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2020年9月28日 (月)

The Killersはなぜ売れないのか?

Title:Imploding the Mirage
Musician:The Killers

「The Killersはなぜ日本では売れないのか?」。The Killersを紹介する場合、よくこのような問いかけからスタートする紹介文をお目にかかります。アメリカはラスベガス出身の4人組ロックバンドThe Killersの、本作が6枚目となるニューアルバム。アメリカ本国よりもイギリスでブレイクし、今やイギリスで一番人気のあるロックバンドとなった彼ら。本作を含めてイギリスのナショナルチャートでは6作連続1位獲得という偉業を達成しています。一方ではアメリカでも十分な人気を確保しており、前作「Wonderful Wonderful」ではビルボードチャート1位を獲得。本作も8位にランクインしており、ほかにも各国のチャートで上位にランクイン。まさに世界規模の人気バンドとなっています。

彼らは以前から、スタジアムバンド的なスケール感と、日本人にもなじみやすくわかりやすいポップなメロを兼ね備えており、世界各国で人気を獲得するのも納得できる一方で、確かに日本でいまひとつブレイクしきれないのを不思議に考えるのも無理はありません。以前のアルバムはミディアムテンポのナンバーがメインだったのですが、今回のアルバムではアップテンポの曲もグッと増えて、いい意味でメロディーラインのフックも増した感もあります。アルバムの冒頭を飾る「My Own Soul's Warning」などはまさにそんな彼らの良さが前に出ているナンバー。わかりやすいポップなメロやシンセなどを使いニューウェーブの影響を感じつつ、ほどよく分厚いギターサウンドは洋楽リスナーでなくても素直に楽しめそう。続く「Blowback」「Dying Breed」などもおなじく、ポップなメロをシンセの入った分厚くスケール感あるサウンドで聴かせる楽曲。ポップなメロやスケール感は、COLDPLAYや、もっと言えばU2に通じるような部分も感じます。

スケール感あるポップな作品が並ぶ前半と比べて、バリエーションあるサウンドを聴かせる後半も魅力的。「Fire In Bone」では、より打ち込みのサウンドを前に出してきて、彼らの特徴であるニューウェーヴからの影響をより顕著に出してきています。「My God」は女性コーラスを入れてスケール感を出しているほか、後半では女性ボーカリストのWeyes Bloodがゲストとして参加。清涼感ある美しい歌声が楽曲の幅を持たしています。ラストのタイトルチューン「Imploding the Mirage」も疾走感あるシンセポップとなっており、80年代らしさを感じるナンバーで、ある種の懐かしさも感じる楽曲になっていました。

いままでも彼らの作品を何作か聴いてきましたが、そんな中でもさらにポップなメロディーラインのインパクトが増し、大物然としたスケール感がいい意味で増してきた本作。ある種、世界的な人気バンドとしての余裕すら感じさせます。ただ一方では日本でいまひとつ人気が出ていないとしたら、その理由もわからなくはありません。まずひとつは、あまりにも王道を行くバンドすぎて、洋楽を積極的に聴くような音楽ファンに対する訴求力が低いという点。RADIOHEADみたいな音楽ファンをくすぐるような実験的な音楽性もなければ、かといって一昔前のThe StrokesやWhite Stripesが出てきた時のような、「ロックンロールリバイバル」といったロケノンが喜んで飛びつきそうな物語性もありません。

一方でポップなメロディーラインという面では、特にいままでのアルバムではわかりやすいフックの効いたメロディーはあまりありませんでした。そういう意味でも普段、洋楽を聴かないようなリスナー層への訴求力も若干薄いのも事実。今回のアルバムではこのメロディーラインのインパクトはグッと増しましたが、かといって一度聴けば口ずさんでしまうような、日本人にとってわかりやすいメロディーや「サビ」は見受けられません。彼らの魅力はスケール感ある王道のスタジアムバンドといった感じなのですが、日本人にとっては、あえて彼らを選んで聴くという選択肢はちょっと薄いようにも感じてしまいます。

よくよく考えれば、かのCOLDPLAYも、デビュー作「Parachutes」はイギリスで大ヒットして一躍ブレイクしたものの、日本ではほとんど話題にならず、世界中でブレイクした2作目「A Rush of Blood to The Head」も日本での反応はいまひとつ。本格的にブレイクしたのは3作目の「X&Y」からとなっています。どうもこの手の王道路線のメロディーを聴かせるロックバンドは、日本人受けしそうなわかりやすいメロディーを書いていても日本人の反応はいまひとつのような感があります(ロックバンドに対して過度に「物語性」を求めるROCKIN'ONの弊害のようにも思えますが)。ただ、彼らも6枚目となり世界中でブレイクし、メロのわかりやすさもグッと増した感があります。そういう意味でも日本でもそろそろ本格的にブレイクしそうな予感も。個人的にもいままで聴いてきた彼らのアルバムの中で一番の出来だったようにも思います。彼らがフジやサマソニのヘッドライナーになる日も近いかも??

評価:★★★★★

The Killers 過去の作品
Day&Age
Wonderful Wonderful


ほかに聴いたアルバム

Down In The Weeds,Where The World Once Was/Bright Eyes

アメリカのインディーロックバンド、Bright Eyesのニューアルバム。フォークやカントリーからの影響を受けたシンプルなサウンドと美しいメロディーラインに定評のある彼らですが、本作はピアノやストリングスを取り入れ、スケール感の増したサウンドが特徴的。ただ、メランコリックに聴かせるメロディーラインは非常に魅力的で、スケール感の増したサウンドともピッタリとマッチし、非常に魅力的なアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Lianne La Havas/Lianne La Havas

イギリスのシンガーソングライター、Lianne La Havasによる約5年ぶりとなるサードアルバム。しんみりムーディーな作風に、スモーキーな雰囲気のボーカルが魅力的。作風的には昔ながらのジャジーなポップスとなるのですが、重低音のリズムを強調したサウンドメイキングは今風な印象も。特にしんみりと感情を込めたボーカルが魅力的な1枚でした。

評価:★★★★★

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