力強いドラムとボーカルが印象に残る
Title:Fetch The Bolt Cutters
Musician:Fiona Apple
1996年のデビューアルバム「Tidal」から大きな注目を集めたアメリカの女性シンガーソングライターFiona Apple。ただ、そのデビューからもう24年を経過したベテランの域に達しているミュージシャンながらも、リリースしたアルバムは本作を含めてわずか5枚(!)。海外は日本の比べてアルバムのリリース間隔は長めなのですが、それを差し引いてもその寡作ぶりが目立ちます。ただ一方、それだけに毎作、傑作のリリースが続いており、間違いなく「はずれのない」彼女。前作「THE IDELER WHEELS...」も高い評価を集めましたし、個人的にも、2012年の洋楽私的ベストアルバムの1位に選ぶなど、はまった作品でもありました。
そして、そんな傑作であった「THE IDELER WHEELS...」から約8年の歳月を経て、ようやくリリースされた待望のニューアルバム。それだけスパンの開いたアルバムであることもあって、今回のアルバムもまた、傑作アルバムに仕上がっていました。まず、今回のアルバムで非常に印象に残っているのが強いインパクトを持ち、生々しさを感じさせるリズム。全体的な音作りはシンプルにまとまっており、そんな中で力強いリズムが鳴り響くアルバムになっています。
まずタイトルチューンでもある「Fetch The Bolt Cutters」。軽快ながらも力強いドラムのリズムがまずは大きなインパクトに。このタイトルはイギリスのテレビドラマ「The FALL 警視ステラ・ギブソン」の中で、性犯罪を取り締まる警察官のセリフから着想を得たそうで「声を上げることを恐れないで」という意味を持っているそう。それだけに非常にメッセージ性の強い歌詞を、しっかりとかみしめるように歌う、彼女のボーカルも強い印象を受けます。
「Rack of His」も力強いドラムが印象的。サウンドはどこかレトロな雰囲気があり、荒々しさがあるだけに生々しく感じられます。そして荒々しいサウンドゆえに彼女のボーカルの力強さがより目立つ構成になっていました。さらに「For Her」に至っては、コーラスラインとリズムトラックのみの楽曲に。パワフルなコーラスラインとリズムトラックの対比が強いインパクトを持った迫力のある曲に仕上がっています。
リズムトラックを強調したシンプルなサウンドをバックにしているがゆえに、そこに載っているボーカルの力強さがより目立つような構成になっているのも印象的。もちろん、力強いリズムに負けないだけの歌唱力をフィオナ自身が持っているからこそ成せる技なのでしょうが、それだけに彼女の実力がしっかりと発揮されたアルバムになっていました。
また、メロディアスでポップに仕上がっている楽曲も魅力的で、例えば「Under The Table」はピアノをバックに感情たっぷりに歌い上げるフィオナの歌声が印象に残るミディアムチューン。「Ladies」もジャジーに聴かせるバラードナンバーで、彼女の歌声が胸に響いてくるような、非常に魅力的な楽曲。リズムを主体とした楽曲が目立つ本作ですが、ポップスという側面においても魅力的な楽曲がしっかりと収録されています。
約8年間、待ちに待ったかいがあった、といってもいい、今回も年間ベストクラスの傑作アルバムをリリースしてくれました。次はまた、8年後くらいになってしまうのでしょうか。でも、またきっと、待たされたかいのある傑作アルバムをリリースしてくれるはず。それまでこのアルバムをじっくりと味わっていきたいところでしょう。それだけの価値のある作品だと思います。
評価:★★★★★
Fiona Apple 過去の作品
THE IDELER WHEELS...
ほかに聴いたアルバム
Lamental EP/Squarepusher
先日、アルバム「Be Up A Hello」をリリースしたばかりのSquarepusherが早くもリリースした新作EP。その「Be Up A Hello」にも収録されていた「Detroit People Mover」に、その別バージョンである「The Paris Track」。さらにはアルバムからのアウトテイクの「Les Mains Dansent」、さらにイギリスのEU離脱を決めた国民投票の結果に対する抗議の意思として発表した「MIDI Sans Frontires」と、そのセルフリミックス「Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)」の5曲が収録されています。
前作「Be Up A Hello」も彼のメロディーセンスが発揮されたポップで聴きやすい内容でしたが、本作も基本的にはその路線を踏襲するような内容。既発表曲の「Detroit People Mover」もメランコリックな作品になっていましたし、さらに「Les Mains Dansent」はギターをつま弾きながらしんみりと聴かせる、彼としては珍しい歌モノの作品になっています。アレンジも基本的にある意味わかりやすいスペーシーなアレンジになっており、全体的にわかりやすいEPに。ある意味、「Be Up A Hello」以上にポップで聴きやすい作品に仕上がっていました。
評価:★★★★
SQUAREPUSHER 過去の作品
Just a Souvenir
SHOBALEADER ONE-d'DEMONSTRATOR
UFABULUM
Music for Robots(Squarepusher x Z-Machines)
Damogen Furies
Be Up A Hello
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