シンプルにメッセージを聴かせる
Title:12發
Musician:般若
2018年には初となるベストアルバム「THE BEST ALBUM」をリリース。さらに昨年は初となる日本武道館ワンマンを実施するなど、その人気を高め、着実に一歩ずつ前に進んでいるラッパー、般若。直近作「IRON SPIRIT」は筋トレをテーマとしたコンセプトアルバムだったので、純然たるオリジナルアルバムとしては「話半分」以来、約2年3ヶ月ぶり、ベスト盤リリース及び武道館ライブ実施後、初となるオリジナルアルバムとなっています。
基本的に般若のスタイルというと、サウンド的には時代の先端を行くようなエッジの効いたもの…といった感じではなく、むしろ比較的シンプルなサウンドながらも、しっかり日本語をかみしめるように、そのメッセージを綴るラップを聴かせるスタイルが特徴的。そのスタイルはアルバム毎に徐々に研ぎ澄まされていった感があるのですが、今回のアルバムもまさに、さらなるシンプルなサウンドでメッセージをしっかりと伝える、そんな般若のスタイルをさらに追及した1枚となっています。
そんな中でもこのアルバム、特に前半はユーモラスなラップを楽しめる作品が続いています。「SORIMACHI」はタイトルは、反町隆史の楽曲「POISON」から、「言いたいこと言えない世の中じゃPOSION」というキラーフレーズからスタートするコミカル、しかし反骨心はふれるナンバー。続く「イキそう」も、HIP HOPシーンに対して中指を立てるような彼らしいナンバーながらも、タイトルから想像できるようなエロ歌詞が展開し、ユニークで笑えるラップに仕上がっています。
続く「今はALONE」は、心が離れていこうとする恋人に対する切ないラブソングで、聴いていて心が切なくなるようなラップになっています……と思えば、続く「花金ナイトフィーバー」はタイトル通りのディスコチューンなのですが、結婚していながらも一夜のアバンチュールをもとめちゃうような不埒ものがテーマになっていて(笑)、ある意味、この2曲の振れ幅もまた、非常にユニークです。
ユニークな前半から変わって、後半はそのメッセージを聴かせる楽曲が並びます。「いつもの道」は…最初、よくわかりにくかったのですが、これ、長く飼っている愛犬へのメッセージですね。でも、家族の一員として犬を愛する気持ちは伝わってきます。さらにアルバムの中で間違いなく泣かせてくるのは「シングルマザー」。タイトル通り、シングルマザーとして育ててくれた母親への感謝の言葉を伝えるメッセージソング。母親へのメッセージ…と言われると、陳腐な感すらするかもしれませんが、シングルマザーとして子供を育てた母親のリアルを描いた歌詞はやはり胸に響きます。さらに仲間たちからのメッセージを綴った「最後のワンピース」に、最後は爽やかなトラックで締めくくる「手」で、前向きなメッセージを提示。コミカルな前半から一転、最後はしっかりと聴かせる楽曲を並べており、聴いた後にほどよい心地よさを感じさせる構成になっていました。
まさにコミカルな般若から、真面目な般若までバランスよく、しっかりと収録したアルバムで、彼の魅力をしっかりと伝えた1枚となっています。いままでのアルバムと比べて、決して目新しさはないかもしれませんが、それでも彼が伝えたいメッセージをしっかりと伝えた、ある意味、非常に真面目な1枚に感じました。タイトル通り、全12曲の内容なのですが、非常に内容の濃さを感じさせるアルバム。そのメッセージ、しかと受け取りました。
評価:★★★★★
般若 過去の作品
ドクタートーキョー
HANNYA
グランドスラム
THE BEST ALBUM
話半分
般若万歳II
IRON SPIRIT
ほかに聴いたアルバム
Funkvision/西寺郷太
NONA REEVESのボーカリストで、最近ではマイケル・ジャクソンやプリンスなどの80年代ポップミュージシャンの評論家としての活躍も目立つ西寺郷太のソロアルバム。昨年放送された、マイケル・ジャクソンの児童虐待について描いたドキュメンタリーの影響で、一時期はキング・オブ・ポップとして絶賛の嵐だったマイケルの取り上げ方が、再び微妙となる中、今回のアルバムでもマイケルの「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」のカバーを収録するなど、変わらぬマイケル愛を感じます。今回はコロナ禍の中、自宅スタジオを活用して作られたアルバムということですが、それだけに比較的、シンセを中心としたシンプルなサウンドが目立ったように感じます。基本的には80年代ポップスを引き継いだ、彼の趣味性の高い方向性も特徴的。NONA REEVES楽曲以上に、彼の興味がストレートに反映されたアルバムになっていますが、好き勝手に作ったアルバムだっただけに、NONAの曲に比べると、全体的にインパクトは弱かったかな?良くも悪くも西寺郷太という個性が反映されたアルバムでした。
評価:★★★★
VINTAGE/G-FREAK FACTORY
このアルバムが、いきなりオリコンチャート9位にランクインしてきて、非常にビックリしました。え?G-FREAK FACTORYって、10年以上前にライブによく足を運んでいたころ、インディー系バンドのイベントで、よく名前を見かけたバンドだったよね?なんで今さら??と思いつつ、実際、結成から20年以上のキャリアを誇るベテランバンドなんですよね。途中、活動休止などもありつつ、徐々に人気を上げ、8枚目のアルバムで見事初となるオリコンでのベスト10ヒットを獲得したようです。
ただ名前だけは昔から知っていて、レゲエ系のバンド、ということも知っていたのですが、なにげに音をきちんと聴くのは今回がはじめて。楽曲としてはヘヴィーロックにレゲエのリズムを入れたスタイルのロックバンド。方向性はSiMに近いのでしょうが、楽曲的にはもうちょっと爽やかでポップな感じ。確かに、いい意味で野外ライブ向けのバンドといった感じがします。長年、活動を続けてきたバンドなだけに、尖った感じはないのですが、安心して楽しめるロックといった感も。コロナ禍でロックイベントがなかなか開催できないのは彼らにとって逆風でしょうが、ただ、これだけの楽曲を作っていれば、コロナ禍も乗り切れられそう。ベテランバンドですが、彼らの活躍はまだまだ続きそうです。
評価:★★★★
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