バラバラな作品が並んだ作品
Title:Notes On A Conditional Form(邦題 仮定形に関する注釈)
Musician:The 1975
本作で4作連続全英チャートで1位を獲得。日本でも高い人気を獲得しつつあるロックバンドThe 1975。特に前作「A Brief Inquiry Into Online Relationships」は各所で絶賛を集め、個人的にも2018年の洋楽私的ベストアルバムの1位として選ぶなど、かなりはまったアルバムになりました。それから約1年6ヶ月という比較的短いスパンで、彼らの待望のニューアルバムがリリースされました。
本作、1曲目は恒例となっている「The 1975」というバンド名を題した楽曲からスタート。今回の1曲目はかの環境活動家として知られるグレタ・トゥーンベリの演説を、ピアノをベースとしたメランコリックなサウンドにのせるという、ポエトリーリーディング的な楽曲に。アルバムの冒頭を飾る楽曲をこのようなスタイルで構成するあたり、非常に挑戦的な姿勢を感じると共に、バンドとしてのスタンスも明確に感じられる1曲になっています。
ただ、この1曲目の雰囲気をガラリと変えるのは2曲目の「People」。いきなりノイジーなギターサウンドを前面に押し出したパンキッシュでへヴィーなギターロックナンバーになっており、The 1975のイメージからすると、かなり意外な展開となります。個人的には、かなり好きなタイプの楽曲なのですが、1曲目とのギャップも大きく、アルバムのど初っ端から度胆を抜かれたリスナーも少なくないのではないでしょうか。
今回のアルバムは、この1、2曲目の展開からもわかるように、非常に様々な作風の曲が並んだアルバムになっています。エレクトロポップチューンの「Frail State Of Mind」や「Yeah I Know」。「Jesus Christ 2005 God Bless America」ではアコギでフォーキーに聴かせたかと思えば、「Shiny Collarbone」ではにリズミカルでフロア志向のテクノチューンになっています。
後半に出てきた「If You're Too Shy(Let Me Know)」は、ようやく以前のThe 1975を彷彿とさせるような80年代風のエレクトロアレンジのAORチューンといった感じでしょうか。ラストを締めくくる「Guys」もシンセを用いた80年代風なアレンジで、The 1975らしい美メロを聴かせるポップチューンになっており、こちらも、実にThe 1975のイメージに沿ったような楽曲で締めくくられています。
アルバム通じてバラバラな作風は歌詞の世界でもそのような傾向があるようで、冒頭にグレタの演説を使用したり、2曲目「People」では人々の連帯を歌っているように、社会派なメッセージ性の強いアルバムになっているかと思いきや、「Me&You Together Song」では甘い恋の思い出を歌として読み込んでいるそうで、曲調と同様、歌詞にも振れ幅を感じさせるアルバムになっていました。
そんな訳で、アルバム全体を通じて非常にバラエティー富んだ作品となった本作。各種メディアなどでは概ね高い評価を得ている反面、このバラバラな音楽性については賛否両論を呼んでいるようです。ただ、個人的には確かに最高傑作だった前作と比べると一歩劣ってしまうアルバムだったかもしれませんが、その点を差し引いても年間ベストクラスの傑作に仕上がっていた、といって過言ではないでしょう。
特に今回のアルバムは、全22曲80分という非常に長尺のアルバムになっています。にも関わらず、全くダレることなく最後まで一気に聴き切ることが出来たのもこのバラエティー富んだ作風があったからではないでしょうか。エレクトロベースな作品やアコースティックな作品、バンドテイストの強い作品をほどよいバランスで交互に配置しているアルバム構成にも、最後まで飽きさせないような工夫を感じます。そしてなにより、どの曲にもThe 1975らしい美しいメロディーラインが流れていた点、魅力的なアルバムになっていた大きな要因でしょうし、バラバラになりそうな今回のアルバムが決して「散漫」にならなかったのは、このメロディーラインの力に寄る部分が大きいようにも思いました。
The 1975がまたリリースしてきた傑作アルバム。まだまだその活躍は続きそう。まずはこの80分にも及ぶフルボリュームの本作をじっくりと味わいたいところ。まさにバラエティー富んだ作風でお腹いっぱいになったアルバムでした。
評価:★★★★★
The 1975 過去の作品
The 1975
I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it(君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。)
A Brief Inquiry Into Online Relationships(ネット上の人間関係についての簡単な調査)
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