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2020年4月17日 (金)

「超歌手」によるオールタイムベスト

Title:大森靖子
Musician:大森靖子

自らを「超歌手」を名乗り、女性の本音をそのまま激しく綴った独特の歌詞で多くのファンを獲得しているシンガーソングライター、大森靖子。当初はメジャーと契約をせず、独自路線で活動を進めていたのですが、2014年にavexと契約。本作はそのメジャーデビュー後5周年を記念したベストアルバムで、全3枚組からなる大ボリュームのアルバムとなっています。

さて今回のベストアルバムは全45曲というフルボリュームで大森靖子の世界を楽しめる構成になっています。女の子の露骨な叫びを書いた歌詞が強いインパクトを与える彼女ですが、そんな彼女の歌詞の大きな特徴のひとつが、女の子の「かわいい」を非常に肯定的に扱っているという点でしょう。ともすれば女性のルックスという点を強調すると、男性に媚びている、あるいは男性が感じる「女の子らしさ」を演じているという印象を受ける可能性があります。まさに女性アイドルなどは、そんな「男性が描く女性像」を女性自らが演じている訳ですが、大森靖子は男性に媚びることなく、女の子のありのままのかわいさを歌詞の中で歌っています。

楽曲の中でも「GIRL'S GIRL」などはまさに女の子がありのままにかわいく生きろと主張している曲ですし、「絶対彼女」の中で「絶対女の子絶対女の子がいいな」と歌うなど、まさにかわいいありのままの女の子を肯定し、応援しているのが彼女の大きな特徴です。

男性に媚びることなく、女の子のかわいさを肯定・応援しているという点は、女性らしさを武器にしながらも一切男性に媚びないスタイルを貫く椎名林檎に通じる部分を感じます。ただ、彼女自体、「〇〇に似ている」という評価のされ方をとても嫌うそうで、そういう意味では椎名林檎との比較はご法度なのかもしれませんが…。

一方で今回のベスト盤でもうひとつの大きな特徴として感じたのは、そんなかわいいを肯定しつつも、どこか自分に対して自信を持てない心境を切なく、時には孤独を感じさせつつ綴った歌詞が目立つということでした。ある意味、典型的なのが「きもいかわ」で、

「ぼくのこと 気持ち悪い 気持ち悪いって思ってるから
もう誰も これ以上 呪いをかけないで」
(「きもいかわ」より 作詞 大森靖子)

という歌詞は聴いているこちらまで切なくなってきます。この自分のことを肯定できない感情や、それゆえに生まれる世間に同調できな孤独感を歌詞にした、といえば、まさに神聖かまってちゃんに通じる部分があり、実際、「非国民的ヒーロー」ではかまってちゃんのの子とタッグを組んでいます。

もっともそんな孤独を歌いつつ、一方では生きることへの渇望も歌にしており、その典型的なのが「ZOC実験室」。最後に「殺せ」と連呼しつつ、最後の最後は「生きろ」で締めくくっている点、聴いていてこちらもゾクゾクっとくるような歌詞の構成になっています。

そしてそんな歌詞がのるのが非常にバラエティー富んだ音楽性。パンクやガレージ、ハードロックなどのロック系の曲から、アイドルポップ風、モータウン風、エレクトロ、トランス、サイケなどまさにバラエティー豊富。彼女の幅広い音楽性を感じます。ただ、音が分厚くにぎやかな曲が目立つのも特徴的。結果として、本来は全面に押し出されるべき歌詞が、にぎやかなサウンドの後ろに下がっている曲も少なくありません。正直言って、若干歌詞とサウンドのバランスが悪いという点、彼女のマイナス要素のように感じました。

今回のベスト盤リリースは彼女にとってもひとつの区切りだったのでしょうか。ただ、このベスト盤リリース後も、おそらく大きくそのスタイルを変えることなく、いままでと同様に激しい女の子の叫びを聴かせてくれるでしょう。この唯一無二なシンガーソングライターからは今後も目が離せなさそうです。

評価:★★★★★

大森靖子 過去の作品
洗脳
トカレフ(大森靖子&THEピンクトカレフ)
TOKYO BLACK HOLE
kitixxxgaia
MUTEKI
クソカワPARTY


ほかに聴いたアルバム

note-book -Me.-/ちゃんみな

note-book -u.-/ちゃんみな

2作同時リリースとなった女性ラッパー、ちゃんみなのEP盤。「note-book」というタイトルは、普段自分の想いや歌詞を書き溜めているノートをそのまま作品にして世に届けたい、という想いから名付けられたのだとか。そんな2枚のEPのうち「Me.」はちゃんみな自身を主観的に見て、「u.」は客観的に見て制作されたとか。どちらも歌モノの作品が多いのですが、確かに「Me.」は恋に敗れた時のちゃんみなの心境を内面から綴ったような歌詞が目立ちます。特に今時のトラップのビートを入れているのですが、これが哀愁感あるメロと歌詞にピッタリとマッチ。なにげに日本的なウェットな作風とトラップのリズムは相性よいのでは?

「u.」は歌詞もさることながらも「In The Flames」のピアノバラードの美しさに耳を惹きますし、ちょっと80年代を感じるエレクトロポップ「Baby」も音楽的に魅力的。ただ、自らの活動を思いっきり自負している「KING」の歌詞は、「これが客観的に見た歌詞?」とちょっと思ってしまいましたが…。女性としての心境を素直に吐露する歌詞も印象的ながらも、サウンド的にも惹かれるものがあるEPでした。次のオリジナルフルアルバムも楽しみです。

評価:どちらも★★★★

ちゃんみな 過去の作品
CHOCOLATE
Never Grow Up

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