ソロだからこそ、魅力満載
Title:COMPILED EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~
Musician:忌野清志郎
歴史に「if」は禁句ですが、早世したミュージシャンが今生きていたらどんな音を奏でていただろうか…そう、ふと想像してみることは音楽ファンなら少なくありません。例えばジミヘンが長生きしたら、どんな革新的な音を鳴らしていただろうか、ジョン・レノンがまだ生きていたら、どんなメッセージを伝えるだろうか…そんなことを想像したことある音楽ファンは少なくないでしょう。個人的にそういうことをよく想像してしまうのが、忌野清志郎が存命だったら、どのような歌を歌っていただろうか、ということだったりします。2009年に58歳という若さでこの世を去った彼。存命したいたら、69歳。間違いなく現役でバリバリに活躍していたはず。彼が亡くなった後、東日本大震災が起こり、それによる福島原発の事故が発生したり、アメリカのトランプ大統領をはじめとする自国中心主義が幅を利かせてきたり、さらには現在のコロナ禍まで、様々な出来事が発生してきました。彼は以前から、世の中に起きる出来事を皮肉たっぷりに、かつユーモアを込めて歌い上げてきました。そんな彼が、例えば震災を、例えば福島原発の事故を、例えばコロナ禍の現在を、どのように描写するのか…ついつい考えてみたくなります。
本作は忌野清志郎デビュー50周年プロジェクトの第2弾。以前、RCサクセションのシングルをカップリング含めて網羅した「COMPLETE EPLP~ALL TIME SINGLE COLLECTION~」がリリースされましたが、本作はそれに続く第2弾で、忌野清志郎のソロワークのシングルをカップリング曲を含めて収録したシングルコレクションとなります。
本作では彼のソロデビュー曲であり大ヒットした曲でもある、坂本龍一とのコラボ曲「い・け・な・いルージュマジック」から、彼の遺作であり、逝去後にリリースされた「Oh! Radio」とそのカップリング曲である「激しい雨(2006.05.14 Private Session)」までが収録されています。彼のソロの曲を聴いてまず感じるのは自由度が非常に高いということ。歌詞でいえば、おそらく先の天皇の即位時に話題となった「恩赦」をモチーフにした、タイトルそのまま「恩赦」や(今、こういう曲をリリースしたら問題になりそうだ…)、下北沢のCLUB QUEを皮肉った「ライブ・ハウス」など、彼が歌いたい素材、反発したい権威に対して、単純にアンチを叫ぶのではなく、ユーモアたっぷりに歌い上げています。RCサクセションでももちろん自由に歌っていた彼ですが、ソロとなってさらにその自由度には拍車がかかったようにも感じます。
社会的な事象を歌にするミュージシャンは、日本では(特にメジャーシーンでは)多くないとはいえ、少なからず存在します。ただ、そういった歌を、単純に歌にするのではなく、皮肉たっぷりにユーモアを込めて歌にして、ある意味、その主張に反対の立場にある人でも聴いていて「クスっ」と笑わせてしまうような、そんな力を持ったミュージシャンは、おそらく彼くらいではないでしょうか。それだけに、様々な問題が生じており、かつ、右と左に大きく分裂しがちな現在において、時としてその垣根を超えるようなユーモアセンスを歌にする彼が生きていたら、どんな歌を歌っただろうか、そう想像してしまいます。
さらにソロにおいてRCサクセションの曲以上に自由度が顕著なのが、その音楽性。ソロデビュー作「い・け・な・いルージュマジック」ではニューウェーブを取り入れていますし、「お兄さんの歌」はトラッド、「世界中の人に自慢したいよ」ではゴスペルも取り入れています。さらに「夜空の星」はかの加山雄三のカバーですし、今回のアルバムでは未収録となっていますが、2005年には「雨上がりの夜空に35」というタイトルでRhymesterとコラボも実施。この点に関しても、彼が今も生きていれば、もっとHIP HOPも取り入れたのでは?と想像をたくましくしてしまいます。
ある意味、RCサクセションのベスト以上に忌野清志郎というミュージシャンの魅力や個性を味わえるベストアルバム。リアルタイムで聴いていた曲も多いのですが、こういう形でシングル曲をまとめて聴くと、あらためて彼の才能に魅了される内容になっていました。ただ、一方でちょっと残念な部分もあります。忌野清志郎のソロ作をまとめた作品なのですが、忌野清志郎&2,3'sやラフィータフィー名義の曲があるにも関わらず、一方でTHE TIMERSやHISのシングルは未収録になっています。他のミュージシャンとのコラボでも、坂本龍一とのコラボが入っている一方、及川光博とのコラボ、ミツキヨや、上にも書いたRhymeterとのコラボが未収録だったりと、収録の基準はあやふや…。確かに「COMPLETE」というタイトルのついたRCのベスト盤と異なり、こちらは「COMPILED」というタイトルなのですが…ここらへんのコラボや別名義の作品は、第3弾としてまとめてリリースしてほしいなぁ…この点だけはちょっと残念でした。
評価:★★★★★
忌野清志郎 過去の作品
入門編
忌野清志郎 青山ロックン・ロール・ショー2009.5.9 オリジナルサウンドトラック
Baby#1
sings soul ballads
ベストヒット清志郎
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