新進気鋭の19歳
Title:strobo
Musician:Vaundy
今回紹介するのは、これで「バウンディ」と読む、リリース時点で若干19歳(誕生日が6月6日なので20歳となったようですが…)という新進気鋭のシンガーソングライターによるアルバム。昨年11月にリリースした配信シングル「東京フラッシュ」がSpotifyの日本バイラルチャート3位に2週連続ランクインし、大きな話題となったほか、本作にも収録されている「灯火」がFODドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌に起用されるなど大きな話題に。そして本作はデビュー作でありつつもアルバムチャートでベスト10入りするなど、いきなり大ヒットを記録し、今、最も注目を集めているシンガーソングライターの一人となっています。
楽曲のタイプとしては、ここ最近、ヒットシーンの中で一定の支持を集めている、シティポップの系列につながるようなAORがメインといった印象でしょうか。その話題となったデビュー作「東京フラッシュ」は、まさに軽快でメロウなAORチューンになっていますし、「life hack」「不可幸力」などもラップの要素を入れつつ、気だるさを感じられるシティポップ風のメロウなサウンドが印象的な楽曲に仕上げられています。
ただ一方、アルバム全体としてはAORというジャンルに留まらない作風を聴かせてくれています。例えばドラマ主題歌で話題となった「灯火」などはアコギのサウンドで爽快にまとめた、カントリー的な要素を感じるポップになっていますし、「怪獣の花唄」などは、疾走感あるギターロックのサウンドになっており、むしろオルタナ系のギターロックの要素の強い楽曲になっています。
そのため概していえばバラエティー富んだ作風のポップアルバム、と言えるかもしれません。ただ、一方ではバラエティー富んだ作風に、良くも悪くもJ-POP的な要素、もっと言えば、いかにも日本のヒットシーンで「売れ線」となりそうなタイプの楽曲の方向性を感じます。具体的に言うと、ほどよく複雑だけどポップにまとまっている音楽性、洋楽テイストを感じつつも、確固たるルーツが見える訳ではないサウンド、音数を比較的多くしてダイナミックにまとめた楽曲・・・良くも悪くもいかにもJ-POP的に感じます。
日本の音楽シーンって、エッジの効いたサウンドや海外からの流れを取り込んだ楽曲を奏でるミュージシャンたちが登場し、ブレイクした後、それをJ-POP的に咀嚼したミュージシャンたちがあらわれてブレイクし、その後は良くも悪くもどんどんベタに、「歌謡曲的」になっていく、という流れが良く見受けられます。シティポップという流れの中でもSuchmosやceroなどといったミュージシャンたちがブレイクした後、先日紹介した藤井風や、今回紹介したVaundyなどが、その流れをJ-POP的に咀嚼してブレイクしている、という印象を受けます(King Gnuもそうかもしれません)。それが悪い、という訳ではないのですが、それだけシティポップというムーブメントも一般化してきたのかな、という印象を、今回のVaundyのブレイクからは受けました。
多彩な音楽性を持つ新進気鋭のミュージシャンという紹介をされている彼。確かに幅広い音楽性と実力は感じますし、本作が魅力的なポップアルバムであることは間違いないと思います。ただ、新しい流れを生み出すミュージシャンかと言われると、そういうタイプよりも既存のフォーマットの中で、よりJ-POP寄りに解釈しているミュージシャンという印象を受けました。それだけに、より広い層に支持されてさらなるブレイクも予想されるのですが・・・さて、これからどんな活躍を見せるのでしょうか。
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
WONDERLAND/Novelbright
こちらも最近話題となっている新進気鋭のロックバンド、Novelbright。ライブ動画をSNSにアップし、それを機に人気を獲得していったという、ある意味、今どきな人気の獲得を見せているバンド。楽曲的にはメランコリックなメロディーラインも印象的なギターロックバンド。SNSでも話題となった歌声も魅力的なバンドといえばバンドなのですが・・・ただ正直言って、別に以上でも以下でもないという印象で、これといったスバ抜けたメロを書いている訳でもおもしろい歌詞があるわけでも、サウンドも特徴的な訳でもなく・・・楽曲は悪いわけではなく、ポップスとしての訴求力は確かにあるとは思うのですが・・・と煮え切らない感想になってしまいます。良くも悪くも「万人受け」するようなタイプのバンドといった感じでしょうか。個人的にはもうちょっと彼らしかないような独特な癖があった方がおもしろいと思うのですが・・・。
評価:★★★
夢の骨が襲いかかる!/長谷川白紙
こちらも今話題の新進気鋭の男性シンガーソングライターによる新作。今回の作品は全7曲入りのミニアルバムとなるのですが、全曲、カバーとなる作品。基本的にエレクトリックピアノの演奏でシンプルに聴かせるスタイル。相対性理論の「LOVEずっきゅん」やサンボマスターの「光のロック」のような楽曲でも、彼の手にかかるとメロウに聴かせるポップチューンになっているのがユニーク。唯一のオリジナル「Sea Change」もピアノのシンプルな弾き語りなのですが、彼のメロウな歌声が映える、ほかのカバー曲に勝るとも劣らない傑作のナンバーに。ラストのアラジンのテーマ曲「Whole New World」も、ダイナミックな原曲からガラリと変わって繊細なソウルナンバーに仕上げており、この曲の意外な魅力にも気が付かされます。シンガーとしての長谷川白紙の魅力を存分に発揮した傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
長谷川白紙 過去の作品
エアにに
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