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2020年3月 8日 (日)

「原点」に立ち返った作品

Title:Amadjar
Musician:TINARIWEN

おそらく、今、「ワールドミュージック」というカテゴリーにおいて最も知名度の高いミュージシャンの1組、TINARIWEN。「砂漠のブルース」と呼ばれ、世界中の音楽ファンに愛されている彼らですが、2012年と2018年にはグラミー賞を受賞しているほか、前々作「Emmaar」と前作「Elwan」はアメリカでレコーディングを実施。いずれも彼らの出身である北アフリカの音楽を主軸にしつつ、西洋のポップスの影響を強く受けたアルバムに仕上がっていました。特に前作「Elwan」では数多くのオルタナ系ミュージシャンがレコーディングに参加し、大きな話題となりました。

ただ、今回のアルバムはそんなここ最近の2作とはちょっと雰囲気の異なる作品となっています。1曲目「Tenere Maloulat」では荘厳な雰囲気の中、メインボーカルの主旋律にあわせて、みんなで合唱するようなスタイルの楽曲。「Amalouna」もギターとパーカッションで奏でるグルーヴィーなサウンドの中で、コールアンドレスポンスにより、みんなで歌い上げるような楽曲に仕上がっています。「Anina」もギターの音色とパーカッションがポリリズムで複雑なグルーヴを奏でる中で、全員でのコーラスをメインとした楽曲に仕上がっています。

どの曲も、ギターやパーカッションでグルーヴ感あるリズムを奏でつつも、全員でのコーラスワークをメインとした構成になっています。まるでフィールドレコーディングのような感触すら覚えるようなアルバムになっており、砂漠の真ん中でみんなで輪になって歌って作り上げたそんな楽曲…まずはそんな印象を受けました。これがほとんどこのアルバムに関して情報を入手しないまま、まずはアルバムを聴いて感じた感想だったのですが、実際、今回のアルバムはモロッコからモーリタニアの首都ヌアクショットへ長距離移動を行い、その中で道中、キャンプを繰り返しながら、星空の下や大きなテントの中で録音を行った作品だそうで…そういう意味では、まさに楽曲を聴いて感じた印象はそのままズバリだった訳で、今回の彼らのレコーディングスタイルがそのまま曲に反映された、彼らの狙いどおりのアルバムだと言えるでしょう。

思えば前々作及び前作はアメリカでレコーディングを行い、基本的に「砂漠のブルース」という彼らのスタンスは変わらなかったものの、やはりどこかあか抜けた部分があったようにも感じます。今回は彼らの生まれ故郷に近い、モロッコやモーリタニアでのレコーディングにより、あえて彼らの原点に立ち返った作品と言えるのかもしれません。実際に、いままでのアルバムの中で断トツで泥臭さを感じさせる作品となっており、TINARIWENのよりコアな部分が表に出てきたアルバムのようにも感じました。

もっとも、だからといって西洋ポップスの要素と手を切ったわけではなく、今回も西洋のポップスミュージシャンがゲストで参加。「Wartilla」ではストリングスの音色が入っており、砂漠の中の一服の清涼感を醸し出しているのですが、ニック・ケイブとのコラボで知られるウォーレン・エリスがバイオリンで参加。ほかにもウィリー・ネルソンの息子で、ニール・ヤング・バンドにも参加しているミカ・ネルソンやSunn O)))のステファン・オマリーらがゲストとして参加しているそうです。

ちなみに今回のアルバムタイトル「Amadjar」とは、彼らの母語であるタマシェク語で“foreign traveler”、“unknown visitor”の意味だそうで、まさに「旅」をテーマとした今回のアルバム。そのテーマ性ゆえに、彼らの「原点」がより表にあらわれたそんなアルバムに仕上がっていました。もちろん、原点に返った泥臭さが魅力的とはいえ、メロディアスでしっかりと聴かせる歌を聴かせてくれており、決して聴きにくいアルバムではありません。毎回、素晴らしい作品を聴かせてくれる彼らですが、今回もまた、非常に魅力的な傑作アルバムを聴かせてくれました。

評価:★★★★★

TINARIWEN 過去の作品
IMIDIWAN:COMPANIONS
TASSILI
EMMAAR
Live in Paris(不屈の魂~ライヴ・イン・パリ)
ELWAN


ほかに聴いたアルバム

Moral Instrucition/Falz

まだ続いています。2019年の各種メディアのベストアルバムで、まだ聴いていなかったアルバムを後追いした1枚。本作はMusic Magazine誌ワールドミュージック部門第4位。ナイジェリアの男性ラッパーによる作品。全編、フェラ・クティのサウンドを大胆にサンプリングし、ナイジェリアの社会の不公正に切り込んだ社会派な作品に。フェラ・クティのサウンドによるトライバルなリズムも気持ちよいのですが、どこか哀愁感も覚えるメロディアスな雰囲気が楽曲全体に漂い、カッコよくもいい意味で聴きやすさも感じたアルバムでした。

評価:★★★★

World War Joy/The Chainsmokers

アメリカの人気DJ2人組ユニットによるニューアルバム。全編エレクトロの軽快なサウンドが魅力的な一方、男女デゥオにより聴かせる、悲しげでメロディアスな歌も魅力的なアルバム。郷愁感あるメロディーラインは日本人受けもしそうな感じ。目新しさはないのですが、リスナーが期待した通りの楽曲をしっかりと届けてくれるといった感じのポップソングが魅力的なアルバムです。

評価:★★★★

The Chainsmokers 過去の作品
Memories...Do Not Open

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