器用貧乏?
Title:10'S BEST
Musician:OKAMOTO'S
今年、デビュー10周年を迎えるロックバンドOKAMOTO'S。本作はそんな区切りの年にリリースされた2枚組のベスト盤となります。Disc1は「Fan's Selection」として、ファン投票の結果に基づいて選曲。Disc2は「Member's Selection& Rare Tracks」として、タイトル通り、メンバーが選曲した曲やシングルのカップリング曲などのレアトラックを収録した構成となっています。
さて、早くもデビュー10年目を迎えるOKAMOTO'S。もともと、音楽ファンを中心に大きな注目を集めつつ、アルバム1枚で解散してしまったズットズレテルズのメンバーが中心となって結成したバンドなだけに、デビュー当初から大きな注目を集めていました。ただ、正直なところ、現時点で「万年ブレイク候補」という位置づけに収まってしまっているような感も否めません。アルバムはヒットチャート上で20位前後にランクインしてくるのですが、いまだに大きなヒットはなし。ベースのハマ・オカモトの活躍は目立ちますが、むしろOKAMOTO'Sよりも彼個人の活躍の方が話題にのぼることが多いようにすら感じてしまいます。
ただ、なんとなくブレイク候補にあげられながらもいまひとつブレイクしきれない理由についてはわかるような感じがします。大きな理由のひとつが良くも悪くも様々な音楽性を取り入れただけに、いまひとつOKAMOTO'Sがどんなバンドなのかつかみきれない点のような感じがします。例えばほぼ同時ににデビューし、同じくブレイク候補として取り上げられたバンドにTHE BAWDIESがあります。彼らはあっという間にブレイクし、人気バンドとなりました(今は人気はちょっと落ち着きましたが)。彼らはルーツ志向のロックンロールという音楽性が明確で、バンド名を聴くとその音楽の方向性が明確に浮かんできます。同じ「実力派」として取り上げられた彼らですが、OKAMOTO'Sのつかみどころのなさが両者に差をつけてしまった結果のようにも感じてしまいます。
今回のベスト盤収録曲にしても「90'S TOKYO BOYS」「Phantom(By Lipstick)」「Border Line」のようなファンクチューンが目立ちますが、一方で「NO MORE MUSIC」はフィリーな要素が入りメロウに聴かせる楽曲ですし、「ROCKY」は軽快なロックンロールナンバー、「JOY JOY JOY」もディスコ風の楽曲と様々な作風の曲が並びます。
Disc2に至ってはその傾向が顕著で「Dance To Moonlight」はシティポップ風、「新世界」は比較的ベタなJ-POP系、「ART(OBKR/YaffleRemix)」ではトラップ的な要素も入れていますし、最後のユーモラスでコミカルな「ヤバコウキ」は逆にオールドスクールなラップを聴かせています。実にバラエティー豊かな音楽性を取り入れているのが特徴的で、ただ結果としてそれがOKAMOTO'Sの「顔」をわかりにくくしているというマイナスの方向性も感じてしまいます。
ただ、ブレイクするため、という観点で言えば様々な音楽性はマイナス要因になっているような感もあるのですが、純粋に音楽性の観点からは、この幅広い音楽性に彼らの幅広い音楽的素養も感じられます。確かにJ-POPミュージシャンは無駄に様々なジャンルの音楽を取り入れる傾向があります。ただ、そのようなミュージシャンの音楽性の取り込みは概して薄く浅く終わってしまっています。もちろん、そういうルーツレスな雑多な音楽性もヒット曲の魅力といえば魅力なのですが、ただミュージシャンとしては薄っぺらく感じてしまうケースが少なくありません。
しかし彼らの場合はそうではありません。HIP HOPもシティポップもロックンロールも、しっかりその向こうのルーツを感じることが出来ます。そういった様々な音楽を貪欲に取り込む姿勢には非常に意欲を感じさせますし、さらに様々な音楽を簡単に取り込めるあたり、彼らのバンドとしての実力も感じます。その結果として若干器用貧乏みたいな感じに陥っている点は否定できないのですが、バラエティー富んだ作風はベスト盤を聴いていても最後まで飽きることなく、純粋に楽しむことの出来る魅力にもなっていました。
あと、これは以前のアルバムからも思っていたのですが、オカモトショウのボーカルとしての線の細さもちょっと気に係る部分ではあるのですが・・・。
いろいろな課題はあるバンドだとは思いますし、一方で間違いなく実力を持ったバンドだと思います。ベスト盤リリースでひとつの区切りをつけた彼ら。今後の行方も気になるところですが、どの方向に進んでも、それなりの楽曲を聴けるのは間違いなさそう。そろそろブレイクを期待したいところなのですが、さてさて。
評価:★★★★★
OKAMOTO'S 過去の作品
10'S
オカモトズに夢中
欲望
OKAMOTO'S
Let It V
VXV
OPERA
BL-EP
NO MORE MUSIC
BOY
ほかに聴いたアルバム
DOUBLE STANDARD/中田裕二
ソロデビュー10年、ミュージシャンデビュー20年、そして自身も40歳を迎えるという、アニバーサリーイヤーにリリースされる中田裕二のニューアルバム。基本的にはいつもと同様、哀愁たっぷりの歌謡曲路線で歌をしっかりと聴かせるスタイル。若干、大いなるマンネリ気味ではあるのですが、本作ではその中ではジャジーな曲があったり、ピアノでしんみり聴かせる曲があったり、軽快なナンバーがあったりと、バリエーションを感じます。またそんな中で「UPDATER」はおそらくパソコンのアップデートにからむ悲哀を歌うというユニークなナンバーも。目新しさはないものの、安心して聴けるアルバムではありました。
評価:★★★★
中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness
NOBODY KNOWS
Sanctuary
ベスト・コンディション+レアトラックス/キンモクセイ
2002年にシングル「二人のアカボシ」がヒット。その年の紅白にも出演したロックバンド、キンモクセイ。2008年に活動を休止してしまいましたが、昨年再結成。オリジナルアルバム「ジャパニーズポップス」をリリースし、さらに2007年にリリースしたベスト盤を再編成し、タイトル通り、レアトラック集を加えて再発売されたのが本作です。2007年にリリースされた時も聴いているのですが、今回、あらためて彼らの曲を聴いてみました。
本作にももちろん収録されている「二人のアカボシ」に代表されるような、懐かしくレトロな昭和歌謡曲的なにおいを感じる楽曲が大きな特徴の彼ら。「夢で逢えたら」のカバーを収録するなど、今で言えばおそらくシティポップ系にカテゴライズされるような音楽からの影響も強いのですが、良くも悪くも洋楽のテイスト以上に歌謡曲の要素が強く、楽曲の垢抜けなさがまずは印象に残ります。それが彼らの魅力といえば魅力ですし、いまひとつ楽曲に対して平凡な印象を抱かせてしまう要素だったりもします。今回、再結成にあたっては今後、どのような方向性を進んでいくのか・・・注目されます。
評価:★★★★
キンモクセイ 過去の作品
ベストコンディション~kinmokusei single collection~
ジャパニーズポップス
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