愛に満ち溢れて
Title:THE TRAVELING LIFE
Musician:小山田壮平
2000年代も終わるであろう頃に突如登場し、音楽ファンの高い評価と支持を集めたバンドandymori。2010年にリリースされたアルバム「ファンファーレと熱狂」が各種メディアで絶賛をあつめ、さらに2012年にリリースされたアルバム「光」はヒットチャートでベスト10入りするなど、高い人気も獲得しました。ただ、2014年にそんな人気の最中に残念ながら突然の解散を表明。その後、ボーカルで、andymoriの楽曲の作詞作曲を担当していた小山田壮平は、シンガーソングライターの長澤知之と組んでALというバンドをスタートさせましたが、ソロでも断続的に活動をスタート。そしてこのたび、初となるソロアルバムがリリースとなりました。
andymoriの作品といえば、叙情感あふれた歌詞が大きな魅力のひとつでした。小山田壮平のソロ作に関しても基本的にその路線を踏襲。叙情感あふれる歌詞が本作の大きな魅力となっています。比較的、具体的な単語を並べ、風景が目に浮かぶような描写の歌詞が多く、シンプルなメロディーラインと相まって、歌詞の世界がすんなり心にストンと落ちるような楽曲がメインとなっています。
今回のアルバムの中で、特に歌詞が印象を残っているのがまず「ゆうちゃん」でした。小学生か中学生あたりの幼なじみどおしの関係を描いたような歌詞で、ほっこりと暖かい雰囲気の描写が非常に魅力的。フォーキーなメロとサウンドも曲にマッチして、非常に印象的な曲になっています。
「君の愛する歌」も魅力的。「君の愛する歌を歌いたい」と歌われる「君」は、おそらく歌詞を読む限り、決して男女の愛情に関わらず、広く人間愛をうたっているように思います。それだけにスケール感を覚える歌詞ですが、暖かいメロディーラインにのるサウンドはエフェクトのかかったギターでスケール感を覚えます。
また、いままで紹介した2曲もそうですが、
「傷だらけの心は愛へと続いてる
こっちへおいでと君のこと何度でも僕が呼ぶから
君は扉をあけて 何度でも帰っておいで」
(「あの日の約束通りに」より 作詞 小山田壮平)
と歌う「あの日の約束通りに」も包容力ある愛を感じさせます。このようにアルバム全体として非常に暖かく、恋人に、というよりももっと広い「相手」をターゲットとした暖かい愛情を歌うような歌詞が目立つ内容となっています。それだけにアルバム全体としてとても暖かい空気が漂い、聴き終わった後に、とても心地よい聴後感を覚えるようなアルバムに仕上がっていました。
また、メロディーラインも基本的ミディアムテンポで、決してキャッチーな感じはないのですが、心にしっかりと染み入るようなメロディーをしっかりと歌い上げる曲になっています。そして、ユニークだったのがサウンド面。基本的にフォークやカントリーなどの要素が強いアコースティックテイストがサウンドがメインとなりつつも、例えば「旅に出るならどこまでも」ではテルミンの音を入れて妙に不気味な雰囲気を醸し出していたり、「スランプは底なし」ではバンドサウンドを前面に出したギターロックの曲になっていたり、ラストの「夕暮れのハイ」では最初、へヴィーなギターリフを主軸とするサウンドだったりと、ロックな側面もかなり強く感じるサウンドになっており、この点もandymoriから見られた傾向と言えるのですが、このロックなサウンドと叙情感あふれる歌詞のバランスが非常にユニークだったりします。
もっともandymoriの頃の歌詞は、例えば「革命」では死を意識したような歌詞が目立ったり、ラスト作の「宇宙の果てはこの目の前に」でも前向きな歌詞ながらも悲しい現実を歌っていたりと、決して明るいという印象はありません。しかし小山田壮平のこのソロ作は、前向きな歌詞もそうですが、人に対する優しさ、愛情に満ち溢れています。その点がandymori時代とは大きく異なるように感じました。
小山田壮平というと、andymori時代に危険ドラッグの使用で警察の事情聴取を受けたり、また、解散ライブ直前に川に飛び込んで大けがをして解散ライブが延期になるという奇行が目立ちました。それだけに精神面で非常に心配していたのですが、ただこのアルバムを聴く限りでは、彼がいま、非常に良い状態にあることを感じさせます。そして、そんな精神面を反映した、聴いていて暖かい気持ちになるような愛にあふれる傑作に仕上がっていました。正直、かなり安心した1枚。今後はソロ作がメインとなるのでしょうか。andymori時代と同様の傑作が今後も期待できそうです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
FRIENDS/NAMBA69
今年2月にドラマーのSAMBUが脱退。新ドラマーMOROを迎えての初となる、NAMBA69の新作は5曲入りのミニアルバム。ちなみにMOROは昨年解散したShiggy Jr.のメンバーだったようで、かなり異なる音楽性のバンドへのシフトになりましたね…。ただ、ドラマーが変わったからといってスタイルに大きな変化はなく、相変わらずのパンキッシュなサウンドを一気に聴かせてくれる5曲。そういう意味で目新しさはないものの、安定感のある1枚となっていました。
評価:★★★★
NAMBA69 過去の作品
21st CENTURY DREAMS
LET IT ROCK
Ken Yokoyama VS NAMBA69(Ken Yokoyama/NAMBA69)
CHANGES
V/MY FIRST STORY
タイトル通り、ファストリ5作目の…と思ったらオリジナルアルバムではこれが6作目となるようですね。ダイナミックなヘヴィーロックのサウンドが非常に心地よいのですが、タイプ的にはボーカルHiroの実兄のバンド、ONE OK ROCKと似ているような部分も。ワンオクに比べると、よりメランコリックなメロディーラインを前に押し出してポップなメロを聴かせるスタイルといった感じでしょうか。その結果、若干薄味になってしまっている感もあります。ただ、前に聴いたアルバム「ANTITHESE」に比べると、ゴリゴリにヘヴィーなナンバーから、メロディーを聴かせるナンバーまでバリエーションは増えた感もあり、そういう意味では飽きずに最後まで楽しむことが出来ました。ちなみにラストの「アンダードッグ」では昨年、大麻保持で逮捕されたRIZEのJesseが参加。かなりカッコいいミクスチャーのナンバーとなっています。おそらく、本作が復帰後第1弾となると思うのですが、これだけあっさり復帰できたのが意外な感じも…。今後は過ちを繰り返さないようにがんばってほしいのですが。
評価:★★★★
MY FIRST STORY 過去の作品
ANTITHESE
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