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2020年8月10日 (月)

紆余曲折の10年間

Title:ID+
Musician:志磨遼平

志磨遼平が毛皮のマリーズとしてメジャーデビューしてから10年。本作は、その区切りの年にリリースされた、志磨遼平としてのベストアルバムとなります。まず、メジャーデビュー10年といって率直に感じるのが、まだ10年しか経っていなかったのか、ということ。昨今、ミュージシャン寿命が長くなり、デビューから20年、もしくは30年というバンド、ミュージシャンが珍しくなくなる中、彼のメジャーミュージシャンとしてのキャリアがまだ10年というのは少々意外にすら感じます。

そう感じてしまうのは、志磨遼平のメジャーデビューからの10年間の活動が非常に充実していると同時に、紆余曲折があったから、ということなのでしょう。毛皮のマリーズはメジャーデビューからわずか2年で解散してしまいますが、その間リリースされた3枚のアルバムでも、まずは大きくタイプが異なります。その後、結成されたドレスコーズも、当初はバンド形態からスタートし、バンド色の強いアルバムとなっていましたが、わずか2年強で志磨遼平以外のバンドメンバーは脱退。その後、ドレスコーズは志磨遼平のソロプロジェクトとして現在に至っています。

このように、バンド⇒別のバンド⇒ソロと様々な形態を取りながら活動を続けている彼。当然、その時々によって音楽のスタイルも異なります。毛皮のマリーズの時代はロックンロールやサイケロックなどの色合いが濃いスタイルでしたが、解散直前になると、志磨遼平のソロの色合いが強く、ポップ色が目立ってきます。一方、ドレスコーズは結成当初、再度、ロック色が強い作風となりますが、その後、ソロになると再びポップ色が強くなるのですが、そんな中でたとえあ「オーディション」などはバンドサウンドが強いアルバムになっているなど、ソロとなってからも、ロックとポップの合間に揺れ動いている、それが彼の大きな特徴だったりします。

今回の2枚組となったベストアルバムは、そんな揺れ動く志磨遼平の音楽性を時間軸に沿って並べた…というスタイルではなく、「RIOT盤」「QUIET盤」と並べ、バンド色、ロック色の強い作品を「RIOT盤」、ポップ色が強いアルバムを「QUIET盤」として収録しており、いわば揺れ動く志磨遼平の二面性を、2枚のアルバムで表現した、そんな作品になっていたように感じました。

ただ、そのようにして、あらためて志磨遼平の作品を聴いてみると、いずれの作品も非常にキュートで、胸をうつような、ちょっとレトロで60年代あたりのテイストを感じさせるポップなメロディーが共通項として流れています。例えば毛皮のマリーズ時代の「ボニーとクライドは今夜も夢中」は、ガレージロックのサウンドが流れていながらも、メロディーは胸をキュンとさせるようなものとなっていますし、ドレスコーズ時代の名曲「ゴッホ」も、シャウト気味のボーカルからスタートしつつも、ピアノが入った切ないメロディーが胸をうつナンバーになっています。

「QUIET盤」の方は言うまでもありません。毛皮のマリーズのラストアルバムとなった「THE END」の1曲目「The End Of The World」は1分半の短い曲調ながら、オルゴール調で静かに鳴るサウンドの中、歌われるメロの美しいこと。「Lily」のような軽快なポップチューンが流れてきたり、セルフカバー曲になる「恋愛重症」のような、大滝詠一風のナイアガラポップがあったり、さらに祝祭色豊かなサウンドとメロながら、どこか切なさを感じるメロも印象的な「愛のテーマ」まで、実に魅力的なポップチューンが並んでおり、そのキュートなメロディーラインに、終始、心ときめくのではないでしょうか。

あくまでも希代のメロディーメイカーであり、ポップ嗜好が強い一方、ロックンロールにあこがれを持ち、バンド幻想を抱きつつける、そんな志磨遼平の矛盾が大きな魅力であり、そのせめぎあいの中から名曲が誕生する…いままでも彼の曲からは漠然とそういうイメージを抱いていましたが、今回のアルバムを聴くと、そんな印象をさらに強くしました。おそらく、今後も彼は、この二面性の中で、異なる作風の曲を作り続けるのでしょう。ひょっとしたら、またバンドを結成することもあるかもしれません。ただ、そんな中でも間違いなく、このキュートなメロディーラインはなり続ける…そんな印象を受けます。これからも志磨遼平の活動に注目していきたいところ。あらためて彼の魅力を強く実感できたアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Brightness In Rebirth/HAWAIIAN6

約2年半ぶりとなるHAWAIIAN6のニューアルバムは全6曲入りとなるミニアルバム。メランコリックに聴かせるメロディーラインと分厚いバンドサウンドでパンキッシュに展開するスタイルはいつも通りの彼らといった感じ。良くも悪くも大いなるマンネリといった感じもするのですが、6曲という短い内容なだけに、飽きさせることなく一気に最後まで聴くことの出来るアルバムになっていました。

評価:★★★★

HAWAIIAN6 過去の作品
BONDS
The Grails
Where The Light Remains
Dancers In The Dark
Beyond The Reach

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