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2020年8月15日 (土)

正直なところ本人たちが一番…

Title:サンボマスター究極トリビュート ラブ フロム ナカマ

このたび結成20周年を迎えたロックバンド、サンボマスター。デビュー当初から高い評価を集め、かつ多くのミュージシャンたちからも支持を得ていた彼らですが、このたび初となるトリビュートアルバムがリリースされました。比較的、若手ミュージシャンたちを中心にしつつ、最後には奥田民生という大御所で締めくくるという構成のアルバム。基本的にロック系がメインなのですが、サンボマスターが多くのミュージシャンたちから支持を得ていることを感じる構成になっています。

ただ、正直言ってしまうと、アルバムを聴き終わった後に感じてしまったのは、やはり本人たちの曲が一番だった、ということでした。その一番の理由は、やはりサンボマスターの音楽が、バンドのメンバーたちが発する個人的な感情が曲に強く反映されており、なおかつ、それが彼らの大きな魅力だから、という点が大きいのではないでしょうか。

例えば冒頭を飾るSUPER BEAVERの「ロックンロール イズ ノットデッド」にしても、ギターロックとしてよく出来ているのは間違いありませんが、原曲では山口隆のシャウトにより、いかにもロックンロールに対する狂おしいほどの愛情を感じさせるのに対して、こちらのカバーは無難なギターロックという印象に留まっています。ヤバイTシャツ屋さんの「光のロック」もハードロックテイストのアレンジは曲にマッチしており、ヤバTの力量も感じさせるのですが、男女デゥオで学生ノリの陽気さを感じるヤバTの雰囲気が、どうもサンボマスターとはミスマッチのような印象も受けてしまいます。

いや、楽曲それぞれについては、ミュージシャンの個性も反映されており、それなりによく出来たカバーには仕上がっていたと思います。完全に自分たちの土俵にのせてトランスロックにカバーしたFear,and Loathing in Las Vegasの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」や、エレクトロチューンに大きな変貌を遂げたIchiro Yamaguchi+Setsuya Kurotakiの「美しき人間の日々」、さらに岡﨑体育による「二人ぼっちの世界」は、岡﨑体育のイメージとは異なる、ピアノで切なく聴かせるバラードチューンに仕上げており、彼のちょっと意外な一面を感じることも出来ます。

サンボマスターのような、感情を思いきり楽曲にぶつけて、彼らしかもっていないような個性が楽曲の大きな魅力であるミュージシャンのカバーはやはり難しいのでしょう。全体的には決して悪くないのですが、その点を差し引いても、聴いていて物足りなさを感じてしまいました。ただそんな中で良かったカバーが2曲。まずは銀杏BOYZ みねたかずのV名義の「夜汽車でやってきたアイツ」。峯田和伸自体も、自身の感情を楽曲にストレートにぶつけるタイプのミュージシャンなだけに、サンボマスターとの相性の良さも感じます。この曲は、最近の彼らしいノイズを前面に押し出し、楽曲を思う存分歪めた曲調なのですが、ある意味、振り切った音楽性も大きな魅力に感じました。

そしてもう1曲が最後を飾る奥田民生の「そのぬくもりに用がある」。こちらは圧巻の貫禄といった感じでしょうか。普段、飄々としている彼ですが、楽曲にはしっかりとその感情をぶつけており、彼なりのサンボマスターの解釈が魅力的な作品になっています。

聴いて損するようなアルバムではないと思いますし、参加ミュージシャンのファンなら聴いて損はないと思うのですが…。ある程度は予想していたのですが、やはりサンボマスターの曲はサンボマスターによるのが一番良い、そういうことを実感したトリビュートでした。それだけ、彼らが絶大な個性を持ったミュージシャンということなのでしょうね。

評価:★★★★

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