ユニークだけど考えさせられる歌詞
Title:あたりまえつこのうた
Musician:やくしまるえつこ
ご存じ相対性理論のボーカリスト、やくしまるえつこのソロ名義での最新作。その清涼感ある声から、数多くのミュージシャンの作品にゲストとして参加したり、あるいはナレーションなどでのソロの活動も盛んな彼女ですが、今回のアルバムは非常にユニークな企画モノのアルバム。NHK Eテレの科学教育番組「カガクノミカタ」で制作・歌唱を担当したオリジナルソング「あたりまえつこのうた」を1枚にまとめたアルバムになっています。
この「あたりまえつこのうた」は全部で10番まであるのですが、全部おなじメロディー。それが全10曲分並ぶアルバムなのですが、サビの部分、「あたりま~え、あたりま~え、あたりませつこは知っている~♪」というフレーズが非常に人懐っこく、それが何度も繰り返されるのでいつのまにか頭から離れなくなり、知らず知らずのうちに口ずさんでしまいます。
また非常にユニークかつミュージシャンとしての矜持を感じるのが全10番まであるこの曲、1つ1つアレンジが異なるという点。エレクトロサウンドの「いちばん」からスタートし、ホーンセッションが入って楽しい「にばん」、スペーシーな「さんばん」など、基本的にはエレクトロサウンドが主軸になっているのですが、楽曲によって雰囲気が微妙に異なってきます。特にピコピコサウンドで軽快な「はちばん」やメロウな雰囲気の「きゅうばん」などが並んでいます。
ただ、このアルバムの最大の聴きどころは歌詞でしょう。「あたりまえ」と言われていること、言われている事象を、あらためて考察する内容の歌詞。例えば「いちばん」では男の子と女の子が違うという「あたりまえ」が何で「あたりまえ」なのか、というテーマになっていますし、「ごばん」ではプレゼントの中身はあけないとわからないという「あたりまえ」にあらためて疑問をなげかけています。ある意味、非常に科学的でもあり、哲学的でもある内容。基本的に子供向けの科学教育番組の中での曲なのですが、子供だけではなく大人でも歌詞を読んでみると、深く考えさせられる歌詞になっています。
ちなみにNHKのサイトでは、この曲にあわせた子育て世代にはおなじみ絵本作家ヨシタケシンスケによるかわいらしい絵がついたアニメーションが公開されています。このアニメも併せて聴いてみるのがお勧め。アニメと一緒に聴くことにより、あらためて歌詞の世界について考えさせられるような内容になっています。
しかしNHKのEテレって、こういう音楽的にもおもしろい企画をよく作り出すから見逃せません。この企画についても音楽的な側面からも、化学・哲学的な側面からも実によく出来た企画で、基本、子供向けであり子供にもわかりやすいような内容でありながらも、一方では大人にとっても実は考えさせられる内容であるという、非常によく出来た内容になっています。やくしまるえつこを知らない方でも是非お勧めしたい作品。とりあえずは上のNHKのサイトから動画を観れるので、まずはそちらをチェックしてみてください。子供向きとあなどるべからず。
評価:★★★★★
やくしまるえつこ 過去の作品
RADIO ONSEN EUTOPIA
Flying Tentacles(Yakushimaru Experiment)
ほかに聴いたアルバム
THE PERFECT DAY E.P./カジヒデキ
配信限定でリリースされたカジヒデキ4曲入りのEP。もともとは2018年のツアー時にカセットテープにて300本限定でリリースされたもの。この新型コロナ蔓延で鬱々とした雰囲気の中、彼らしい陽気なポップソングが並びます。さらにスチールギターなどを用いて、ちょっとカリビアンな雰囲気となっているのも特徴的。ただでさえ陽気な彼のポップスにピッタリとマッチした明るいサウンドで、今の鬱々とした気分を吹き飛ばしてくれそうな、そんな作品です。
評価:★★★★
カジヒデキ 過去の作品
LOLIPOP
STRAWBERRIES AND CREAM
TEENS FILM(カジヒデキとリディムサウンター)
BLUE HEART
Sweet Swedish Winter
The Blue Boy
秋のオリーブ
GOTH ROMANCE
真っ黒/tricot
本作がメジャーからのリリースとしては初のフルアルバムとなる女性3人+男性1人というスタイルのロックバンドtricot。タイトルもそうですが、黒を基調としたジャケットもカッコよく、アルバムがスタートするといきなりスタートするエッジの効いたギターサウンドにとにかく惹かれます。これでもかというほどヘヴィーなガレージサウンドを主体としたバンドで、バンドサウンドという側面では文句なしにカッコいいのですが…ただ、これは以前からなのですが、それに載るメロディーラインと歌詞のインパクトは弱いのが残念。バンドサウンドに載るボーカルも端正なのが耳に残るのですが、ただガレージサウンドに上手くマッチしていない部分も。サウンドはすごくカッコいいんだけどなぁ…。ライブも良さそうなのですが、CDで聴くとちょっと残念な部分も目立ってしまうアルバムでした。
評価:★★★★
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