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2020年4月19日 (日)

まさかのソロアルバム

Title:宮本、独歩
Musician:宮本浩次

「今宵の月のように」や「ガストロンジャー」などのヒットでおなじみのロックバンド、エレファントカシマシのボーカリストであり、ほぼすべての曲の作詞作曲を手掛ける宮本浩次による初となるソロアルバム。正直言うと、宮本浩次のソロアルバム、というとかなり意外な気がしました。というのも、エレファントカシマシ自体が自他ともに認める宮本浩次のワンマンバンドだから。実際、2000年にリリースされたアルバム「good morning」の販促ポスターに書かれた、通称「宮本檄文」と呼ばれる文章には次のような一節がありました。

「孤高にして普遍的。
過激にして包容力有り。
最新にして懐かしい。

そして、最強のロックスピリッツ!

それが、エレファントカシマシ。すなわち俺だ。

要するに彼自身、エレファントカシマシこそ宮本浩次を表現する存在そのものであると認識していた訳です。だから、彼自身が表現したいことがあってもエレカシで表現できるはず…なのになぜ、ソロアルバム?ということを感じてしまいました。

しかし、実際に聴いてみると、確かに、これは間違いなく、エレカシのアルバムではなく宮本浩次のソロなんだ、ということを感じざるを得ませんでした。それはその音楽の方向性が、エレカシの曲とは明確に異なっているからです。例えば「冬の花」はストリングスやピアノで哀愁感たっぷりのムード歌謡曲、「夜明けのうた」もミディアムテンポで歌い上げるメロディアスで切ないポップチューン。椎名林檎とのコラボで話題となった「獣ゆく細道」は、まさに椎名林檎の世界に宮本浩次のボーカルがのっかかった形の軽快でムード感満載のキャバレーロック。さらにスカパラとコラボした「明日以外すべて燃やせ」も、完全にスカパラの世界観に沿った形のスカに、力強い彼のボーカルが載るという印象的なスタイル。これらの曲は、確かにエレカシの方向性とはちと異なります。

またそんな中で目立つのは「Do you remember?」「going my way」にような軽快でメロディアスなパンクロック。ライブ映えしそうな、どちらかというとフェス向けの若手バンドが奏でそうなパンクチューンになっており、宮本浩次がこういうスタイルのロックを演りたかった、というのはちょっと意外に感じてしまいます。エレカシが突き進んだロックの方向性とは全く異なるだけに、宮本浩次の意外な音楽的嗜好を感じてしまいました。

ただ、もっともこれらの曲が本当にエレファントカシマシとして演奏できなかったのか、と言われると若干微妙には感じてしまいます。エレカシも、それころ「今宵の月のように」のようなポップ色が強い路線から「ガストロンジャー」みたいなヘヴィーな路線まで、バラエティー富んだ曲風のロックを演奏しています。確かに、このアルバムに登場してくる曲をエレカシで演れば異色といえば異色なのですが、エレカシが宮本浩次のソロバンドということを考えれば、彼の意向として演れなくもありません。

エレカシもデビューから30年を経過。バンドとして確固たる地位を築く中、宮本浩次のワンマンバンドとはいえ、さすがにそう簡単にはエレカシのイメージとは大きく異なるような曲を演れなくなってしまってきた…そういう側面もあるのかもしれません。そしてそんな中、宮本浩次が自分のやりたいことを自由に演ったアルバムが本作なのかもしれません。実際に、自由に音楽を奏でまくる今回のアルバムには、自由を謳歌するような、ある種の明るさも感じられました。もっとも、2019年に所属事務所を移籍しており、その影響でエレカシのアルバムを一時期作れなくなった、という大人の事情がからんだりするのかもしれませんが…。

エレカシのイメージとは大きく異なるアルバムなだけに、これを機にエレカシが解散して…ということはなさそう。むしろ、これを機に、宮本浩次がいい意味でストレスを発散し、エレカシとしての新たな創作意欲がわいてくるのではないでしょうか。次のエレカシのアルバムは、それだけにまた傑作アルバムをリリースしてくれそう。次はエレカシの新作に、期待したいところです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

SCLL/Spangle call Lilli line

バンド初となるオールタイムベスト。ポストロックやドリーミーなエレクトロサウンドも加わったダウナーなギターロックが特徴的。1曲1曲をピックアップすれば非常に魅力的な作品も少なくないのですが、通して聴くと、正直、メロディーラインにインパクトも薄く、サウンドも独自性が弱いため印象が薄くなってしまうのがとても残念なポイント。どこかの方向へもうちょっと振り切れたらおもしろいと思うのですが。

評価:★★★★

Spangle Call Lilli Line 過去の作品
VIEW
forest at the head of a river

New Season
Piano Lesson
SINCE2
ghost is dead
Dreams Never End

Born as a NINJA/TRIGA FINGA

こちらもまた、2019年各種メディアのベストアルバムのうち聴き漏らしたアルバムを後追いで聴いた1枚。本作はMusic Magazine誌2019年レゲエ[日本]部門で1位を獲得したアルバム。レゲエの本場、ジャマイカで活動しているミュージシャンということなのですが、メロディーラインは至ってポップ。ボーカルも端正ですし、ある意味、「J-POP的」とも言える聴きやすさすらあります。ちょっと個人的にはサラリとしすぎている感も…。ただ、ラストの2曲、知人の死について歌った「R.I.P.」から、最後はそれでも前向きに生きろと歌う「NEVER GIVE UP」はある意味、感動的ですらある展開でした。

評価:★★★★

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