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2020年8月23日 (日)

ソロキャリア最初期の作品群を網羅

Title:The Complete Keen Years 1957-1960
Musician:Sam Cooke

1950年代後半から60年代前半にかけ、数多くのヒット曲を世に生み出し、R&Bチャートのみならずポップスチャートでもヒットを飛ばしたシンガー、サム・クック。1964年にモーテルの管理人の銃弾により殺されるという、わずか33歳で不可解な最期を遂げた彼ですが、その歌声は多くの人たちを魅了し、世代や人種を超えて、いまなお多くの人たちの支持を集めています。

そんな彼はもともと1950年に、わずか19歳で、当時「名門」と言われていたゴスペルグループ、ソウル・スターラーズのリードボーカルに抜擢され一躍注目を浴びます。特にその端正なルックスもあって、アイドル的な人気を博していたとか。そんな彼が1957年にソロ歌手としてデビューし、同時にゴスペルからR&Bに転身。その時、最初に契約したのがキーン・レコード。「You Send Me」などのヒット曲も飛ばし、キャリアを積み重ねます。1959年にはキーン・レコードを離れて大手レコード会社であるRCAビクターと契約するのですが、本作はそんな彼のソロキャリアの初期、キーン・レコード時代のアルバムをまとめたボックスセットです。

今回のボックスセットは全5枚組となっており、キーン・レコード時代のアルバムが網羅されている内容になっています。まず1957年の「Sam Cooke」、翌58年の「Encore」、さらには59年にリリースされた、ビリー・ホリディへのトリビュートアルバム「Tribute to the Lady」という3枚のオリジナルアルバムが収録。そしてシングル集である「Hit Kit」「The Wonderful World of Sam Cooke」の2枚にはボーナストラックも収録され、豪華な内容に仕上がっています。

その3枚のオリジナルアルバムと2枚のシングル集からなる今回のボックスセットですが、この5枚の作品が、それぞれ特色を持っているのがユニーク。メロウに甘い歌声を聴かせるデビュー作「Sam Cooke」はまさに彼のボーカリストとしての持ち味を最大限発揮したような内容になっていますし、続く「Encore」ではビッグバンドを取り入れて、より軽快でポップな内容に。さらに「Tribute to the Lady」はビリー・ホリディへのトリビュートというだけあって、ジャジーな作風に。さらに2枚のシングル集は、やはりシングル集ということもあって、軽快で聴きやすいポップチューンが並ぶ作品になっています。

さて、サム・クックというと彼の逝去後の1985年にリリースされたライブ盤「HARLEM SQUARE CLUB 1963」では、激しくシャウトし、パワフルでソウルフルなボーカルを聴かせてくれる一方、同じくライブ盤であり、名盤の誉れ高い「AT THE COPA」ではソウルよりもポピュラーミュージック色の強い作風が特徴的であり、かつオリジナルアルバムでも、比較的、白人層にもアピールできるようなポップス色の強い作風が多いというイメージがあります。

彼のソロキャリアの最初期であるキーン・レコード時代の作品ではさらにその傾向が強く、見方によっては非常に「お行儀がよい」と感じさせるようなソウルよりもポップス色が強い楽曲が並んでいます。そういう意味では「HARLEM SQUARE CLUB 1963」でのサム・クックを求めたとすると、ともすれば物足りなさを感じるかもしれません。しかし、1枚目の1曲目である「You Send Me」を聴けば、そんな懸念は一気に払拭されるのは間違いありません。いきなり流れてくるとても甘く、しかし力強さも感じる感情たっぷりのボーカルを一度聴けば、間違いなく彼のボーカルに魅せられるのは間違いありません。端整なボーカルながらも表現力たっぷりで、聴けば聴くほどはまっていくような魅力的なボーカルからは耳が離せません。サム・クックがなぜあれだけ多くの人たちを魅了し、数多くのボーカリストに影響を与えたのか、いきなり理解できるようなスタートとなっています。

全5枚組というのはそれなりのボリュームではありますが、サム・クックの魅力的なボーカルのため、一気に聴けてしまう作品になっていました。初期の彼の魅力を存分に感じるボックスセットであり、全ソウルリスナー必聴の作品。完全生産限定盤のため、後追いで聴くのは難しい点もあるかもしれませんが…(輸入盤オンリーですし)、まだ手に入るのならば、是非とも聴いて欲しい作品です。その美しく甘いボーカルがたまりません!

評価:★★★★★

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