澄んだ歌声が魅力
Title:小鳥観察 Kotoringo Best
Musician:コトリンゴ
2006年に坂本龍一のレーベルcommmonsよりデビュー。決して派手な活躍はなかったものの、シンガーソングライターとして着実にその歩みを進めていたコトリンゴ。2013年にはKIRINJIにも加入(その後2017年に脱退)し話題となったほか、最近ではドラマやアニメ、映画などへの楽曲提供でその名前を聴く機会が多くなってきました。特に大ヒットした映画「この世界の片隅に」へ楽曲を提供。彼女が作曲した「みぎてのうた」が話題になったほか、その歌声も大きな話題となりました。
本作はそんな彼女の初となるベストアルバム。2枚組の作品となっており、Disc1は彼女のオリジナル作が収録し、Disc2では彼女がいままで参加してきた数多くのプロジェクトでもコラボ作を収録しています。
さて、そんな彼女の最大の魅力は、なんといってもその歌声でしょう。透き通るような美しい歌声ながらも、どこか暖かさを感じます。軽快な歌声にはかわいらしさも感じられます。ウィスパー気味の歌声というと、比較的無機質で、ちょっと冷たさを感じさせるボーカルが多いのですが(ただ、もちろんそれもひとつの魅力なのですが)彼女の歌声は、ちょっと鼻にかかったような歌声も人間味を感じ、また表現力も豊か。ボーカリストとして強い魅力を感じます。
この彼女の歌声は初期の作品から魅力的。また基本的に同じようなスタイルなのでパッと聴いた感じ、あまり大きな変化を感じさせないのですが、今回のアルバムでユニークだったのは、デビュー作「こんにちは またあした」が、2006年リリースのオリジナル作と、2019年に録音したリメイクが収録されています。個人的にシンプルなアレンジの2006年バージョンの方が良かったと思うのですが、瑞々しさの感じられる2006年バージョンと比べると、2019年バージョンはあきらかに落ち着いたボーカルとなり、表現も深みが増しています。この聴き比べが出来るのもこのベスト盤の大きな魅力に感じます。
サウンド的にもピアノやストリングスがメインのアコースティックテイストの比較的シンプルなもの。シンプルがゆえにしっかりと彼女の歌声を引き立てます。ただ、そんな中でも散発的なエレクトロのリズムがユニークな「hoshikuzu」、英語詞の歌も含めて、分厚いサウンドがファンタジックに彩る「Today is yours」、哀愁感たっぷりのストリングスとピアノがダイナミックな「Preamble」、バンドサウンドを入れて軽快で爽快なポップに仕上げている「ツバメが飛ぶうた」など、単純にシンプルなだけのサウンドにはとどまりません。
ほかにもジャジーなピアノにあわせてちょっと歪んだメロディーが独特な「hedgehog」や切ない歌が魅力的な「chocolate」、軽快なメロにかわいらしさも感じる「ツバメ号」など、基本的に彼女の歌声を主軸とした構成の中にバラエティーの富んだ作品が並んでいます。
一方、バラエティーの豊富さという意味ではDisc2が圧倒的。C.O.S.A.×KID FRESINO feat.コトリンゴの「Swing at Somewhere」はHIP HOP、須藤寿GATALI ACOUSTIC SETの「ウィークエンド-Theme from The Great Escape-」はくるりの「ばらの花」やスーパーカーを彷彿とさせるようなエレクトロロック。toe feat.コトリンゴの「HE PASSED DEEPY」ではエレクトロニカ的なサウンドすら登場します。様々なタイプのミュージシャンの曲に参加しているのは、やはり彼女の透き通った歌声が多くのミュージシャンを魅了しているためでしょうか。また、変な癖のない歌声なだけに、いろいろなタイプの曲ともマッチしやすいから、とも言えるかもしれません。
そんなコトリンゴの魅力を存分に味わえるベスト盤・・・なのですが、ただひとつ残念なのは、なぜか「この世界の片隅に」関連の曲が全く収録されていない点。選曲は彼女自身によるそうなので、あえて選ばなかった可能性もあるものの、Disc2ではアニメのサントラなどで収録された曲も別途収録されており、やはり少々不自然。権利関係とか、やはりそういうことなのかなぁ。おそらくもっとも知られているコトリンゴの曲だと思うのですが・・・。もっとも、そんなマイナスポイントもありつつ、ベスト盤としてもやはり非常に魅力あふれる今回のアルバム。確かにフックの効いたメロがなく、派手さという意味ではちょっと劣り、それがいまひとつブレイクにつながっていない要因かもしれません。ただ、この歌声はやはりとても惹かれるものがあります。特に「この世界の片隅に」で彼女の歌声に惹かれた方は、是非。
評価:★★★★★
コトリンゴ 過去の作品
劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック
雨の箱庭
ほかに聴いたアルバム
Inside Your Head/Survive Said The Prophet
人気上昇中の5人組ロックバンド。ハードコアテイストでデス声も入れたヘヴィーでダイナミックなサウンドながらも、聴いた感じは比較的ポップというスタイルは、ロックバンドの持つダイナミズムをストレートに楽しめるバンドといった印象。イメージとしてはONE OK ROCKあたりとファン層が重なりそうか。coldrainあたりに近い印象もあります。洋楽テイストも強く、個人的には自分が中高校生だったらはまっていたかも、という感も。ただ、アラフォーのおやじが聴く分には、悪くはないけど目新しさはなく、サウンド的には大味という印象も。最近、この手のバンドが多いので、その中でこれから、どう差別化していくのかがポイントとなりそう。
評価:★★★
HYPERTOUGHNESS/Fear, and Loathing in Las Vegas
ベーシストのKeiが急逝した後、新メンバーTetsuyaを迎え入れて初となるフルアルバム。トランシーなサウンドにハードコアなサウンドというバランスがユニークなバンド。デス声も入ったヘヴィーなサウンドを繰り広げたかと思えば、軽快でトランシーなサウンドが展開され、このサウンド的な振れ幅の大きさがユニークなところ。非常にインパクトあるサウンドが耳に残るバンドでした。
評価:★★★★
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