懐かしいポップチューンの中に実験性も
Title:Heavy Light
Musician:U.S.Girls
今回紹介するのはU.S.Girlsのニューアルバム。U.S.Girlsというとアメリカを拠点とするガールズグループ…というイメージを受けるかもしれませんが、アメリカはシカゴ出身で、現在はトロントを中心に活動を行う女性ミュージシャンMeg Remyによるソロプロジェクト。このU.S.Girls、その名前の親しみやすさとは裏腹に、英語版Wikipediaの記事によると"experimental pop"=実験ポップと書かれています。そうやって聴くと、人によっては身構えてしまうかもしれません。
しかし、そんな中、まずは聴こえてくる「4 American Dollars」はちょっと懐かしさを感じられる至ってキュートなポップス。実験ポップというイメージとは大きく異なるポップな曲調にまずはちょっとビックリするかもしれません。さらに続く「Overtime」は昔ながらのサスペンスドラマでも流れてきそうな、スリリングでレトロなポップチューン。こちらもある種、耳なじみのあるような曲調に強く惹かれる楽曲に仕上がっています。さらに続く「IOU」はゆっくりと歌い上げるソウルなバラードナンバー。こちらも今どきのR&Bというよりも、70年代あたりのなつかしさを感じさせる、ポップ色の強いソウルナンバーに仕上げられています。
この冒頭3曲はある意味、このアルバムの方向性を形づけるものとなっており、基本的にそれ以降も「Born to Love」「And Yet It Moves/Y Se Mueve」「Denise,Don't Wait」などレトロ色の強いポップソング、「Woodstock '99」など感情たっぷりに歌い上げるソウルからの影響も感じるバラードナンバーなど、ソウルミュージックからの影響も強く感じつつ、懐かしさと人なつっこさを感じさせるポップチューンが続きます。特に「Denise,Don't Wait」のサウンドなどは、ともすれば60年代あたりを彷彿とさせるような懐かしさを感じさせるポップチューンに仕上がっており、思わずしんみり聴き入ってしまいます。
ただ、そんな人なつっこいポップソングばかりかと思いきや、要所要所で"experimental pop"らしい幅広い音楽性を感じることもできます。例えば「And Yet It Moves/Y Se Mueve」などはラテンのリズムが入り、ユニークなサウンドに。まあ、このラテンのサウンドも含めて懐かしいレトロさを感じることは出来るのですが…。また「State House(It's A Man's World)」などもレトロなポップチューンかと思いきや、後半、ノイズが入ってきて予想外なサイケの展開に。ラストを締めくくる「Red Ford Radio」もヘヴィーでメタリックなリズムが鳴り響くナンバーとなっており、決して「人なつっこいポップソング」など一言で締めくくれないような構成を感じさせます。
この幅広く、実験的な実験的な要素も強く含むような音楽性はいかにも宅録ならでは、といった印象も受けます。最後に実験的な曲を配しているだけに、聴き終わった後はその「実験的」な要素が耳に残るアルバムかもしれません。ただ、アルバム全体としてはやはり懐かしくもポップな楽曲が並んでおり、いい意味で非常に聴きやすいポップアルバムになっていたと思います。ポップソング好きにはおそらく楽しめるであろう傑作アルバム。懐かしく、暖かい気分にもなる1枚です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
根本要(スターダスト☆レビュー)&佐橋佳幸プレゼンツ「本日のおすすめ」
スターダスト☆レビューの根本要と、数多くのミュージシャンへのサポートなどで活躍するギタリスト、佐橋佳幸によるユニット「本日のおすすめ」。2人の好きな洋楽をカバーするためのユニットだそうで、昨年はそんな2人のライブツアーも行われたようですが、本作はそのユニットがカバーした曲を集めたコンピレーションアルバム。2人のカバーを収録したアルバムではなく原曲の方が収録されています。念のため。
楽曲は70年代から80年代のAORやいわゆる「産業ロック」と言われるような楽曲がメイン。全体的な楽曲の嗜好性はわかりやすい感じで、取り上げられている楽曲はメロディアスなポップがメインで、洋楽への入りとしては日本人にとっても比較的入りやすい、耳なじみやすい楽曲がメインとなっています。有名曲も多く、洋楽コンピレーションとしても楽しめる1枚に。ただ、次は「本日のおすすめ」のカバー自体を聴いてみたいなぁ。
評価:★★★★
YHLQMDLG/Bad Bunny
ジャスティン・ビーバーやビヨンセなどとのコラボも果たし、今、もっとも注目を集めているレゲトンミュージシャン、Bad Bunnyの新作。特に前半は、かなり軽快で楽しい雰囲気のリズミカルなラップが続き、ポップで聴きやすい曲が並びます。一方後半は、哀しげな雰囲気のトラップミュージックが続く構成に。彼自身、ラテン・トラップの牽引者と呼ばれているようですが、ところどころにレゲエなどの要素を加えているのが特徴的。ただレゲエとトラップの相性はよく、テンポのよい明るい雰囲気の楽曲を挟みつつ、独自の音楽性を築いていました。
評価:★★★★
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