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2020年3月 6日 (金)

ダークサイドがさく裂

Title:まだいけます
Musician:阿部真央

途中、ベスト盤のリリースもはさみつつ、約1年10か月ぶりとなる阿部真央の新譜。阿部真央といえば、デビュー当初は揺れ動く10代の女性の素直な心境を歌にしつつ、最近は、その「女性の心境」という部分そのままに、赤裸々で攻撃的な本音をギターサウンドにのせて歌い上げるというスタイルを確立してきました。ベスト盤を挟んでリリースされた今回のアルバムも、そんな彼女の攻撃的な歌詞が目立つ作品になっています。特にベスト盤リリース後リリースされたシングルは明るい曲が多かったことから、アルバム収録曲ではあえて攻撃性の高い曲を作成してきたとか。まさにそんな彼女のダークサイドがさく裂したのが本作と言えるでしょう。

そんなアルバムの1曲目は、まさにタイトルそのまま「dark side」。

「あなたの中の私を勝手に愛さないでよ
あなたの中の私はもう息をしてないわ
あなたの中の私はあなたが仕立てたまがい物
あなた何を見てたの? それは私じゃない」
(「dark side」より 作詞 阿部真央)

という、攻撃的ながらも、女性のコアな本音の部分を赤裸々に歌い上げた歌詞が非常に強いインパクトを生んでいます。ある意味、この歌詞のテーマ性はそのまま次の「お前が求める私なんか全部壊してやる」にも続いており、こちらはタイトルそのまま。「dark side」で歌われたテーマがさらに攻撃的に形を変えており、阿部真央のダークサイドがさく裂した曲に仕上がっています。

ダークサイドな側面はラブソングにも表れており、「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」は非常に明るい曲調ながらも、それと反するようなエロチシズムも感じる刺激的なラブソングになっています。貴方と私の関係性については歌詞の中で詳しく描かれていませんが、だからこそ聴き手の想像力がひきたてられる楽曲になっています。

ほかにも「私の売りは孤独」と歌う「テンション」や、おそらくあえてデモ音源的、シークレットトラック的に収録されているラストナンバー「おもしろい彼氏」など、彼女らしさを感じるヘヴィーなラブソングもアルバムの中に多く収録されており、女性心理の奥の奥の部分をそのままさらけ出したような歌詞は、私のような男性リスナーでもドキリと来ます。若干愛が重いなぁ…と感じる部分もあるのですが、それは歌の世界だからこそ(?)、彼女の大きな魅力にもなっています。

ただ、そんなダークサイドがさく裂した曲が並びつつ、全体的な曲調は決して暗くありません。それはアルバム収録曲をあえてダークにしようとするきっかけとなった明るいシングル曲がアルバムの中で大きなインパクトとなっているからでしょう。「どうしますか、あなたなら」も明るいギターロックの楽曲ですし、「君の唄(キミノウタ)」も前向きな歌詞ともども、いかにもJ-POPといった感じの楽曲。ほかにも「pharmacy」なども前向きな歌詞も含めて90年代のJ-POPそのままのような楽曲。ここらへん、ベタといった印象を強く受けます。またアルバム全体としてもシンプルなギターロックナンバーが多いため、目新しさはなく、ともすれば「平凡」とすら感じてしまう点は否めません。

しかし、ギターロックという形でアルバム全体の統一感もあり、かつ「ダークサイド」の歌詞が大きなインパクトとなっている点、そしてなにより、楽曲としてメロディーラインにインパクトもあり、勢いもあることから、アルバム全体としては非常に強く印象に残る作品に仕上がっていたように感じます。なによりも阿部真央らしさがしっかりと表れた作品だった本作。ベスト盤で活動にひとつの区切りをつけた直後の作品ですが、これからのアベマに期待できそうな、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★

阿部真央 過去の作品
ポっぷ
シングルコレクション19-24
おっぱじめ
Babe.
YOU
阿部真央ベスト


ほかに聴いたアルバム

はなたば/シャムキャッツ

シャムキャッツの新譜は5曲入りのミニアルバム。フォークソング、というよりはサニーデイ・サービス直系のフォーキーなポップソングにちょっとサイケデリックさを加えたギターロックがのるスタイルは相変わらず。暖かみのあるサウンドと歌詞も印象に残ります。ここ最近、注目を集めるインディーバンドであって、その評判も間違いないのですが、ただ今回のアルバムを聴くと、もうちょっと彼らだけの個性やインパクトが欲しくなってしまいます…。彼らのツアーを追ったDVDもついているのですが、ただライブ風景を撮っただけの悪い意味でインディーらしい内容で、こちらはあまりおもしろくなかったな。

評価:★★★★

シャムキャッツ 過去の作品
Friends Again
Virgin Graffiti

天気の子 complete version/RADWIMPS

2019年に公開された新海誠監督による映画「天気の子」。大ヒットした映画「君の名は。」に続き、主題歌をRADWIMPSが担当。前作同様、1つの映画に複数の主題歌を提供する形だったのですが、本作はその主題歌のみピックアップ。先日発売されたサントラでは省略バージョンだった主題歌をフルバージョンで収録したアルバムとなります。

ちょっとファンタジックな雰囲気といいそのまま歌われるとちょっと「重い」感じもする歌詞の世界といい、実にRADWIMPSらしいと感じる曲が収録。個人的には「君の名は。」も「天気の子」もまだ見ていないのですが、このRADWIMPSの歌詞の世界観が新海誠監督の世界観ともマッチするのでしょう。ただ、正直、方向性として前作「君の名は。」と似ている感じもありますし、RADWIMPSの楽曲も女性ボーカルを入れたり英語詞にしたりと、ちょっといじりすぎて狙いすぎな感じもあります。映画自体も大ヒットしたものの前作を超えられず、RADWIMPSの曲も前作ほどのヒットにはならなかったにも、全体的に2匹目のどじょうを狙いすぎた感があったのかも??

評価:★★★★

RADWIMPS 過去の作品
アルトコロニーの定理
絶対絶命
×と○と罰と
ME SO SHE LOOSE(味噌汁's)
君の名は。
人間開花
Human Bloom Tour 2017
ANTI ANTI GENERATION
天気の子

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