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2020年9月27日 (日)

音楽の幅が広がる素敵なディスクガイド

今日は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回は、主にラジオのDJとしても活躍。音楽に対しても造詣が深く、様々な音楽関連の書籍の著者としても知られるピーター・バラカンの新たな書籍「Taking Stock-ぼくがどうしても手放せない21世紀の愛聴盤」です。

以前から、彼の著書は比較的多く読んできており、ソウル入門書の名著として名高い「魂(ソウル)のゆくえ」や、「ピーター・バラカンのわが青春のサウンドトラック」「ぼくが愛するロック名盤240」などを読んできました。ただ、これらの著書で彼の書籍を読んだことがある方はご存じかと思いますが、彼が紹介する「名盤」は、正直言って、一般的に日本で売られているロックの入門書的な名盤集に比べると、非常に癖の強いものになっています。

それは彼が紹介する「名盤」が、非常に彼の趣味趣向に寄り添ったものであることが大きな理由なのですが、さらに2つの大きな理由があって、それは(1)いかにもロック然としたハードロックを好んでおらず、一方でソウル、ブルース、カントリーといったルーツ志向の音楽、アフリカ音楽をはじめとしたワールドミュージックに強い興味関心を示している点。(2)生まれも育ちもイギリスであるため、日本における「ロック史観」に染まっていない点があげられます。そのため、一般的に「名盤」とされるようなアルバムがほとんど無視されていたり、一方では一般的にはあまり知られていなかったり、取り上げられなかったりするアルバムを大きく評価したりしています。

今回もそんな彼がセレクトしたディスクガイドなのですが、タイトル通り、21世紀以降のアルバムであり、かつ「愛聴盤」という選択方針の通り、基本的に一般的な「名盤」とされるアルバムではなく、あくまでも彼が愛してやまないアルバムが紹介されています。特に現在69歳となった彼の紹介している愛聴盤にはロックは皆無。ソウルやブルース、カントリー、そして大きな割合を占めるのがワールドミュージック、特にアフリカ音楽の紹介です。一般的にロックとカテゴライズされるようなアルバムも多く紹介されていますが、その多くはルーツ志向の強いロックを奏でるミュージシャンたちのアルバムとなっています。そのため、氏の嗜好を知らない人が、単純にここ20年のディスクガイドとしてこの本を手に取ると、少々戸惑ってしまうのではないでしょうか。

ただ、一方で一般的に日本でよく紹介されるようなロックや、あるいはRockin'Onあたりでよく紹介されるアルバムにちょっと食傷気味になってきたとしたら、音楽の幅を広げるのにこれだけ最適なガイドブックはないように思われます。おそらく一般的な日本のディスクガイドにはなかなか取り上げられることのない、しかし非常に優れたソウルやブラックミュージック、ルーツ志向のロック、ワールドミュージックのアルバムたちが列挙されています。おそらくここのアルバムを聴くことによって広がっていくであろう音楽の嗜好の幅を想像しながらワクワクしながらページをめくっていくのではないでしょうか。

しかし、ピーター・バラカンが優れているのは、これだけ売れ線とは異なるアルバムを取り上げつつも、そこにほとんどスノッブ臭を感じない点のように思われます。それは、彼が取り上げるアルバムが決して「知る人ぞ知る」的なマニアックなアルバムを取り上げて知識を見せびらかしているといった感はなく、むしろジャンルによっては意外と「ベタ」なアルバムを取り上げているからはないでしょうか。例えばアフリカ音楽でいえばTinariwenやスタッフ・ベンダ・ビリリといった、アフリカ音楽を聴き始めると、まず最初に出会いそうな有名処もきちんと紹介していたり、ソウル志向のミュージシャンとしてはAmy WhinehouseやMichael Kiwanukaといった、日本でも話題となったミュージシャンたちもきちんと取り上げています。結果として、ベテラン評論家でよくありがちな昔のミュージシャンたちを必要以上に絶賛し、逆に最近のミュージシャンたちは無視、といったことがなく、ベテランミュージシャンたちがやはり多いものの、一方でしっかり今のミュージシャンたちも抑えている点にバランスの良さも感じます。

また、彼の文章の語り口も非常に穏やかかつ平易な表現に終始しており、これも日本の評論家にありがちな妙に理屈っぽかったり、変な自分の思想性を反映させようとした文書はほとんどありません。音楽との出会いについては自分の経験も絡めて語っているものの、こちらについても変に感情論に走ることなく、すんなりと受け入れられる語り口がほとんど。そういう穏やかな語り口もまた、スノッブ臭を感じせない大きな要因でしょう。

最後には「The Big List」と題して彼の生涯の愛聴盤も紹介。さらになんと彼は2005年にアメリカのローリング・ストーン誌で企画した「史上最高のアルバム500枚」にも評者として参加し、アルバムに投票していたようで、そのリストも公表されています。このリストもなかなか興味深く読みつつ、聴いてみたくなるようなアルバムもチラホラ。ちょっと意外なアルバムもあったりして、個人的にはU2の「The Joshua Tree」が入っていたのは、ちょっと意外にも感じました。

正直言うと、基本カラーとはいえ、紹介されているアルバムは52枚のみで、全141ページというボリューム。これで1,700円というのは若干高く感じてしまいます。また、上にも書いた通り、紹介されているアルバムは彼の嗜好に沿ったものであるため、「入門書」的にはあまり向かず、少々人を選ぶ部分も否定はできません。ただ、このリストに紹介されているアルバムは非常に魅力的なのは間違いなく、私も興味を持ったアルバムから少しずつ聴いてみたいなぁ・・・そう強く感じさせるリストでした。最近、正直あまりおもしろいアルバムに出会えないなぁ・・・なんて思っちゃった人や、ロックに限らずいろいろな音楽を聴いてみたいな、と思っているような方は是非、手に取ってほしい一冊だと思います。きっと、新たな音楽との素敵な出会いが待っているはず。

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