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2020年7月13日 (月)

ロックリスナー寄り?

Title:RTJ4
Musician:Run the Jewels

アルバムがリリースされる都度、高い評価を得ているHIP HOPデゥオ、Run the Jewels。約3年半ぶりとなるニューアルバムとなった本作でも、PitchforkでBEST NEW MUSICに選出されるなど各所で絶賛。さらにビルボードチャートでも見事、初となるベスト10入りを果たすなど、人気面でも確実にそのすそ野を広げてきています。

ただ、彼らについては以前から、どのような層に支持されてきたのか、若干気になる部分はあります。なぜならば、ご存じの通り、今のHIP HOPシーンといえばトラップが主流。最小限のビートを強調したトラックにメランコリックでメロディアスなラップが受けています。そんな中、彼らのスタイルはそういった主流とは大きく異なります。彼らの奏でるトラックはダイナミックなビートをロッキンに聴かせるスタイルで、イメージとしてはむしろロック寄りのスタイル。そういう意味でも昨今の流行のスタイルとは大きく異なります。

実際に、1曲目を飾る「yankee and the brave(ep.4)」はリズミカルなビートが印象的なナンバーで、雰囲気としてはむしろオールドスクールの色合いすら感じる楽曲で、ある種のなつかしさも感じてしまいます。続く「ooh la la」も先行シングルとなった楽曲なのですが、軽快ながらも力強いロッキンなビートが印象的なナンバー。隠し味のように加えられた、ループするピアノのトラックも若干不気味さを感じつつ、心地よさを感じます。

その後も力強いラップも大きなインパクトとなっている「holy calamafuck」やギターサウンドも入ってロックな要素も強いトラックの「the ground below」など、ロッキンなビートの曲が続いています。正直言って、HIP HOPよりもロックを好んで聴いているような、私のようなリスナー層にとっては、耳なじみのあるサウンドで聴きやすく、非常にインパクトを感じる楽曲が並んでいます。

そんな中でも、ファレル・ウィリアムズをフューチャーした「Just」は、トラップからの影響を感じるようなリズムが特徴的なナンバーになっており、今風な要素を感じます。ただ、この曲には、なんとかのRAGE AGINST THE MACHINEのZack de la Rochaがボーカルとして参加。その特徴的なボーカルは一発でわかりますし、やはりロックリスナーとしては非常にうれしくなってくるナンバーになっています。

そんなこともあって、今風のHIP HOPというよりは、むしろロック寄りな部分を感じらせるRun the Jewelsのアルバム。もちろん、以前からその傾向が強かったものの、今回のアルバムでは、よりその方向性も明確になったように感じます。特に先日、アメリカで発生した黒人男性ジョージ・フロイドの死亡事件から端を発するブラック・ライブズ・マターのデモ活動の中で、Run the Jewelsのメンバー、キラー・マイクが「暴動はやめて選挙に行こう」と呼びかけたスピーチが大きな話題となっています。そのこともあって今回のアルバムでは、以前のようなふざけたジョーク的なトラックはなくなり、社会派な色合いの強い楽曲が並ぶアルバムとなっていました。ある意味、ロッキンなトラックも彼らの怒りをあらわしている、と言えるのかもしれません。また、内省的な要素の強いトラップとは一線を画するのも当たり前なのかもしれません。

今のHIP HOPの方向性とは一線を画するアルバムかもしれませんが、その主張からしても、間違いなくアメリカの今を象徴するようなアルバムと言えるでしょう。ある意味、ロックリスナー層にも聴きやすいアルバムだからこそ、日本でも多くのリスナーを確保しそうな作品かも。ブラック・ライブズ・マターは日本でも話題となりましたが、新型コロナが蔓延する現状と相成り、世界はますます混沌とした状況に陥っていく恐れもあります。そんな中、今後も彼らは楽曲を通じてメッセージを発生させていくのでしょう。今回のアルバムは間違いなく今年を代表する傑作アルバムになりそうですが、次のアルバムはもっとジョーク的な要素が多い作品がリリースできるような状況になるように願わざるを得ません。

評価:★★★★★

Run the Jewels 過去の作品
Run the Jewels 2


ほかに聴いたアルバム

Chromatica/Lady Gaga

Lady Gagaの単独名義としては約3年半ぶりとなるニューアルバム。その前作「Joanna」はシンプルなサウンドのカントリーを基調としたアルバムになっていましたが、本作は一転。以前の彼女らしいエレクトロダンスポップに戻っています。正直、以前の彼女の曲同様、目新しさは皆無なのですが、それでも最後まで全く飽きることなく、一気に聴き切れてしまうあたり、彼女の楽曲のポピュラリティーの高さを感じさせます。いい意味でLady Gagaらしい、ファンにとっては安心して聴ける1枚です。

評価:★★★★

LADY GAGA 過去の作品
The Fame
BORN THIS WAY
ARTPOP
Cheek to Cheek(Tony Bennett & Lady Gaga)
Joanna
A Star Is Born Soundtrack(アリー/ スター誕生 サウンドトラック)(Lady Gaga & Bradley Cooper)

Access Denied/Asian Dub Foundation

約5年ぶりとなるAsian Dub Foundationのニューアルバム。今回のアルバムでもいつもの彼らと同様、強烈なジャングルのビートやレゲエ、ダブなどの要素を取り入れた強烈なサウンドメイキングが印象的。ただ、中には「Realignment」のようなストリングスを取り入れた繊細なナンバーもあったりして、アルバムの中で良いインパクトとなっているほか、パレスチナのジャムステップ・グループ47Soulやチリのラッパー、Ana Tijoux、オーストラリアのDub FXなども参加し、多国籍な陣容となっているのも彼ららしい感じ。また、かのグレタ・トゥーンベリの演説もサンプリング(・・・って、この間のThe 1975のアルバムでも同じことしていたけど)。彼ららしい強烈なメッセージがサウンドからも伝わってくるようなアルバムになっていました。

評価:★★★★★

ASIAN DUB FOUNDATION 過去の作品
Time Freeze 1995/2007
PUNKARA
A History Of Now
THE SIGNAL AND THE NOISE


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