「グレーネス」な音楽性?
Title:græ
Musician:Moses Sumney
カリフォルニア出身の男性シンガーソングライターによる約2年半ぶりのニューアルバム。もともと2013年にJames Blakeの「Lindisfarne」を多重録音でカバーしネット上にアップしたところ話題となり、その翌年にデビュー。2017年にリリースされたアルバム「Aromanticism」も多くな評価を受けました。本作は、そんな高い評価を受けたアルバムに続く注目の最新作。CDでは2枚組のリリースとなるのですが、そのDisc1にあたる1曲目から12曲目まではまず2月に配信でリリースされ、残りDisc2の部分を含めて、5月にあらためてリリースという、異例な、ただ今の時代だからこそ可能なリリース形態となっています。
そんな注目の最新作なのですが、まずは豪華なゲストが話題を呼んでいます。前作に引き続きベースにかのThundercatが参加。さらに彼のデビューのきっかけとなったJames Blakeもゲストとして参加しているほか、Jill Scottのようなベテランシンガーも参加しているなど、多様なゲスト勢が話題を呼んでいます。
また、今回のアルバムに関して紹介文を見てみると「グレーネス(白と黒の間の無彩色の中間色)に関するコンセプチュアルなパッチワーク」という文章がお目にかかります。正直、これが音楽的に何を意味するのか全く不明で、それに言及した文章もなく、おそらくレコード会社から配信された紹介文をライターが何の頭も使わずにコピペしただけ、という幼稚園児でも出来るような仕事をしただけの結果なのでしょうが、このアルバムを聴いていると、なんとなくこのレコード会社が用意したキャッチコピーの意味することがわかるような気もします。
まず音楽的にいろいろな要素を取り込んでおり、ジャンルレスな部分を感じるという点。James BlakeやThundercatという名前からもわかるように、基本的にはここ最近、ちょっとした流行になっているような、「ヨットロック」という名称の色合いが濃いようなメロウなAORが主軸となっています。イントロを挟みスタートする事実上の1曲目「Cut Me」など典型例で、ハイトーン気味のボイスでゆっくりと聴かせるボーカルが印象的なメロウなAORチューン。ほかにも「Colouour」や「Two Dogs」など、ファルセットを入れた透明感のある歌声と静かなエレクトロサウンドでゆっくりと美しいメロディーラインを聴かせるポップチューンがアルバムの中での大きな軸となっています。
ただ一方、様々なサウンドをコラージュした作風となっているのが本作の特徴で、例えば「Virile」はロック的な要素も感じるダイナミックなサウンドを展開していますし、「Conveyor」のような複雑に入り組んだサウンドは、どこかポストロック的なアプローチも感じさせます。課と思えば「Polly」などはアコギのアルペジオでしんみり聴かせるフォーキーな作風になっていますし、また全体的にジャズの要素も強いサウンドも大きな特徴と言えるでしょう。
要するに、ブラックミュージックを主軸にしつつも、それだけとはいえない多様な音楽性をコラージュしているあたり、サウンド的に「グレーネスなパッチワーク」という若干意味不明な表現を用いられているのかもしれません。そういう意味である種のジャンルレスな音楽性が大きな魅力と言えると思いますし、ただ一方ではAORやジャズなど、その向こうにしっかりとした音楽的土台も感じることが出来ます。シンガーソングライターとして幅広く、そして深い音楽的素養をかかえるミュージシャンであり、その彼の魅力がしっかりと音楽に反映されていた、と言えるアルバムかもしれません。
ともかく、本作がまだ2作目という若手ミュージシャンの彼ですが、まだまだこれからさらなく飛躍も期待できそうな傑作。年間ベストクラスの作品とも言えるかも・・・。今後も、彼の名前を聴く機会がグッと増えそう。これからの活躍が非常に楽しみです。
評価:★★★★★
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