「目」のアルバム3枚
これは完全に「偶然」の話なのですが、ほぼ同時期に、ほぼ同一のタイトルのアルバムが3枚、リリースされました。
Title:eyes
Musician:milet
まず、最近話題となっている女性シンガーソングライターのデビューアルバム。「生年月日が不詳」という「謎めいたミュージシャン」という売り方をしつつ、デビュー作から多くのドラマ、アニメのタイアップをつけるなど、レコード会社及び事務所であるソニー資本のかなり力の入れた販売戦略を感じます。さらにサマソニやフジロックなどにも参加。フジロックもお金の力に弱いのか…と残念な印象も受けなくはないのですが…ただ正直ここ数年、あきらかに来客数を増やす目的と思われる「売れ線系」のミュージシャンが多く出ているんで、その流れなんでしょうね…。
ただ、印象的なのがボーカルで、ちょっとくすんだ雰囲気のスモーキーなボーカルを聴かせてくれます。ここ20年ほどの女性ミュージシャンの潮流というと、90年代の小室系ブームあたりから端を発して、ハイトーンボイスのキンキン声のボーカリストがメイン。ここ最近の女性ボーカリストも、やはりハイトーン気味の女性ボーカルが多いだけに、こういうスモーキー系なボーカリストを売ろうとするスタンスはちょっと意外な印象もあります。ここ最近、SUPERFLYやGlam Spankyみたいなタイプのミュージシャンのブレイクも相次いでいるからでしょうか。
一方、肝心な楽曲自体については、洋楽テイストも強く悪くはないものの、全体的に薄味気味かな、ということを強く感じてしまいます。ミディアムテンポな楽曲に打ち込みとアコースティックなサウンドを融合させて聴かせるポップチューン。アリアナ・グランデやらテイラー・スウィフトやらといった、今時の洋楽系女性シンガーソングライターの影も感じつつ、ただ、楽曲として目新しさはなく、全体的にmiletらしい独自性はちょっと薄いように感じてしまいます。ボーカルにしても、そのボーカルスタイルには一種の独特な味は感じさせつつも、それだけを売りにするには正直、物足りなさは否めません。
決して悪い訳ではありませんし、次回作も聴いてみてもいいかな、程度には楽しむことが出来たのですが、チャート1位を取った本作について、ここまで人気が高くなったのは正直、タイアップなどによるかさ上げによる側面が多いという印象は否めません。ある意味、人気がちょっと落ち着いて、タイアップもいままでのように大型タイアップばかりとは限らなくなってからが彼女の本当の勝負なんだろうなぁ。
評価:★★★★
Title:め
Musician:さユり
「酸欠少女さユり」という(ちょっと痛い)キャッチコピーでも活躍している、こちらも若干謎めいた雰囲気を醸し出している女性シンガーソングライター。こちらも偶然ですが「め」という、もっとストレートな日本語のタイトルを用いたアルバムで、本作はアコギでの弾き語りアルバムという企画盤。彼女の過去の代表曲を弾き語りというスタイルで聴かせる作品になっています。
まあ、そのキャッチコピーからして察することが出来ますし、以前のアルバムからも強く感じていたのですが、良くも悪くも自意識過剰な中2病系シンガー。そういうこともあって、歌詞にしてもインパクトありますし、メロディーラインに関しても耳に残るものはあります。ただ、今回、アコースティックアレンジということで、その歌詞やメロディーがかなり前面に押し出されているのですが、歌詞については、正直、聴いていてちょっと辛いものも…。「本当の声で言葉で話がしたいの」(「アノニマス」より)だとか「今日は誰かの誕生日で そして同時にあたなの命日です」(「birthday song」より)だとか、確かに10代半ばあたりの若者が心に持つ、鬱屈した感情をストレートに表現している、という言い方も出来るのですが、あまりにもストレートがゆえに痛々しく、もうちょっとひねったり、もう一歩、突っ込んだ歌詞を書いた方がおもしろいのでは?と素直に思ってしまいます。
それと同時にメロディーラインについてもインパクトはあるものの、正直言って似たようなメロディーがちらほら散見され、アコースティックアレンジだからこそ、そういった粗い部分が目立ってしまったような感じもします。個人的にはこのままだと厳しい部分を感じてしまうのですが…まあ、この方向性で突き抜けてしまうという手もあるにはあるのでしょうが…。
評価:★★★
さユり 過去の作品
ミカヅキの航海
Title:EYES
Musician:WONK
で、今回完全に色合いが異なりながらも、偶然、同じようなタイトルのアルバムを同時期にリリースしたのがソウルバンドWONKの最新作。今回は、CDでのリリースは完全受注生産のみというリリース形態で、基本は配信オンリーというスタイルとなっています。
今回のアルバムは「“高度な情報社会における多様な価値観と宇宙”をテーマ」というコンセプトアルバムになっています。「多様な価値観」という部分はちょっと不明なのですが、「宇宙」というテーマ性に関してはサウンド的にスペーシーな楽曲が多いため、強く感じることが出来ます。
そんな今回の作品はエレクトロサウンドをベースとしたアレンジのメロウなAORチューンがメイン。なによりも「歌をしっかりと聴かせる」という印象の作品になっているのは、いままで聴いたWONKの作品と変わらず。途中のスキットも含めて全22曲75分というかなりのボリューム感ある作品になっているのですが、ポップな歌を楽しめる作品が多いため、さほどダレることなく聴き切れるアルバムになっていました。個人的には、もうちょっとバリエーションがあった方がより面白いとは思うのですが。
評価:★★★★
WONK 過去の作品
BINARY(WONK×THE LOVE EXPERIMENT)
Moon Dance
そんな訳で偶然並んだ「目」というタイトルのアルバム3枚。ま、共通項は全くなく、同時期にこのようなアルバムが並んだのは偶然以外の何物でもないんですけどね。
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