懐かしく暖かい
Title:<Astras/Alem>
Musician:O Terno
今回紹介するのもまた、2019年に各種メディアでベストアルバムに選定されたアルバムのうち、聴き逃していた作品を後追いで聴いた1枚。本作は、もともとはシンガーソングライターとして高い評価を得ていたチン・ベルナルデスが率いるブラジルのロックバンド、O Ternoの作品。2019年のMusic Magazine誌ブラジルミュージック部門で1位を獲得しています。
さて、ブラジルの音楽というと、おしゃれな雰囲気のボサノヴァか、軽快で賑やかなサンバ、というイメージが強いかもしれません。もちろん、そう単純に2分割されるようなものではない、ということはわかってはいるのですが、どうしてもそういうイメージが付きまとってしまいます。このO Terno作品については今回はじめて聴いたのですが、確かに出だし、ポルトガル語の響きもあわさり、ボサノヴァ風の洒落たポップソングというイメージからスタートします。しかし、聴き進むにつれて、そのような印象は徐々に変わっていきました。
このO Ternoの音楽の特徴について述べるとすると、まずは美メロという表現もピッタリくるメロディアスで美しいメロディーラインが流れているという点。そして、どこかレトロな雰囲気を感じさせる懐かしさを感じるという点の2点でしょう。2曲目の「Pegando Leve」などはまさに60年代のフォークミュージックを彷彿とさせるような暖かくも懐かしいポップソング。アコースティックな曲調とあわせて、その美しくも懐かしいメロディーラインに胸が熱くなってくるような楽曲になっています。
タイトルチューンである「Atras/Alem」も同じく暖かさを感じさせるポップス。「Nada/Tudo」もホーンやピアノの音色が入り、ジャジーに聴かせつつも暖かいメロディーラインとサウンドが魅力的な作品に。「Bielzinho/Bielzinho」も軽快なリズムながらもストリングスの音色にどこかオールディーズの色合いを感じさせるポップスに仕上がっています。
後半もアコギをつま弾きながらも物悲しく聴かせる「O Bilhete」、アコギでしんみり聴かせつつ、最後に流れ出すストリングスの音色にレトロな雰囲気を感じる「Passado/Futuro」、さらにはピアノとストリングスをバックに哀愁感たっぷりに歌い上げる「E no Final」など、最後の最後まで美しくも懐かしいメロディーラインとサウンドを聴かせるポップソングが並びます。
フォーキーな雰囲気やオールディーズな要素も入った懐かしくもポップな楽曲の数々は、いい意味で非常に聴きやすく、ブラジル音楽という枠組みを超えて、幅広い層にアピールできそうな魅力を持っています。そこに歌われるポルトガル語の歌声は、我々にとってはエキゾチックな要素を感じさせ、このアルバムの中で、ちょうどよく、味付けを加えるような調味料のような役目を果たしています。そんなポップスリスナーなら間違いなく気に入りそうな傑作アルバムに仕上がっていました。
そんな中で我々日本人にとって要注目なのが「Volta e Meia」でしょう。本作もストリングスの音色をバックにした懐かしさを感じさせるポップソングに仕上がっているのですが、なんとかの坂本慎太郎がゲストに参加。ドイツのフェスで共演したことにより実現したコラボなのですが、楽曲の中でポエトリーリーディングとして参加。その詠まれる詩は日本語で、日本人にとってはここだけ歌詞の内容がわかるのですが、楽曲の雰囲気とはちょっと異なるサイケさを感じる不思議な世界観が読まれており、違和感を覚えてしまうのですが…ひょっとしてポルトガル語の歌詞の内容は、ここで読まれている日本語の内容と通じるようなサイケな世界観によるものなのでしょうか?
そんな日本人にとっても聴きどころある魅力的な本作。前述の通り、ブラジル音楽というカテゴリー抜きにして非常に楽しめるポップなアルバムに仕上がっていました。年間1位も納得の傑作。ポップミュージック好きならチェックして損のない1枚です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Indestructible/Flor de Toloache
こちらも2019年ベストアルバムで聴き逃した曲を後追いで聴いた1枚。こちらもMusic Magazin誌ラテン部門で1位を獲得したアルバム。ニューヨークで結成された女性4人組バンド。哀愁たっぷりのラテンが最初から最後まで続くアルバムに。ただラスト2曲は明るく爽快に歌ってアルバムを締めくくっており、聴いた後はさわやかな風が通り抜けて行くよういに感じる作品に。哀愁たっぷりのラテンの楽曲の中に、どこか感じる都会的な爽やかさが大きな魅力となっているアルバムでした。
評価:★★★★★
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