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2020年4月 6日 (月)

企画自体は非常におもしろいが

Title:都はるみを好きになった人 ~tribute to HARUMI MIYAKO~

1964年のデビュー以来「アンコ椿は恋の花」「好きになった人」「北の宿から」など数多くのヒット曲を放ち、まさに国民的な人気を誇る演歌歌手、都はるみ。2016年以降は事実上、活動休止の状態となっているのですが、そんな彼女に対するトリビュートアルバムがリリースされました。

このアルバムで非常にユニークなのは、演歌とは直接、縁のないような、ポピュラーミュージックのミュージシャンたちがトリビュートアルバムに参加しているという点。UAをはじめとして一青窈、怒髪天、民謡クルセイダーズ、畠山美由紀などなど、ちょっと異例なところではミッツ・マングローブ、大竹しのぶといったメンバーもトリビュートアルバムに参加しています。

演歌歌手の曲をあえて畑違いのポップミュージシャンがカバーするという企画自体にはとてもユニークなものを感じました。実際にポピュラーミュージックらしい、独特な色を出したカバーも少なくありません。例えばUAなどはジャジーな色合いのあるバンドサウンドをバックに煤けた雰囲気の彼女らしいボーカルで「北の宿から」をカバー。UAらしい曲に仕上げています。個人的に今回の面子で一番期待していた民謡クルセイダーズも、その期待通りに、民謡とラテンの要素を融合させた独特の解釈で「アラ見てたのね」をカバー。同じくラテン風にカバーした畠山美由紀の「大阪しぐれ」も、その感情こもったボーカルともども、非常に魅力的なカバーに仕上がっていました。

ほかにも怒髪天「涙の連絡船」では、歌い方は完全にど演歌ながらもバックはハードロックに仕上げており、自らの音楽を「リズム&演歌」と自称している彼ららしさを強く感じさせるカバーに仕上げています。ここらへん、ちょっと力技っぽい感じもするのですが、怒髪天らしさがよく出ているカバーと言えるでしょう。

このような魅力的なカバーも少なくありませんし、他のミュージシャンのカバーにしても基本的にボーカリストとして力量のあるミュージシャンばかりだっただけに、聴いていて辛くなるようなカバーはなく、そういう意味では安心して聴けるトリビュートアルバムになっていたと思います。ただ反面、都はるみの演歌をなぞっただけのようなカバーも少なくなく、歌い方にしてもこぶしを利かせる演歌のスタイルそのままといった歌い方がほとんど。そういう意味ではポピュラーミュージックのミュージシャンによるカバーにも関わらず、演歌の領域に入ってしまってカバーしているような曲が目立ったように思います。

個人的にはせっかく演歌をポップスのミュージシャンがカバーしているのだからこそ、こぶしを利かせたボーカルを聴かせるといった演歌の手法をあまり用いることなく、ポピュラーミュージックとして都はるみの曲を解釈し、演歌では表現できなかったような都はるみの曲の違った魅力をみせてほしかったようにも思うのですが、残念ながらそういったカバーはあまりありませんでした。企画としては非常におもしろかったですし、参加ミュージシャンもそれなりに上手くカバーできていたとは思うのですが、その点は少々残念に感じました。

ただラストを飾る大竹しのぶの「千年の古都」は素直な歌い方によるカバーになっており、彼女のボーカルも技巧的には決して上手いわけではないのに、表現力があって魅力的な聴かせるカバーに。今回のアルバムの中でもかなり健闘していたように感じます。そのため最後の後味としてはとてもよい感じで終わることが出来ました。

個々の曲自体は決して悪くありませんし、前述の通り、ハズレもありません。そういった意味では参加しているミュージシャンのファンや企画に興味を持った方、あるいは都はるみのファンの方もチェックして損のないアルバムだと思います。ただ、個人的にはもうちょっと都はるみのファンを怒らせるような、ポップミュージシャンらしい、演歌歌手が絶対思いつかないようなカバーが数曲あってもおもしろかったんじゃないかな、とは思います。いいトリビュートアルバムだとは思うのですが、ちょっと期待外れな部分も否めない1枚でした。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

新世紀/ポルカドットスティングレイ

かなりハイペースにアルバムもしくはミニアルバムをリリースしているロックバンド、ポルカドットスティングレイ。昨年10月にリリースされた「ハイパークラクション」からわずか3ヶ月弱のスパンでリリースされた4曲入り(CDでは+2曲のスタジオライブ音源)のミニアルバム。アップテンポで軽快、かつちょっとギターにファンキーさも加わっている点がユニーク。たった4曲なのでアップテンポな曲で一気に聴き切れるアルバムなのですが、やはり若干、インパクトの弱さが気になるところ。ただ、次のフルアルバムでは傑作を聴かせてくれるのでは・・・そんな期待も出来る作品でした。

評価:★★★★

ポルカドットスティングレイ 過去の作品
大正義
全知全能
一大事
有頂天
ハイパークラクション

By Your Side/Nothing's Carved In Stone

ELLEGARDENの生形真一がストレイテナーなどで活躍する日向秀和らと結成した4人組バンドのちょうど1年3ヶ月ぶりとなるニューアルバム。ほどよくノイジーで疾走感あるギターロック。洋楽テイストも強い一方、マイナーコード主体のメロディーラインは日本人的なウェット感も。以前はもうちょっとバラエティー富んだ楽曲を聴かせてくれていたように記憶するのですが、本作は似たようなタイプの曲が多く、インパクトの面でもちょっと物足りなかったような。聴いていて素直に楽しむことが出来るロックアルバムではあるとは思うのですが。

評価:★★★★

Nothing's Carved In Stone 過去の作品
Strangers In Heaven

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