「歌モノ」メインかと思いつつ、サウンドも大きな魅力
Title:Muntable Set
Musician:Blake Mills
Alabama Shakesの「Sound&Color」やJohn Legendの「Darkness&Light」のプロデュースを手掛け、プロデューサーとして活躍する一方、ギタリスト、シンガーソングライターとしても高い評価を受けているアメリカのミュージシャンBlake Mills。ミュージシャンとして実に多才な活躍ぶりをみせる彼ですが、本作はそんな彼の約2年ぶりとなるオリジナルアルバムとなります。
前作「Look」はアンビエント寄りの作品だったそうですが、今回の作品は彼が改めてポップミュージックに向き合ったアルバムだそうで、非常にシンプルに「歌」を聴かせる曲が並んでいます。そしてそんな中でアコースティックなサウンドが静かに鳴り響いている作品となっています。
しかし、これがおもしろいことに静かなサウンドがバックになって、あくまでも「歌」ばかりが強調されたアルバム…ではありません。静かな中でもしっかりとサウンドがその存在感を発揮しています。まずギター。ギタリストとして大きな評価を受けている彼ですが、今回のアルバムでは特にテクニカルなギタープレイを聴かせる訳でもありませんし、アルバムの中でも必ずしも「主役」と言える立ち位置でもありません。とはいえ「Eat My Dust」では華麗なアルペジオのプレイを聴かせてくれていたり、「Mirror Box」ではギターを静かにつま弾く音がメインとなっているインストナンバーを聴かせてくれたりと、アルバムの中で間違いなく大きな存在感を感じられます。
ただ、そんな静かなアコースティックギターの音色に、ピアノやストリングス、さらにはシンセの音なども重なっており、優しい歌声を聴かせる歌モノの曲にも関わらず、非常に凝った重層となったサウンドを聴かせてくれます。例えば1曲目を飾る「Never Forever」ではアコギをベースにしつつ、そこに重なるピアノ、さらには隠し味のようなシンセの音色が実に美しいハーモニーを奏でています。「May Later」もアコギにストリングスが重なった上で、ボーカルのハーモニーもさらに積み重ねられ、その魅力的な音の世界が繰り広げられる曲となっています。
ほかにも「Vanishing Twin」ではエレクトロサウンドを取り入れていますし、「My Dear One」ではアコギ、ピアノにベースの音色が入り、ジャジーに聴かせる作品に。終始、静かな雰囲気で歌を聴かせるスタイルと統一感があるものの、バラエティーの富んだ展開の楽しめる内容となっています。
もちろんアルバムのメインである「歌」の部分も大きな魅力。Blake Millsの声を落として静かに聴かせるボーカルは、とても優しく響いており、決して派手さはないもののメロディーラインは確実にインパクトを持っています。例えば「Farsickness」でピアノをバックに歌うファルセット気味のボーカルは、その美しさにゾクゾクしてしまうほど。サウンド面を強調してきましたが、「歌」がこのアルバムの最大の魅力であることは間違いありません。
そんな訳で、歌の側面からもサウンドの側面からも実に魅力的なアルバム。特にパッと聴いた感じでは静かなサウンドに「歌」の側面ばかり気を取られそうですが、よくよく聴くと凝ったサウンドの魅力にズブズブとはまっていってしまいそうなそんな作品でした。さすが注目を集めるミュージシャンなだけあります。まだ日本ではさほど知名度は高くないようですが、今後、どんどん注目が集まっていきそう。楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Dark Lane Demo Tapes/Drake
4月30日に配信限定で急遽リリースされたDrakeのミックステープ。Chirs BrownやFuture、Young Thugといった豪華なゲストもフューチャーした今回の作品はトラップの要素をふんだんに取り入れたサウンドが印象的。ここにDrakeらしいメランコリックで歌モノの要素も強いラップがのるのですが、トラップのリズムにもよくマッチしており、いい意味で聴きやすいアルバムに仕上がっています。ストリーミング再生回数が累計500億回をこえ、2010年代に世界で最も再生されたアーティストと呼ばれるようになった彼。確かに、この曲調なら幅広い層の支持も納得です。
評価:★★★★
DRAKE 過去の作品
Thank Me Later
TAKE CARE
Nothing Was The Same
If You're Reading This It's Too Late
VIEWS
More Life
SCORPION
Care Package
Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase/The Soft Pink Truth
アメリカのエレクトロデゥオ、MatomosのメンバーであるDrew Danielによるソロプロジェクト。終始、美しいサウンドに聴きほれるエレクトロ主体のサウンドとなっており、前半は女性コーラスを取り入れた幻想的な作品に、後半はピアノの音色を取り入れた美しいサウンドが印象的。途中、メタリックな音をサンプリングしたり、まるでアラームのように鳴り響く音に驚かされたりしつつ、最後まで美しい音世界に聴きほれるようなアルバムでした。
評価:★★★★★
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