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2020年8月17日 (月)

日本人に染みついたメロディーライン

Title:あなたが選んだ古関メロディーベスト30

現在放映中のNHK朝の連続テレビ小説「エール」。昭和を代表する作曲家である古関裕而とその妻、金子をモデルとした作品ということもあって、古関裕而が今、注目されています。本作は、その古関裕而の出身地である福島県の新聞社、福島民報社が中心となって実施した人気投票の上位30曲を収録した、ドラマ放映にあわせてリリースされた企画盤。いかにも企画盤的なタイトルなのですが、古関裕而の楽曲を知るにはほどよくまとまっており、彼については以前、その評伝を読んだことがあるのですが、せっかくなので、ドラマ放映に合わせた「ブーム」にのっかかる形で、この古関裕而作品をまとめて聴いてみました。

一応、今回のドラマが放映される以前から、作曲家としての古関裕而の名前は知っていました。ただ、今回彼の作品集を聴いてみて、あらためて彼の音楽がいかにいまでも広く日本人に浸透しているのか実感しました。まずはなんといっても「六甲おろし」。おなじみ阪神タイガーズの応援歌ですが、タイガーズのファンではなくても多くの野球ファンに知られた曲でしょう。読売ジャイアンツの応援歌でもある「闘魂こめて」もジャイアンツのファンでなくても知っている野球ファンも多いでしょう。なにげに我らが中日ドラゴンズの応援歌「ドラゴンズの歌」も彼が作曲しているのですが、こちらは「燃えよドラゴンズ」に取って代わられてしまったため、私でも初耳でした…。いい曲なだけに、完全に消えてしまっているのはちょっともったいない感じも…。ちなみに人気投票でも「闘魂こめて」の21位を上回る14位を記録しており、それだけ応援歌として忘れ去られてしまった現状を惜しんでいる方が多い、ということなのでしょう。

他にも「栄冠は君に輝く」も、そのタイトルそのものが夏の高校野球の象徴となるほど有名な曲ですし、「スポーツ・ショー行進曲」も、タイトルだけでは知らないような人も、曲を聴けば「ああ、あの曲」とすぐにわかる方も多いでしょう。「モスラの歌」もおそらく世代を越えて、知られているような楽曲でしょうし、個人的に懐かしさを感じたのは「NHKラジオ『ひるのいこい』テーマ音楽」で、この曲、私が小学校の頃、土曜日に午前中、学校から帰ってくると、台所で昼食の準備をしている母親が聴いていたラジオから流れてきたなぁ…と、とても懐かしく感じてしまいます(…が、番組自体は現在も放映中のようです)。

まさにそれだけ古関裕而の書くメロディーラインは、現在の私たちにとっても、まさに染みついたメロディーラインと言っていいでしょう。同じく多くのヒット曲を生み出した戦後を代表する作曲家としては古賀政男や遠藤実などの名前もあげられますが、現在の若い世代でも知っている曲の数で言えば、おそらく古関裕而の方が上回るのではないでしょうか。特に流行歌ではないものの、長く歌い継がれているテーマ曲を多く手掛けているだけに、後世に残る楽曲が多かったように思います。

実際、彼が手掛けた楽曲は戦前の軍歌からスタートし、流行歌はもちろん、数多くのテーマ曲、応援歌、さらには社歌まで多岐にわたっています。ただ、それだけ彼の作品が多く求められたのは、彼の書く楽曲がとにかくわかりやすいから、それに尽きるように思います。「六甲おろし」にしても「闘魂こめて」にしても、数回聴いただけに思わず口ずさんでしまうようなキャッチーなメロディーラインが大きな特徴となっています。また、勇壮で聴くものを奮い立たせるような力強いメロディーラインも特徴的で、それが軍歌や応援歌などに彼の楽曲が求められた大きな要因のように思います。

また、いかにも演歌的な哀愁感たっぷりのメロディーを書くこともあるのですが、一方では全体的に、そんないかにも日本的な哀愁感とは無縁のカラッとした作風も特徴的で、例えば今回の人気投票で1位となった「高原列車は行く」などもそんな典型例でしょう。前述の、今も知られる彼の楽曲にも、そんな哀愁感とは無縁のメロディーラインを感じることが出来、今となってはある種の「古臭さ」を感じてしまうような演歌的な作風とは無縁の楽曲も数多く作って来たことも、彼のメロディーが今なお、いろいろな場面でつかわれ続けている大きな要因のひとつのようにも感じました。もちろん、一方ではいかにも演歌的な楽曲も少なくはないのですが。

そんな訳で、いかにも企画盤的なタイトルですが、今話題の古関裕而の作品について代表曲を網羅的に知ることが出来、彼の魅力にしっかり触れることが出来る、よく出来た企画盤だと思います。「エール」を見て、彼に興味を持った方にはちょうどよいアルバムでしょう。あらためてその偉大な作曲家の魅力を感じることが出来たアルバムでした。

評価:★★★★★

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