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2020年6月27日 (土)

まさかのラスト作

Title:worst
Musician:KOHH

今年もそろそろ半年が経過しようとしています。新型コロナの影響で音楽業界がすっかり停滞してしまった最近のシーンですが、そんな中でも今年に入って新型コロナ関係以外にもポジティブ、ネガティブ両側面で様々な音楽ニュースがありました。そんな中、年初早々大きな話題となったのがラッパーKOHH引退のニュース。2014年のデビュー以来、第一線で活躍を続け、あの宇多田ヒカルと共演。さらにはかのFrank Oceanの楽曲に参加したと、大きな話題となった彼。その彼が、まだまだ現役として活躍し続けるこのタイミングでの突然の引退は、シーンに大きな衝撃を与えました。

本作はそんな彼が約1年2ヶ月ぶりにリリースしたニューアルバムで、引退作ともなった作品。ただ、作品としてはラストということで特別な出来映え・・・という感じではなく、基本的にいつも通り。そのスタイルには以前から大きな変更はありません。まず非常によく出来ていると感じるのがそのトラック。最近、すっかりシーンにおなじみとなってきたトラップのリズムを全面的に取り入れた作品で、「Intro」に続いてスタートする事実上の1曲目「Sappy」は非常に強いビートにダウナーな作風は、まさにトラップの王道を行くような作品になっています。

ただそんな中でもピアノとエレクトロサウンドで美しく幻想的に聴かせる「John and Yoko」やダウナーなトラップの中に流れるドリーミーなサウンドが美しい「レッドブルとグミ」、さらには「Is This Love」ではアコギ1本でしんみりと聴かせる歌モノになっており、トラップのサウンドを主軸にしつつ、様々なバリエーションを持ったサウンドが魅力的。特にトラップの持つダウナーでメランコリックな雰囲気を、ラップやリリックと実によくマッチさせており、トラップのビートとの相性の良さを強く感じる作品になっています。

また、彼の作品のもうひとつ大きな特徴がそのリリック。基本的にはその日常生活や日常の中での感情をありのまま綴るリリックが特徴的なのですが、非常にシンプルで聴いていてわかりやすいリリックになっているのがその特徴となっています。彼のラップも比較的、その日本語をしっかりと語るようなスタイルのラップであるため、リリックも聴いていてその内容まで難なく耳に入ってきますし、また、そんな日常的な用語をすんなりとラップのビートにのせる手法も見事。ここらへんが彼が高く評価される大きな要因のように感じます。

しかし同時に、私がこのアルバムに対してひとつ違和感を抱いた点もこのリリックについてでした。上にも書いた通り、彼のリリックはまさに彼の日常そのもの。そしてその日常というのが、いわばヤンキー的な価値観に基づく日常。正直言って、聴いていて完全に自分とは相いれないものを感じてしまいました。確かに、このヤンキー的な日常を描くラッパーは少なくありません。ただ、例えばAnarchyだとかBAD HOPだとかにしても、その向こうに厳しい現実を描くことにより、ヤンキー的な価値観だけに基づかない普遍的なアピールを曲に持たせています。ただKOHHの場合は綴られるその世界は、完全にヤンキー的な日常のみのように感じてしまいます。最後まで綴っているそのリリックの内容にほとんど共感できないまま、アルバムが終わってしまいました。

最後の「手紙」は彼の愛する祖母に対する手紙の朗読で終了。こういう身内への感謝で終わるスタイルも、良くも悪くもヤンキー的だよなぁ・・・と思ってしまいます。まあ、このリリックの違和感に関しては自分の「好み」的な部分が大きいのですが・・・。そういう意味では、よく出来たアルバムだと感じつつも、最後まではまることは出来ない作品になっていました。その点、ちょっと残念に感じてしまったアルバム。あくまでも日常に立脚した歌詞というのも彼の魅力といえば魅力なのでしょうが。

評価:★★★★

KOHH 過去の作品
UNTITLED


ほかに聴いたアルバム

Seek/DEPAPEPE

メジャーデビュー15周年を迎えたギターインストデゥオDEPAPEPE。その記念すべき年にリリースされた約3年ぶりのオリジナルアルバム。彼ららしい爽やかなギターインストそのままに、ラテン風だったりストリングスを入れたり、打ち込みを入れたりと、バラエティーに富んだ作風を聴かせるところに15年というキャリアから生じた、彼らの懐の深さも感じます。タイトルの「Seek」は「まだまだ道の途中、音楽を探し続けている」という意味からつけられたそうですが、まだまだ彼らの活躍は続きそうです。

評価:★★★★

DEPAPEPE 過去の作品
デパクラ~DEPAPEPE PLAYS THE CLASSIC
HOP!SKIP!JUMP!
デパナツ~drive!drive!!drive!!!~
デパフユ~晴れ時どき雪~
Do!
デパクラII~DEPAPEPE PLAYS THE CLASSICS
ONE
Acoustic&Dining
Kiss
DEPAPEPE ALL TIME BEST~COBALT GREEN~
DEPAPEPE ALL TIME BEST~INDIGO BLUE~

COLORS

You are ROTTENGRAFFTY/ROTTENGRAFFTY

先日、トリビュートアルバムもリリースされたミクスチャーロックバンド、ROTTENGRAFFTYのベスト盤。Disc1はファンリクエストによる選曲、Disc2はメンバーセレクトによる選曲によるオールタイムベストとなっています。ここ最近はエレクトロサウンドを取り入れてきている彼らですが、オールタイムベストとして彼らの過去の代表曲などを聴くと、ヘヴィーなサウンドをゴリゴリと押し出した、正統派なハードコア系バンドということがわかります。一方でメランコリックな雰囲気も感じるポップなメロも目立ち、良くも悪くも歌謡曲的、J-POP的な側面も感じます。ちなみに初回限定版ではDisc3としてコラボ曲やカバー曲を収録したボーナスディスクが付属。こちらは「ぼくたちの失敗」「今夜はブギー・バック」のような、ちょっと毛色の異なる曲への意欲的なカバーも収録。それが成功しているかと言われると微妙ですが、その挑戦心には感心させられます。

評価:★★★★

ROTTENGRAFFTY 過去の作品
LIFE is BEAUTIFUL
PLAY

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