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2020年10月10日 (土)

普遍性ある歌詞が魅力的…だが?

Title:おいしいパスタがあると聞いて
Musician:あいみょん

今、最も話題のシンガーソングライターの一人、あいみょんのニューアルバム「おいしいパスタがあると聞いて」・・・・・・ある意味、完全に10代後半から20代前半の女性あたりに狙いを全振りしたタイトルがすごいなぁ…と思ってしまう今回のアルバム。いまでこそ、こういうタイトルのアルバ宇をリリースする彼女ですが、インディーズとしてのデビュー作は「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」なんで、そこからは遙か遠いところに来てしまったなぁ、という感じを強くしてしまいます。

さて、そんな彼女。「あいみょん」といういかにも今風なニックネーム風のミュージシャン名といい、女子高生御用達的な立ち位置といい、おそらく彼女を名前くらいしか知らない人にとっては、いかにも今どきな音を出して、歌詞にしても流行語をふんだんに取り入れた、今どきなミュージシャン…と思うかもしれません。ただ前作のアルバム「瞬間的シックスセンス」もそうでしたが、彼女の作品を聴いていると、むしろともすれば90年代J-POPを通り越して、70年代の四畳半フォーク的な香りすらしてしまうような作風が大きな魅力になっています。

そもそも彼女の大ブレイクのきっかけとなった「マリーゴールド」にしても好きな子をマリーゴールドに例える歌詞になっており、それこそ「野菊の墓」かよ!ってレベルの昔からありがちな、超スタンダードな歌詞ですし、現在、ロングヒットを記録している「裸の心」にしても、学校の合唱曲で流れてきても不思議ではないレベルの、70年代フォーク的な懐かしさを感じさせるメロディーラインになっています。

この「裸の心」にしてもそうですが、非常にシンプルでかつ、心にグサリと来るような心象描写が彼女の大きな魅力。「ハルノヒ」にしても、北千住駅という具体的な場所を提示して、ここからはじまっていく2人の未来を描いた歌詞は、その風景が見事に浮かびますし、また強いインパクトを残します。「シガレット」にしても、たばこに自分の思いを重ねるという、これまたある意味よくあるスタイルではあるのですが、よくあるスタイルだからこそ、非常に印象に残る歌詞になっています。

恋心にしても、前向きな心境にしてもとてもシンプルかつ等身大の描写が魅力。いわば今風な言葉や風景はほとんどなく、タイトルとは異なり、変な特定世代にむけての媚びを感じさせるような表現もありません。ある意味、普遍性を感じさせる内容になっており、女子高生がファン層の中心でありながら、楽曲的にはむしろアラフォー、アラフィフのおじさんおばさんたちの心も捉えるような内容にすら感じさせます。むしろフォーキーな作風や歌詞は、もっと上の世代にとってもある種のなつかしさを感じさせるかもしれません。

サウンド的には、いわばJ-POP的であり、ほどよく入った、特に主張もないバンドサウンドなのですが、「普遍性」という意味ではむしろ彼女の歌詞にはそういうスタイルがマッチするかもしれません。ただ一方で「真夏の夜の匂いがする」のように怪しげな雰囲気を奏でている曲もあり、彼女の持つ「毒」の要素もちょっとだけ垣間見れたりします。まあ、「毒」といえば今回のアルバムも「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」では、いきなり

「愛は全てを解決しない
金があれば何でもできるかもしれない」
(「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」より 作詞 あいみょん)

なんていう身もふたもない歌詞からそもそもスタートしており、そういう意味では、あの過激なインディーズデビュー作のような、彼女が決して「大衆向けの全く毒のないポップスシンガー」とは異なる側面も今回のアルバムでも垣間見れる部分もあります。そういう観点からすると、あのいかにも女性向けのようなアルバムタイトルも、実はアイロニックな意味合いを込めたタイトルなのかもしれません。

こういう曲を書くシンガーが中高生を中心に売れているというのは、日本の音楽シーンの未来は暗くないぞ、とも思ってしまいます。むしろアラサー世代以上も、変な偏見なしで聴いてみてほしいアルバムかもしれません。良質なポップスアルバムであることは間違いなし。今後にも期待です。

評価:★★★★★

あいみょん 過去の作品
瞬間的シックスセンス


ほかに聴いたアルバム

BAD HOP WORLD/BAD HOP

今年3月1日、予定されていた横浜アリーナでのライブが新型コロナウィルスの影響で中止となり、代わりに同会場で無観客配信ライブを実施。その後続くコロナ禍の中での無観客配信ライブの走り的な存在ともなり、開催当時には大きな話題となったBAD HOP。本作はその配信ライブの後にリリースが発表となり、オリジナルフルアルバムとしては約3年ぶりのリリースとなった配信限定でのニューアルバムとなります。トラップを中心とした今風のトラックに、「3年間の思いを詰め込んだ」という内容は、この3年での彼らの出世談のようなリリックも目立ちます。基本的にリズミカルな作品が多く、いい意味で聴きやすい内容とも言える本作になっており、ここらへんが今の彼らの人気の大きな理由のようにも感じました。

評価:★★★★★

BAD HOP 過去の作品
BAD HOP 1DAY
Mobb Life
BAD HOP HOUSE
BAD HOP ALL
DAY vol.2

4/ヒトリエ

もともとボカロPとして活動していたwowakaを中心として結成された4人組ロックバンド、ヒトリエ。しかし昨年4月、そのwowakaがわずか31歳という若さで急逝し、多くの音楽ファンにショックを与えました。ヒトリエはギターのシノダがボーカルにチェンジし、活動を続けていくようですが、本作はwowaka在籍時に一区切りをつける、彼ら初となるベストアルバムになります。

ボカロP出身のミュージシャンらしいハイテンポなリズムで疾走感あるサウンドが特徴的な彼ら。メロディーラインはほどよくフックも利いてインパクトもあるのですが…ただ、どの曲もマイナーコード主体のメロディーではっきり言ってしまってアレンジ含めて似たような曲ばかり。この曲幅の狭さは、ある意味かなり厳しい感もあります。もうちょっと異なるタイプのヒトリエも聴いてみたいのですが…。評価は追悼の意味を込めて1つ追加で。

評価:★★★★

ヒトリエ 過去の作品
イマジナリー・モノフィクション
モノクロノ・エントランス
DEEPER
IKI
ai/SOlate
HOWLS

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