新メンバー加入で新たな一歩
Title:第七作品集「無題」
Musician:downy
独特の音像で圧倒的な世界観を構築し続けるポストロックバンドdownyの、タイトル通り7作目となる新作。本作は前作から約3年半ぶりと、少々久しぶりとなってしまった作品でしたが、その間にバンドにとって非常にショッキングなニュースが起こったことはご存じの方も多いでしょう。バンドのギタリスト、青木裕が急性白血病のため、わずか48歳という若さでこの世を去りました。その後、サンプラー/シンセサイザーとしてSUNNOVAがバンドに参加。本作はその新たなメンバーによる最初のアルバムとなっています。
そんな新メンバーによるdownyの最初の曲「コントラポスト」はいきなり悲しげなピアノの音色からサンプリング音でスタート。いきなり新メンバーSUNNOVAが奏でる音が全面に押し出された楽曲からスタートし、downyの新たな一歩を感じさせる曲になっています。
この曲を手始めとして、今回のアルバムはSUNNOVAが奏でる音をdownyのサウンドの中に新たに取り込もうとする試みを感じさせるアルバムになっていたと思います。例えば「角砂糖」でもループするノイズにピアノの音色がメランコリックに鳴り響きますし、「ゼラニウム」でも力強いドラムとギターノイズの中にシンセの音色も組み込まれています。全体的には以前のようにヘヴィーなギターノイズで楽曲を埋め尽くす圧巻的な曲というよりも、複雑な音を組み立てつつ、サウンドのソリッドな感触が以前より増したサウンドに仕上がっている、そんな印象を受けました。
もっともだからといって以前のdownyのサウンドをガラッと変えてしまった訳ではありません。実際、今回のアルバムではギター青木裕の奏でるサウンドも用いられているようで、特に1曲目「コントラポスト」に続く「視界不良」では圧巻のダイナミックなドラムスとそれに重なるギターサウンドは実にdownyらしいという印象。「good news」もヘヴィーなバンドサウンドにギターが鳴り響くハードコアなナンバーになってり、ダウナーな青木ロビンのボーカルも相まって、まさにdownyらしい圧巻の音世界を作り上げています。
また、そもそもバンドとしての前作「第六作品集『無題』」ではエレクトロサウンドを積極的に取り入れた作品になっていましたし、既にギターノイズで楽曲を埋め尽くす、ようなタイプの曲は少なくなってきていました。そういう意味では今回のアルバム、SUNNOVAが起用されて新しい方向性にシフトした、というよりもdownyのいままでの活動の延長線上にあるタイプのサウンドとみることも出来ます。
そういう意味では今回、新メンバーとしてSUNNOVAを迎えたことは、逆にdownyの向かう方向性に彼がピッタリマッチしたからこそ新メンバーとして加入させた、とみることができるように思います。実際、新メンバーが加入したものの、ここで鳴っている音は間違いなくdownyの音。バンドとして確固たる個性を今回のアルバムでも間違いなく感じることが出来る傑作アルバムに仕上がっていました。
downyがこれからどんな歩みを見せて行くのか、今の段階ではまだ何とも言えません。ただ、間違いなくこのメンバーでこれからも傑作アルバムをリリースしていくだろう、そんな予感のするアルバムでした。バンドとして不幸な出来事のあった彼らですが、その歩みは続いていくようです。これからも彼らの活動に注目していきたいです。
評価:★★★★★
downy 過去の作品
第五作品集「無題」
第五作品集「無題」Remix Album
第六作品集「無題」
ほかに聴いたアルバム
あの人が歌うのをきいたことがない/堀込高樹
KIRINJIの堀込高樹による書下ろし絵本「あの人が歌うのをきいたことがない」。今回紹介するのは、その絵本に付随する形でリリースされたアルバム。肝心の絵本の方は残念ながらまだ読めていないのですが、こちらは配信などでチェックできるため聴いてみました。ピアノを中心にシンプルに聴かせる作品となっており、ジャジーな雰囲気が強い楽曲が並びます。歌詞はおそらく絵本の内容をそのまま綴っているのでしょう。比較的インパクトが強く、歌詞を聴かせることを主眼とするような作品に仕上がっていました。やはり絵本を読みながら味わいたい作品でしょうか。ただ、音楽だけでも十分に魅力的な作品に仕上がっていました。
評価:★★★★★
"gift" at Sogetsu Hall/青葉市子
今年1月に、東京赤坂の草月ホールで行われた10周年記念ライブの模様を収録した配信オンリーでのライブ盤。基本的にアコーステックギター1本のみのステージで、非常に静かな雰囲気の中、彼女の美しい透き通った歌声が響き渡るライブ。緊迫感はあるものの、同時に優しさを感じさせるステージで、その雰囲気が伝わってくるよう。決してバリエーションは多くない、シンプルな曲の構成ながらも、彼女の歌声に終始惹かれるライブ盤になっていました。
評価:★★★★★
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