AOR風のメロディーラインが大きな魅力に
Title:The Slow Rush
Musician:Tame Impala
オーストラリアのミュージシャン、ケヴィン・パーカーによるソロプロジェクト、Tame Impala。アルバムをリリースする毎に高い評価を得て、大きな評判を呼ぶ彼の作品ですが、本作は前作「Currents」から約5年というインターバルを経てリリースされたアルバムで、待ちに待った、待望のアルバムと言っていい作品になっています。
Tame Impalaというと、幻想的なサイケサウンドに人なつっこいメロディーラインが大きな魅力。ただ、その中でも「LONERISM」は60年代70年代あたりを彷彿とさせるようなギターサウンドを取り入れた楽曲が大きな特徴となっていたのですが、前作「Currents」では歌により主軸を置き、80年代的な作風となったアルバムにシフトしていました。そして今回のアルバムに関して言うと、前作「Currents」からの流れを感じさせる、80年代的な要素を感じさせつつ、歌を聴かせるアルバムに仕上がっていました。
アルバムの冒頭を飾るのは「One More Year」。オープニング的な要素の強い作品なのですが、ドリーミーでサイケなサウンドの中で、メロディアスな歌が流れる作品になっており、アルバム全体の流れを示唆するような楽曲からスタートしています。そしてそれに続く「Instant Destiny」はいきなりケヴィンのファルセットボイスからスタート。メロディーもサウンドも、80年代のAORからの影響が顕著な作品になっており、懐かしさすら感じる作品になっています。そして続く「Borderline」も同じく80年代AOR風のナンバー。哀愁感たっぷりの泣きメロも印象的な美しい歌を聴かせてくれる楽曲に仕上がっています。
このドリーミーなエレクトロサウンドに哀愁感を帯びたAOR風のメロディーラインという傾向は今回のアルバム全体に続き、続く「Posthumous Forgiveness」は、さらにこの哀愁感を推し進めた悲しい雰囲気の楽曲。特にアルバムに流れるギターのサウンドは日本人にとっては歌謡曲的にすら聴こえるのではないでしょうか。また、楽曲タイトルからして哀愁味を覚える「Lost In Yesterday」も同じく悲しい雰囲気のメロディーラインが大きな印象を受ける楽曲に仕上がっています。
そんな日本人にとってもどこか琴線に触れるようなAOR風のエレクトロチューンが続いていくのですが、一方終盤では「Is It True」でリズミカルなダンスチューンを聴かせるような展開も。さらに「It Might Be Time」ではヘヴィーで強いリズムが印象的なエレクトロチューンと続き、「Glimmer」はテンポのよい四つ打ちのリズムが印象的なエレクトロダンスチューンに。前半から中盤にかけてはしっかりと歌を聴かせつつ、最後はライブで盛り上がりそうなダンスチューンで締めくくる、このアルバム構成も見事。そして最後は、オープニングと対になるサイケなエレクトロチューン「One More Hour」で締めくくり。全12曲57分。アルバムの長さもちょうど気持ちよく終われる長さとなっています。
アルバム全体の構成も含めて、実に見事と言える今回のアルバム。終始流れるドリーミーでサイケなサウンドも印象的で、軽くトリップ感を味わえますし、そんな中で流れてくるAORなメロディーラインも、どこか懐かしさを感じつつ、胸にキュンと来るような強い印象を与えるインパクトあるものとなっていました。既にいろいろなところで本作も絶賛を受けているのですが、確かにこれは年間ベストクラスの傑作と言って間違いないでしょう。2020年を代表する1枚となりそうです。
評価:★★★★★
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