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2020年10月17日 (土)

「彼女らしさ」をあらわした作品

Title:Alicia
Musician:Alicia Keys

今年1月に開催されたグラミー賞の表彰式に司会として抜擢されるなど、絶大な人気の元で積極的な活動を続けているミュージシャン、アリシア・キーズ。毎回、素晴らしい歌とその歌声を私たちに届けてくれる彼女ですが、約4年ぶりのニューアルバムとなる本作も、また素晴らしい傑作に仕上がっていました。

もともと本作は、今年3月頃のリリースを予定していた作品なのですが、新型コロナウイルスの影響によりリリースが延期となった作品。約半年ほど延期された9月にようやくのリリースとなりました。本作のアルバムタイトルはいわばセルフタイトル。ジャケットも彼女の顔写真を4方面から写した写真となっており、まさにこのアルバムは彼女そのものであるという力の入れようを感じさせる作品となっています。

ただ、アルバム自体は比較的シンプルなR&Bのポップチューンが並んでいます。前作「HERE」はジャケットからしてアフロヘアを前面に押し出した写真となっており、ブラックミュージックの要素の強い「黒い」アルバムに仕上がっていました。今回のアルバムももちろんソウルやゴスペルなどの影響を感じつつ、楽曲のスタイルとしてはポップミュージックの方向にシフトした感はあります。

とはいうものの、リズミカルなダンスチューンである「Time Machine」にしてもメロウな歌声を聴かせてくれますし、「Wasted Energy」もレゲエ的な要素も感じるトライバルなリズムが魅力的。女性シンガーJill Scottをフューチャーした、タイトルそのもの「Jill Scott」も、Jillの歌声でかわいらしさを表現しつつ、メロウなR&Bチューンに仕上げているなど、全体的にはソウル色も強く感じられる作風に。ポップ色が強すぎてちょっと物足りなさを感じた前々作「Girl On Fire」や、その前の「The Element Of Freedom」に比べると、グッとブラックミュージック寄りにシフトしている内容になっています。

ほかにも男性シンガーソングライターKhalidとのデゥオでメロディアスなポップを聴かせる「So Done」やアコギで哀愁感たっぷりに歌いあげるミディアムチューン「Gramercy Park」も魅力的なのですが、特に魅力的なのは終盤のバラードナンバー。後半はバラードナンバーが続くのですが、普通、同じようなテンポのバラードが続くと退屈にすら感じてしまうのですが、まったくダレることなく、最後まで聴かせることが出来るのは、彼女のソングライターとしての実力ももちろんですし、ボーカリストとしての表現力があるから、ということなのでしょう。

そんな中で特に印象に残るのが終盤に美しく、そして力強く聴かせるピアノバラード「Perfect Way To Die」。黒人差別に対してのプロテスト運動「Black Lives Matter」ムーブメントについてもメッセージを発信し続ける彼女ですが、本作は人種差別により警察から暴力や残虐的行為を受け命を落とした人々へのトリビュート・ソングだそうで、ピアノを中心としたシンプルなアレンジをバックに力強く歌い上げる彼女の歌声が胸をうちます。

以前は、比較的ジャケット写真にしても肌の色をあまり表に出さないようなジャケット写真が多かった彼女ですが、アフロヘアーを前面に押し出した前作「HERE」に続き、今回のジャケットも、彼女のブラウンの肌の色をしっかり前に押し出し、さらには「黒人的」ともいえるドラッドヘアを用いている彼女。まさに、このジャケット写真も、「Black Lives Matter」ムーブメントにメッセージを出し続ける彼女の活動とリンクするものがあります。

またメッセージ性といえばラストに収録されている「Good Job」も印象的。こちらも同じくピアノバラードで彼女の歌声を力強く聴かせるナンバーなのですが、新型コロナウイルスの中で奮闘している医療従事者などに対するメッセージソングとなっています。このアルバムの最後には、まさにこの2020年という年を象徴した曲が並んでいるのが大きな特徴的。最後の曲も非常に私たちの胸に響いてきます。

ジャケット写真といい、最後に並んだメッセージソングといい、まさに彼女のメッセージが強く伝わってくるアルバム。ある意味、R&B、ソウル寄りの曲もあれば、もっとポップ寄り、さらにはともすればカントリー風の曲まで登場するバリエーションも含めて、「彼女らしさ」を表現したアルバムと言えるかもしれません。そういう意味でもセルフタイトルらしいアルバムとも言えるでしょう。そしてそんなメッセージは、歌詞は直接わからなくても、その歌声で私たちにも突き刺さってきます。内容的には比較的シンプルなのですが、シンプルさ故に、より胸に響く傑作アルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Alicia Keys 過去の作品
As I Am
The Element Of Freedom
Girl On Fire
HERE

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