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2020年9月26日 (土)

心地よいポップなメロが気持ちよい

Title:Songs For The General Public
Musician:The Lemon Twigs

心地よいメロディーラインのポップスというのは、聴いていて本当にウキウキしてきます。なんといっても難しいこと抜きに楽しめますし、ちょっと試聴する程度のつもりでも、一度プレイボタンを押したら最後、ついつい時間も忘れて聴き進めてしまいます。そして、今回紹介するのはまさにそんなアルバム。ブライアン・ダダリオ、マイケル・ダダリオという兄弟を中心として結成された4人組ロックバンド、The Lemon Twigs。2016年にリリースされたデビューアルバム「Do Hollywood」も大きな話題となり、その後、フジロックやサマソニにも来日を果たしている彼ら。その3枚目となるニューアルバムがリリースされました。

まずいかにも80年代のロックバンドを彷彿とさせるジャケット写真が目を惹く彼らですが、サウンド的にもまさに80年代的な軽快なポップチューンが並んでいます。1曲目「Hell on Wheels」も、ちょっとしゃがれ気味の声がいかにもロックスター然としつつ、ギターのアレンジといい、ストリングスやコーラスラインを入れてほどよく分厚くしたサウンドも80年代的。「Only a Fool」のフュージョンっぽいシンセのサウンドなど、まさに80年代そのままといった印象を受けます。

ただ、そんな80年代的なサウンドをバックにしつつ、一番魅力的なのはなんといっても冒頭に書いた通りの、ワクワクするようなメロディーラインでしょう。特に個人的に壺だったのが「No One Holds You(Closer Than The One You Haven't Met)」。冒頭のギターの入り方や軽快なピアノ、さらには微妙に半音で展開されるメロディーラインや絶妙に入るシャウトなど、完全にBilly Joel風。もう聴いていて本当に楽しくなってくる1曲。ほかにも「Live in Favor of Tomorrow」も非常に楽しいポップチューンになっていますし、「Fight」もシンセの音も軽快なポップチューン。なんとなくサウンドやメロは初期TM NETWORKを彷彿してしまう部分もあったりして…。

80年代的といってもサウンドは、もうちょっと時代を下った80年代後半から90年代のような印象。シンセなども用いてほどよく分厚くなったサウンドとポップなメロディーラインも大きな魅力なのですが、個人的には80年代後半から90年代前半あたりのJ-POPとほどよくリンクしそうなサウンドに感じました。具体的にはその頃のEPIC系のミュージシャンの匂いを感じます。上にもTM NETWORKの名前を出しましたが、初期の岡村靖幸、渡辺美里、バービーボーイズ、大江千里、小比類巻かほる、松岡英明...etc。ここらへんの名前にピンと来るようなアラフォー、アラフィフ世代には、おそらく間違いなく彼らのサウンド、メロディーラインは壺に入るのではないでしょうか。

また、加えて彼らの大きな魅力に感じたのが、ポップなメロディーラインを前に押し出しつつ、実は様々な音楽性も感じさせる部分ではないでしょうか。例えば「Hog」などはポップなメロディーにちょっと怪しげなサウンドが重なり、ゴシックロック、ドリームポップ的な要素も感じますし、「Leather Together」もポップなメロが流れつつ、ロックンロールなギターサウンドが前に出ている楽曲に。ラストを飾る「Ashamed」もラストはギターノイズが前に押し出され、サイケロック的な様相を見せています。単なる80年代的なポップという枠組みを超えた、実はロックバンド然とした部分も彼らの大きな魅力に感じました。

個人的にはかなり壺に入りまくりの非常に気持ちのよい傑作アルバム。私のようなアラフォー、アラフィフ世代にはかなり壺をついたサウンドだと思いますし、なによりもポップス好きにはたまらない1枚ではないでしょうか。ただちょっと気になるのは、バンドの中心となっているのが兄弟ということ。ジザメリのリード兄弟、oasisのギャラガー兄弟のように、兄弟が中心となるバンドは少なくありませんが、仲たがいしてしまうケースが少なくありません。彼らは末永く活動を続けてくれるとうれしいのですが…。ただ、本当にメロディーセンスのあるバンドで、聴いていて時間を忘れさせてくれるようなそんなアルバムでした。非常に素直に気持ちの良さを感じさせる傑作です。

評価:★★★★★

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