戦前の珍盤・奇盤たち
Title:レコード供養~復刻されない謎の音源たち
戦前のSP盤レコードをユニークな視点から企画・選曲し、復刻させているレーベル、ぐらもくらぶ。いままでも非常にユニークなコンセプトによる選曲でのオムニバス盤を数多くリリースしており、戦前の音楽に興味のあるような音楽リスナーを楽しませてくれました。当サイトでもそんなアルバムを何度か取り上げてきましたが、今回の企画はそんな中でもずば抜けてユニークな企画。今回のアルバムでは、なんでこんなSP盤がリリースされたんだろうか、というような、通常の復刻企画ではまず100%無視されるような、珍盤・奇盤をあえてセレクトして復刻しています。まさにレコード供養という名前にふさわしい、こういう企画でもなければ、まずは復刻されないような音源を復刻し供養した、そんな1枚になっています。
まずアルバムの序盤、堕落した寺の坊主を痛烈に皮肉ったという「流行小唄『お経都々逸・からくり都々逸』」や、当時のゴシップネタを歌にした「独唱『Mamita mia 私のマミータ」あたりは、社会性もあり、発売された時代背景もわかるような内容。「珍盤」ではあるものの、社会学的にも興味をそそられる曲といえる楽曲になっています。
ただ収録曲はそこからさらに謎の珍盤・奇盤に突入していきます。「流行小唄『万里の長城(サノサ節)』」は、どうも素人による録音のようですし、「テスト盤『マイク・テスト風景①』」「テスト盤『マイク・テスト風景②』」はタイトル通り、マイクテストの模様を収録した謎な音源。さらに「合奏『おもちゃの交響楽』」は、杉並第一国民学校(現杉並第一小学校)の児童の演奏会の風景を録音した記念録音と関係者以外にはいまひとつ興味を持てないような録音になっています。いまみたいに誰でも気軽に、それこそスマホでも録音・録画できるような今と異なり、このような記念録音はSP盤という形でリリースして残さなければならない時代性も感じます。
さらになんといっても奇妙なのが、このアルバムの後半に3トラックにかけて収録されている「雑音レコード『ラヂオに混入する雑音』」なる録音。普通の音楽の途中にけたたましい雑音が混入されるという、到底、鑑賞に堪え得ない録音なんですが、これは、ラジオに影響を与える様々な要因によって、ラジオにどのような雑音が混じるのかを実例として取り上げたもの。要するに、ラジオに雑音が混じった場合には、このレコードを参考にして、何か原因なのか探ってね、という実用性の高いSP盤だそうで、いまとなってはまず復刻されないであろう奇妙な音源となっています。
そして極めつけの珍盤と言えるのが「講演『霊界通信』」で、こちらは世にも珍しい霊媒実験の記録だそうで、実際に霊媒が行われて、実験者と死者(とされる人)との会話が記録しています。こういうカルト的なものは、こんな昔からあったんだな、ということを感じるのですが、珍妙な企画ながらも、じゃあ、今の時代、こういうCDがリリースされ得ないかというとそんなこともなく…良くも悪くも時代を越えて変わらないものも感じてしまいます。
一方で、今の時代からしても非常に興味深い録音もあり、それが「純情美談『忠犬ハチ公(ハチ公の鳴き声)』」で、こちらは今でもおなじみの忠犬ハチ公の物語が語られる内容なのですが、なんと録音の最後にハチ公の鳴き声が!ちなみにかつて、フジテレビ系バラエティー「トリビアの泉」にも取り上げられたことのあるような、ある意味「知名度の高い」録音音源なんですが、こういう音源がしっかりと復刻されたのはうれしい話。さすがぐらもくらぶ、といった感じでしょうか。
ともかく、通常であればまず復刻されないようなSP盤が収録されている今回のオムニバス盤。正直言って、通常の鑑賞には適さないようなトラックがほとんどで、そういう意味では万人向けではありません。評価もそういう意味で★ひとつマイナスで。ただ、企画としては非常にユニークで、そしてある種の資料的価値もある、興味深い好企画であることは間違いありません。興味がある方は是非。こういう企画はやはり楽しいですね。なにげにとても楽しめた1枚でした。
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン/PIZZICATO ONE
小西康陽のソロプロジェクト、PIZZICATO ONEのニューアルバムは、昨年の10月11日と15日にビルボードライブ東京と大阪で行われたライブの模様を収録したライブ盤。ちなみにライブのMCで「こんな状況の中」とか「早く帰りたい」とか言っているのですが、これは10月11日の東京でのライブが、東京を襲った台風19号最接近の前夜に行われたためのようです。
このライブ盤の最大の特徴は、なんと小西康陽自らがボーカルを取ったアルバムであるという点。ピチカートファイブ時代の作品から自身のソロ作までを自らのボーカルでカバーしたアルバムになっています。その小西康陽のボーカルは、低音で渋く、ボーカリストとして意外と味があって悪くない…と思いつつも、一方、やはり野宮真貴ボーカルを前提としたピチカートファイヴの曲に関してはかなりの違和感が…。
全体的には、やはりピチカートの曲は野宮真貴ボーカルの方がいいかなぁ、なんてことを思いつつも、これはこれで味のある音源になったようにも思います。貴重な記録音源といった印象も受けるライブ盤でした。
評価:★★★★
小西康陽(PIZZICATO ONE) 過去の作品
ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010
11のとても悲しい歌(PIZZICATO ONE)
わたくしの二十世紀(PIZZICATO ONE)
なぜ小西康陽のドラマBGMは テレビのバラエティ番組で よく使われるのか。
井上順のプレイボーイ講座12章(小西康陽とプレイボーイズ)
REVIEW 2.5 〜BEST OF GLAY〜/GLAY
先日、GLAYのベストアルバム「REVIEW II」がリリースされましたが、本作は、その「REVIEW II」に収録されなかったものの、追加で入れるのならば、というコンセプトで選曲された配信限定でのベスト盤。全57曲入りのベスト盤から漏れた曲なので、一般的によく知られた曲は収録されておらず、「知る人ぞ知る」的な曲も多いものの、基本的にいつものGLAYといったスタイルの曲ばかりで、新鮮な驚きみたいなものは皆無。良くも悪くもリスナーがGLAYとしてイメージする曲から一歩も乖離しないあたりが彼ららしさなんだろうなぁ、とも思ったりもします。
評価:★★★★
GLAY 過去の作品
GLAY
JUSTICE
GUILTY
MUSIC LIFE
SUMMERDELICS
NO DEMOCRACY
REVIEWII~BEST OF GLAY~
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