優しい歌声で「より大きな愛」を歌う
Title:Bigger Love
Musician:John Legend
毎回、クラシカルなソウルアルバムでリスナーを魅了するJohn Legendの約2年ぶりとなるニューアルバム。前作同様、エグゼクティヴ・プロデューサーにトニー・トニー・トニーの元フロントマンであり、ディアンジェロ、アリシア・キーズ、ソランジュなどでも知られる、ラファエル・サディークを迎えた本作は、いつものJohn Legendの作品と同様、非常に優れたソウルアルバムに仕上がっていました。
まず非常に印象に残るのがアルバムタイトル。「より大きな愛」と名付けられた本作は、コロナ禍で混沌とした状況となっている今の世界や、ミネアポリスでの白人警察官による黒人男性絞殺事件に端を発したブラック・ライヴズ・マター運動が繰り広げられる状況の中へのメッセージのように感じられます。ちょっと懐かしいソウルミュージックを彷彿とさせるメロウでグルーヴィーな「One Life」では、タイトルの「One Life」というメッセージが何度も繰り返し歌われており、世界に対する彼のメッセージのように感じます。
また、この曲に限らず、今回のアルバムもまた、クラシカルで、ある意味、王道とも言えるようなソウルミュージックが展開される作品に。ハイトーン気味のボイスで優しく、そして力強く歌われる彼のボーカルは非常の豊潤であり、リスナーの心を包み込むような優しさを感じさせます。1曲目の「Ooh Laa」もまさにタイトルである「Ooh Laa」と優しく伸びやかに歌い上げるボーカルが強く印象に残る楽曲。続く「Actions」もファルセット気味の歌声で歌い上げるメランコリックな曲調が大きな魅力になっています。
その後も、ゆっくりと噛みしめるような歌い上げる感情たっぷりのボーカルが印象的なソウルチューン「Slow Cooker」、コーラスラインも入って、壮大なスケール感を覚える「Coversations in the Dark」、トライバルな打ち込みのリズムをバックに、力強い歌声で優しく歌い上げる「Don't Walk Away」や、ピアノとストリングスをバックに切ないメロディーラインが印象的なバラードチューン「Remember Us」など、サウンド的にはそれなりに今風にアップデートしつつも、基本的には昔ながらのソウルチューンといった雰囲気の、しかし、非常に魅力的なソウルチューンが続いていきます。
ゲスト陣は今回も豪華で、例えば「Wild」ではギタリストのGary Clark Jr.をゲストに迎え、ギターサウンドを加えた、力強く勇壮なサウンドが印象的。「U Move,I Move」ではJhene Aikoをゲストボーカルに迎えて、2人の魅力的なソウルシンガーによる感情たっぷりのデゥオに仕上げているなど、ゲスト陣も楽曲の中で、実に効果的なアクセントとして機能しています。
ラストの「Never Break」は、まさにこのアルバムを締めくくるにふさわしいピアノバラードで、大きな愛で包み込むのような彼の優しい歌声が実に魅力的なナンバー。ゆっくりとその歌声とメロディーラインに聴き入って、胸が熱くなるような楽曲に仕上がっています。最後の最後まで「Bigger Love」というアルバムタイトルにふさわしいアルバムに仕上がっていました。
楽曲としては決して目新しい作品ではないかもしれません。しかし、その歌声とメロディーラインが実に魅力的な、傑作のソウルアルバムであることは間違いないでしょう。そのタイトルといい、まさにこの2020年という時代を象徴することになった本作は、聴いていてとても幸せな気分になるようなそんなアルバムでした。
評価:★★★★★
John Legend 過去の作品
once again
WAKE UP!(John Legend&The Roots)
LOVE IN THE FUTURE
DARKNESS AND LIGHT
A Legendary Christmas
ほかに聴いたアルバム
Thank You For Using GTL/Drakeo the Ruler&JoogSzn
これはおそらく日本では絶対に制作できないようなアルバムです。アメリカはロサンゼルスを拠点に活動するラッパー、Drakeo the Rulerの新作なのですが、現在、共謀と発砲の容疑で刑務所に収監中の彼。本作は、そんな彼が刑務所からの電話によりラップを行い、それをJoogSZNが収録して作成されたアルバム。ちなみにタイトルのGTLとはGlobal Tel Linkという刑務所から外部への電話サービスを提供する会社のこと。そんな会社が存在していること自体、日本からすると驚きですが、それを使って録音したアルバムがリリースされるという点、日米の違いを感じてしまいます。
そんな肝心なアルバムは、ダウナーで物悲しげなトラックに、電話を通じたラップが乗ったスタイル。比較的淡々としゃべっているようなスタイルのラップになっており、内容は人種による境遇の差別を綴った社会的な内容になっているよう。その独特なスタイルもあって非常に印象に残るアルバムになっています。こういうスタイルでアルバムを制作できる環境が良いのか悪いのかはよくわかりませんが、ともすれば犯罪者に対して必要以上にバッシングを浴びせる日本からすると、ミュージシャンに対する寛容さがうらやましく感じる反面、収監の背後にある激しい黒人差別に対しては強く考えさせられる、そんなアルバムです。
評価:★★★★★
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