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2020年6月14日 (日)

35年の歩み

本日は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介&感想です。

個人的にファンの、渡辺美里の自叙伝的な1冊、「ココロ銀河~革命の星座~」です。今年、デビュー35周年を迎える彼女の、初となるオフィシャルブック。彼女のデビュー時からデビューに至る前の時期、さらには今に至るまでの歩みが綴られている本。著者は渡辺美里本人となっているように、基本的には彼女へのインタビューから構成された内容になっているよう。軽快な(ただちょっとおばさんちっくな部分もある(失礼!))語り口は、ファンにとってはおなじみな、いかにも渡辺美里らしい語り口で、彼女の35年の歩みが綴られているほか、デビュー当初から今に至るまでの貴重な写真も数多く収録。さらには1995年から96年にソニーマガジンズの雑誌「Pee Wee」で連載されたエッセイ集「ロックのハート」を、雑誌の構成そのままで収録されています。

デビュー当初のエピソードから、「My Revolution」でのブレイクや西武スタジアムでのライブのエピソード。80年代から90年代にかけての数多くのヒット曲にまつわるエピソードや、西武スタジアムでのライブが終わった後の話、さらには最近の曲や、最近、作曲を手掛けたミュージシャンたちとのエピソードまで、まさにミュージシャン渡辺美里の歩みを知ることの出来る本作。デビューからブレイク、西武スタジアムから現在に至るまでの概ねの流れについては、ファンにとってはおなじみの話であり、特に目新しさはなかったのですが、ただ一方で非常に興味深かったのは、第1章から第2章にかけて紹介されている、数多くのヒット曲誕生にまつわるエピソード。特に「恋したっていいじゃない」が生まれたエピソードとして、彼女が芸能ニュースを見て「恋くらいしたっていいじゃん、ねぇ?」と語ったところを、当時のプロデューサー、小坂洋二が拾い上げたというエピソードははじめて知ったのですが、ふとしたきっかけでフレーズが出来上がるという点、とてもユニークに感じます。

また、デビュー直後のエピソードには、若き日の小室哲哉、岡村靖幸、大江千里といった、後々、シーンを代表することになるようなミュージシャンとのエピソードも語られており、非常に興味深く読みことが出来ました。岡村靖幸のエピソードとして、自分の曲のレコーディングではない時もスタジオに遊びに来て、「大村雅朗さんがアレンジしている間も「フォー!」とか「ベイビー!」とか言いながらずっと横にいて。」(p102)というエピソードは、いかにも岡村ちゃんらしく、ほほえましく感じます。渡辺美里のデビュー当初は、若き才能たちがいままさに羽ばたこうとしていた時期であり、そんな時期のエピソードはいかにも若々しさを感じ、かつシーンが非常に活性的であったことを、渡辺美里のエピソードを通じても感じることが出来ます。

そしてこの35年間の歩みを読んでさらに感じることがあります。それは彼女の人生、本当に順風満帆だったんだなぁ、ということ。17歳であっさりデビュー出来た後、下積みもほとんどなく、ほどなくブレイク。その後も20年連続西武スタジアムライブという快挙を達成し、それからも今に至るまで特に問題なくミュージシャン生活を続けている・・・そう感じてしまいます。実際、彼女はその通り、比較的順調なミュージシャン人生だったと思います。ただ、例えば80年代から90年代初頭にかけて一世を風靡した反面、90年代後半からは人気が急落。最後の方の西武スタジアムは空席も目立ち、かなり厳しい状況だった、という事実もあり、決して終始、順風満帆という訳ではなかったと思います。

ただ、これは彼女の性格なのでしょう、この本には、そういう彼女の影の部分はほとんど、というよりも全く描かれていません。あえていえば2001年の西武ドームライブ「TRY TRY TRY」のエピソードとして「スタッフのなかに『西武球場ライブをやるために曲をつくってもらうのは困るんですよね」と言う人が出てきたんです。また、スタッフ以外からも西武球場ライブに反対する声が聞こえてきました。」(p120)あたりの描写でしょうか。確かに2001年というと、彼女の人気が急落し、正直、西武球場に人を集めるのが厳しくなってきた頃。ここらへんに彼女の苦難も若干は垣間見れます。ただ、全体的にはそんな影の部分は表に出てこず、終始、明るい姿を見せ続けています。それがまた、彼女らしさなんだろうなぁ、と思う反面、こういうアーティストブックだからこそ、もうちょっと影の部分も知りたかったかも、とも思ってしまいました。

そんな気になる部分もありつつも、やはり全体的には貴重な写真も満載ですし、彼女の35年を俯瞰できるエピソードも読みごたえありますし、ファンならば要チェックの1冊でしょう。また、彼女の曲を聴きたくなり、久しぶりに彼女のライブにも足を運びたくなった、そんな本でした。

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