最高にカッコいいカバーアルバム
Title:LIVE FOR TODAY! -SHEENA LAST RECORDING & UNISSUED TRACKS-
Musician:シーナ&ザ・ロケッツ
ギタリスト鮎川誠と、彼女の妻、シーナを中心として1980年代から活躍を続けるロックバンド、シーナ&ザ・ロケッツ。2016年にシーナが61歳という若さで急逝。日本を代表する女性ロックボーカリストのあまりにも早い死は多くのロックファンに大きな衝撃を与えました。その後もシーナの遺志もあり、バンドの活動は継続していますが、オリジナルアルバムは2014年の「ROKKET RIDE」を最後にリリースが止まっていました。
しかし、そんな中リリースされたニューアルバムが本作。バンドが影響を受けたミュージシャンのカバー曲を、レコーディング時のアウトテイクやセッション、デモ音源や、既に廃盤となっているレア音源などからピックアップし1枚にまとめたのが作品になっており、ファンとしてはかなりうれしい、まさに「オリジナルアルバム」的な感覚で聴ける作品になっています。
その影響を受けたミュージシャンの選曲が、またバラエティー富んでいてユニーク。鮎川誠がかつて所属していたサンハウスの曲や、彼らと親交があったRAMONS、さらにはローリングストーンズ、KINKS、チャック・ベリーといった、シナロケのイメージから影響がわかりやすいミュージシャンから、ソロミュージシャンのBARBARA LEWIS、オノ・ヨーコ、さらにはグループサウンドのテンプターズのカバーも収録。彼らが様々なミュージシャンから影響を受けたことを伺わせます。
そんな彼らのカバーですが、これが曲によってはある意味、曲によっては原曲以上にカッコいいのでは?とすら思わせるような、シナロケ流に解釈したロックカバーが非常に素晴らしいカバーに仕上がっていました。基本的にはシーナのしゃがれ声のパンキッシュなボーカルに鮎川誠のエッジの効いたギターリフのブルージーなギターを中心としたバンドサウンドをベースとしたアレンジが中心。シーナの声は、完全につぶれた独特のボーカルで癖があるものながらも、鮎川誠のギターと、まさにパズルのピースがきっちりと重なるかのように、この2人ではないと作り出せないようなボーカルとギターの見事なマッチングを聴かせてくれています。今回のカバーでは、そんなシーナのボーカルと鮎川誠のギターが実に上手く生かされているカバーばかりが並んでいました。
今回のアルバムで個人的に特に印象的だったのがKINKSの代表曲「You Really Got Me」のカバー。へヴィーながらも軽快なギターリフに、シーナのシャウトがピッタリとマッチ。原曲の持つカッコよさをさらに増幅させたような最高にカッコいいカバーに仕上がっています。また、THE TROGGSの「WILD THING」のカバー音源も印象的。2000年のライジングサンのステージを収録したカセット音源だそうで、鮎川誠自ら「シナロケがライブでどんだけ大きな音を響かせているか皆に聴いて欲しかったのと、それを超えて突き抜けるシーナの声とシャウト、さらに会場のファンの怒涛の声援がビューティフルに一つに合わさって記録されているのを聴いて欲しくて選んだ」と言っています。実際、音源はカセット音源のためかなり状況は悪いのですが、それ故にシナロケのライブの迫力と魅力がリアルに伝わってくるようなライブ音源に。カバーという以上にシナロケのライブの記録として貴重かつ聴きごたえのある1曲となっています。
さらにラストを締めくくる「MY BONNIE」も印象的。特に出だしは静かなギターをバックにシーナが哀しく歌い上げており、いつものしゃがれ声でシャウトを振りかざす彼女とは異なる、非常に物悲しく表現力豊かなボーカルが印象に残ります。一方、途中からバンドサウンドが入ってくるといつも通りのシャウトに。この曲以外でも彼女のソロ曲のカバー「ボントンルーレ」でも軽快でポップな歌声を聴かせてくれており、シーナのボーカリストとしての豊かな表現力も感じることが出来ます。
そしてなにより今回のアルバムの目玉のひとつはシーナのラストレコーディングで収録された7曲がおさめられている点。特にサンハウスのカバーで、シナロケのライブの定番曲でもあった「レモンティー」は2014年4月10日に行われた、シーナの生前最後のレコーディング音源。鮎川誠は「これが最後になるとは思ってもいなかった」と語っていますが、本当にこれが最後とは到底思えない迫力あるボーカルが魅力的。パンキッシュでシャウトに聴かせつつ、一方では時折セクシーさも垣間見せる、ライブなどで歌い慣れた曲なだけに、シーナのボーカリストとしての魅力が存分に発揮された録音となっています。
あらためてシーナ&ザ・ロケットというバンドが実にカッコいいバンドだったんだなぁ、ということを実感できる素晴らしいカバーアルバム。カバーとはいえ、どの曲もシナロケ色にしっかりと塗られており、彼らのオリジナルアルバムといっても過言ではない傑作に仕上がっています。それだけにシーナのあまりにも早い最期が、あらためて惜しまれます。ただシナロケ自体はいまでも活動を続けているだけに、これからも鮎川誠はカッコいいギターを弾き続けるんでしょうね。一度、ライブも見てみたいなぁ。
評価:★★★★★
シーナ&ザ・ロケッツ 過去の作品
ゴールデン☆ベスト シーナ&ロケッツ EARLY ROKKETS 40+1
ゴールデン☆ベスト シーナ&ロケッツ VICTOR ROKKETS 40+1
ほかに聴いたアルバム
未熟もの/中村中
前作「るつぼ」は社会の中で疎外された人たちの心境をテーマとしたアルバムになっていました。本作はいわばその続編的な内容となっているアルバム。今回は前作でテーマとした社会の問題から日常にひそむ問題に視点をシフトしつつ、前作同様、弱者からの視点で曲を作り上げたということだそうです。そのため、今回のアルバムも社会の片隅で、どこか疎外感を覚えているような人たちをテーマにした歌詞が印象的。ただ、ちょっと抽象的な表現が多く、インパクトという面では前作より薄かったのがちょっと残念。もうちょっと具体的な物語性のある歌詞の方がテーマにもしっくり来たのでは?ただ、やはり悲しい歌詞を中性的な力強いボーカルで聴かせる彼女の歌は非常に魅力的。もっともっと売れてもいいシンガーだと思うのですが・・・。
評価:★★★★
中村中 過去の作品
私を抱いて下さい
あしたは晴れますように
少年少女
若気の至り
二番煎じ
聞こえる
世界のみかた
去年も、今年も、来年も、
ベター・ハーフ
るつぼ
児童カルテ/神聖かまってちゃん
なんと、メンバーのちばぎんが、このアルバムとその後のツアーを最後に脱退を発表。オリジナルメンバー4人では最後となってしまったかまってちゃんの新作。社会の片隅で疎外された人々を描く、という意味ではまさに彼らも中村中と同じテーマで歌い続けています。特に彼らに関しては、「るるちゃんの自殺配信」や「ゲーム実況してる女の子」など、より現代的。かつ、明確な主人公が登場してくるのが特徴的になっています。以前のようにエキセントリックな楽曲は少なくなったのですが、一方ではいい意味で安定感も出てきて、彼らの主張もはっきりしてきた印象が。ただ、今回のアルバムではここ何作の中では少々インパクトが薄めで、印象が薄かった印象もあります。今後はメンバー3人で活動を続けて行く彼ら。もっとも、彼らの主な方向性を決めているの子は健在なだけに、方向性はこれからも大きくは変わらないとは思うのですが・・・これからの活動に注目したいところです。
評価:★★★★
神聖かまってちゃん 過去の作品
友だちを殺してまで。
つまんね
みんな死ね
8月32日へ
楽しいね
英雄syndrome
ベストかまってちゃん
夏.インストール
幼さを入院させて
ツン×デレ
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