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2020年5月18日 (月)

サウンドへの自信を感じる

Title:BL
Musician:女王蜂

前作「十」からわずか10ヶ月というスパンでリリースされた女王蜂のニューアルバム。前作「十」はバンドとしての勢いを感じる傑作アルバムに仕上がっていましたし、売上の面でもアルバムでは初となるベスト10ヒットを記録するなど、勢いを感じさせる結果となっていました。そしてそこから1年に満たないリリーススパンでの新作発売というのは、彼らの今の勢いを感じさせます。

今回のアルバムの一番の特徴といえば、その非常に凝ったサウンドでしょう。「ロックバンド」というカテゴライズされる彼らですが、今回のアルバムではロックサウンドを聴かせる、というスタイルの曲はほとんどありません。1曲目「HBD」は静かでダークなサウンドなのですが、そのサウンドは完全に最近流行のトラップを取り入れたもの。続く「BL」もバンドサウンドを取り入れつつ、そのリズムからはトラップの影響を強く感じます。トラップのサウンドは哀愁感を漂わせており、女王蜂のその妖艶な世界観ともピッタリとマッチしています。

「心中デイト」も軽快なピコピコサウンドのエレクトロポップ。タイトル通りのかなり重く暗いテーマ性を持った歌詞と軽快なエレクトロサウンドとのミスマッチがユニークさを感じるナンバーになっています。最後を締めくくる「PRIDE」もエレクトロサウンドを全面的に取り入れた楽曲となっており、アルバム全体としてエレクトロ寄りが目立つ構成になっています。

ただその一方で「虻と蜂」ではアコギのアルペジオで悲しげな音色を聴かせる和風なサウンドとなっていますし、「CRY」もピアノとアコギで爽快感がありつつ、切なさを兼ね備えたようなサウンドに。全8曲入りのアルバムながら1曲1曲タイプの異なるサウンドが収録されており、本作でのサウンド面での力の入れようがわかる内容になっています。

この彼らのサウンドに対する力の入れようは、今回通常盤では8曲の後にオフボーカルバージョンが入っていることからもわかります。ボーカルや歌なしでも十分、聴くことが出来るだけのサウンドになっているという、彼らの自負を感じることが出来ますし、実際にオフボーカルバージョンも彼らの作品として十分に楽しむことの出来る内容になっていました。

しかしその反面、今回のアルバムでちょっと厳しく感じてしまったのは肝心のメロディーラインのインパクト。この点については彼ら、以前のアルバムからその妖艶な雰囲気のインパクトと反して、メロディーラインのインパクトの弱さが課題に感じていました。前作「十」ではメロディーにしっかりとインパクトを持たせており、そのため「傑作」となりえたアルバムでしたが、今回のアルバムでは、その妖艶な雰囲気ばかりが後に残ってしまい、肝心のメロディーがちょっと薄味になってしまった、そんな印象を受けてしまいました。

結果、女王蜂としての勢いを感じる部分はある反面、「十」でクリアしたと思われた以前からの課題は戻ってきてしまったかな、と思うようなアルバムになっていたと思います。もっとも「十」で聴かせてくれたようなインパクトあるメロディーに、本作のようなサウンドを重ねれば…とんでもない傑作がリリースされそうな予感も。これからも彼らの活動からは目が離せなさそうです。

評価:★★★★

女王蜂 過去の作品
孔雀
蛇姫様
奇麗
失神
Q

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