ自らの解釈により9mmの曲をカバーしており、個性あふれるバリエーションあるカバーになっていました。
正直、「歌盤」は参加バンドの力不足が目立ってしまった感も・・・。一方、「instrumental盤」は各々のバンドの実力がはっきりと感じられた良カバーでした。評価は両者合わせてといった感じで。
評価:★★★★
LIVE IN HEAVEN/曽我部恵一
コロナ禍の中の7月14日に、渋谷WWW Xで行われたラップセットでの曽我部恵一のライブ音源をおさめたライブアルバム。HIP HOPイベントの一環として行われたステージだったらしく、アルバム「ヘブン」をベースとした全編ラップによるステージとなっています。これはこれで貴重なステージで聴きごたえがあったのですが、バンドによる演奏だったこともあり、若干HIP HOPにもロックにもどっちつかずだったような印象を受けてしまう点が気になりました。元となったアルバム「ヘブン」でも、どこかHIP HOPに慣れていない素人っぽさが感じられて、それがひとつの魅力ではあったのですが、ライブではそういうHIP HOPに慣れていない部分がチグハグさとして出てしまった感もありました。
ただ今回のアルバム、コロナ流行後のライブをおさめたアルバムとしては、私が聴いた中で(配信などをのぞいて)はじめて・・・かも??少しずつライブイベントも戻って来たみたいで、このまま以前みたいにライブが普通に行われる状況に1日も早く戻ってくれればいいのですが・・・。
評価:★★★★
曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!
The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
純情LIVE(曽我部恵一と真黒毛ぼっくす)
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