映画発の「企画バンド」でしたが…
Title:THE KEBABS
Musician:THE KEBABS
今回紹介するTHE KEBABSは、もともと当サイトでも紹介したthe pillows30周年記念の映画「王様になれ」のため、山中さわおがa flood of circleの佐々木亮介とUNISON SQUARE GARDENの田渕智也に出演を依頼した時に、映画のために架空のバンドを結成して欲しい、と依頼したのがはじまり。そのように映画の中のバンドとして結成されたTHE KEBABSですが、よっぽど馬が合ったのか、元serial TV dramaの新井弘毅と元ART-SCHOOLの鈴木浩之を誘い、そのまま正式にバンドを結成。そしてリリースされたデビューアルバムが本作となります。
その映画「王様になれ」の劇中歌「枕を変えたら眠れない」は聴いたことあったのですが、アルバム単位で聴くのはもちろん本作がはじめて。正直言って、映画でも劇中歌でもTHE KEBABSについてさほど強いインパクトは受けなかったのですが、今回、アルバムでこれが予想以上に良い出来栄えになっており、驚いてしまいました。
楽曲のタイプとしてはバンドサウンドを前面に押し出したパンクロック。ボーカルをつとめる佐々木亮介はしゃがれ声でがなり上げるタイプのボーカリストなのでガレージロックの様相が強く、「ホラー映画を観よう」や「猿でもできる」はガレージロックなナンバーになっているのですが、a flood of circleに比べると、かなりパンクロックに寄った楽曲になっています。1曲目の「オーロラソース」や「メリージェーンを知らない」などライブでも観客みんなで歌い上げそうな、メロディアスパンクの楽曲。佐々木亮介とパンクロックの意外な相性の良さを感じてしまいます。
そしておそらくTHE KEBABS最大の魅力は、へヴィーなバンドサウンドをカッコよく聴かせつつも、メロディーに関してはインパクトあるポップなメロディーラインになっているという点でしょう。まずバンドの大きな特徴としてメンバー4人のうち3人までがソングライターとしてそれぞれ活躍しているミュージシャンであるということ。特に田渕智也は、今をときめく人気バンド、UNISON SQUARE GARDENのメインライターであり、このアルバムでもTHE KEBABS名義の楽曲以外に4曲も単独名義で作曲を手掛けています。
おそらく田渕智也はTHE KEBABS名義の楽曲についても多大な貢献をしているものと思われますが、このアルバムに収録されている楽曲については、楽曲としてJ-POP的なキャッチーな、フックの効いたメロディーを書きつつも、佐々木亮介のボーカルやへヴィーなバンドサウンドにもマッチするようなロッキンなメロディーをしっかりと書いてくる勘の良さは、さすが人気バンドのメインライター、と感じてしまいます。特にa flood of circleでもJ-POP的なポップなメロディーの曲も少なくないのですが、同じ佐々木亮介がボーカルをとってもa flood of circleの曲で感じるような、良くありがちでベタさを感じるつまらないメロディーライン、という曲が皆無だった点、田渕智也の力量を感じます。
また、ほかにもモータウンビートを入れた「THE KEBABSがやってくる」やハイテンポでどこかユーモラスな要素が強い「恐竜あらわる」、語りを入れてダークな雰囲気を醸し出す「ホラー映画を観よう」やダンサナブルな「猿でもできる」など、単純なパンクロック、ガレージロックにとどまらないスタイルを聴かせてくれている点は、やはりソングライターが3人もいる強みなのではないでしょうか。
さらに今回のアルバムの特徴として下北沢GARDENで行われたライブの模様を収録したライブアルバムになっているという点でしょう。そのため、非常に疾走感を覚える録音となっており、バンドとしてのうまみをしっかりと凝縮した内容に仕上がっていました。ロックバンドTHE KEBABSの良さをもっともよくあらわすことの出来るスタイルだったのではないでしょうか。ライブの空気感もしっかりと伝わってくる録音になっていたと思います。
そんな訳で、予想外に素晴らしかったTHE KEBABSのデビューアルバム。メンバー、特に佐々木亮介と田渕智也は自分のバンドの活動もあるため、コンスタントに、という訳にはいかないかもしれませんが、是非、今後も活動を続けてほしいなぁ。この2人にバンドを組ませるという山中さわおの慧眼もさすがです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ZIG ZAG/木村カエラ
木村カエラのニューアルバムは5曲入り、ただし1曲はリミックスなので実質的には4曲入りとなるミニアルバム。ラッパーのBIMとコラボしてHIP HOPを大幅に取り入れたタイトルチューン「ZIG ZAG」にへヴィーなミディアムロック「時計の針~愛してもあなたが遠くなるの~」に軽快なギターロック「Wish upon a star」に、彼女らしさがもっとも出ていた軽快なポップチューン「おはようSUN」まで、4曲ともスタイルはバラバラなのですが、いずれも聴いていて楽しくなるポップチューンが並んでおり、いずれも木村カエラらしさが良く出ているミニアルバムだと思います。次の作品も楽しみです。
評価:★★★★
木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
¿WHO?
いちご
Harmonize e.p/sumika
4曲入りとなるsumikaのミニアルバム。1曲目「センス・オブ・ワンダー」は軽快なニューオリンズ風、2曲目「ライラ」はアップテンポなポップス、3曲目「No.5」はメロウで歌謡曲風の楽曲、そしてラストの「エンドロール」はピアノとストリングスでしんみり伸びやかに聴かせるナンバーと4曲4様のスタイルを楽しませてくれる、sumikaのポップバンドとしての幅の広さを感じるアルバムとなっていました。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2020年」カテゴリの記事
- 円熟味の増した傑作アルバム(2020.12.28)
- 自由度の高い音楽性(2020.12.27)
- いつもの彼女とは異なるサウンド(2020.12.26)
- Gotchの才が発揮されたソロ3枚目(2020.12.25)
- 今の時代を描いたミニアルバム(2020.12.22)
コメント